ゲーム教育に対する議論。大学、専門学校、企業それぞれの立場から

続いて、ミーティングの参加者によるディスカッションが行われました。ゲームを教育に関して、専門学校や大学、企業側それぞれの立場から語りあいます。
まず専門学校の講師から、現場について語られました。「学校に早く来る生徒は、企画合戦を自主的にするなど気力のある子が多い。ゲーム制作は組織でやるものだから、メンバー間で軋轢もあり、チームが割れたり、他のチームにメンバーが吸収されてしまったりということもある。ただ、そうやってやりあって、ゲームが形になっていきます。」
続けてまた「企画書の書き方も、フォーマットを教えたりしますね。最低限、必要なフレームも教えたりします。またコンテストに向けて、ゲームを作りながら学んでいきます」と述べました。岸本氏は「東京ゲームショウへの出展がモチベーションになりますね。東京工科大学でも、そこにゲームを出したいから入学した生徒もいます」と追加しました。「そうしたコンテストの参加が生徒のポートフォリオになりますし、それを元に、就職活動で早々と内定を取る生徒もいます」とのことです。
ディスカッションの議題には「ゲーム教育にあたって、企業側からどんな人が欲しいか」が挙がりました。ゲーム会社で採用を行う参加者からは「学生が“ゲームを作る人”になる力をつけてきてほしい」と語られました。「ゲームを作ることは技能の集まりですから、技能をつけることに夢中になり、かつ飽きないでほしいんです。そうではなければプロになれません。」
専門学校の講師はこの発言を受け、「大抵の生徒が言う“ゲームが好き”というのは、“遊ぶことが好き”という視点なんです。そうではなく、まず作ることを夢中になってほしい。そこからゲームプランナーや、プログラマーに進むことができます。」と続けました。
また大学と専門学校の違いも言及。専門学校の講師からは「大学と違うのは、人として成長させるよりも、企業に就職させることに比重があります。特に専門学校の生徒は中小企業に行く可能性が高く、即戦力が求められるんです。」と事情を説明します。
「現場では積極的に、ゲーム制作の根本的な原理を教えています。手っ取り早いのは型を教えてしまうことですね。ですが生徒にはいずれ型から抜けてもらいたい。“守破離”の守は教えられますが、破は自分で行えるようになってほしい。」と教育を受ける学生の姿勢について話しました。
一方で大学からの参加者は、専門学校との違いをこう語ります。「アカデミアは何を教えてもいいんです。一定の基準を満たしていればいい。」と述べました。「大学では教育論を決めることがスタートだと思います。企業に受けのいい人間の育成よりも、もっと先のことをやろうよ、という姿勢です。」
専門学校側がそうした「先のこと」よりも、就職させることへ比重がかかるのも「学校の運営として、業界への就職率を上げなければならないんです。」と事情が説明されます。その就職率を目的にした教育方針が、弊害を生んでいることも語られました。
では企業が採用した後の育成についてはどうでしょうか?「企業が人を一人前にするのに、5年は必要とも思います」と話題にあがったところ、企業からの参加者からは、「……即戦力が必要ですね。チームとして、今すぐ役立つ人材が必要です」と苦い返答がありました。
そんな状況を聞いた岸本氏は「35年前は、会社に入ったあとで育てばよかったんですが……プログラミングは会社で教えるものでした。いま欲しい人は、社会常識があって、即戦力になってと、世知辛いですね……」と述べていました。

『ぷよぷよ』や『バロック』の米光一成氏もミーティングに参加。米光氏はデジタル・ハリウッド大学で客員教授を務める現場から、辛辣に語ります。「いま漠然とゲーム会社に入りたいとか、ゲーム教育を受けていれば、なんとなく就職できるんじゃないかという学生がダサいですね。その手の学生って、やりたいゲームも保守的過ぎるんです。中学生のころに好きだったゲームを作りたいみたいな。」と問題を述べました。
ゲームを「遊ぶのが好き」から「作るのが好き」に変えるには?

ゲーム教育で重視される点に「学生を、ゲームを遊ぶ人から作る人に意識を変えたいのだが、どうしたらよいか」も挙げられていました。
司会の小野氏は「授業していて、生徒たちはUnityなど、わからないなりに楽しそうに使うんです。8割の学生は作ることが好きだと思っていました。」と語ります。「他の現場では違うのでしょうか?」
この問いかけに対し、参加者が疑問を呈します。「それは本当に作るのが好きな生徒なのでしょうか?授業で言われたことが好きなだけかもしれず、自発的に作ることが好きかはわからないです」と厳しい評価をしました。
「優秀な生徒は自分から動きます。でもそうではない生徒が大半です。その意識をどう変えればいいかが悩みですね。」議論は生徒の積極性がどれだけあるかも言及されました。「ゲームジャムなど、授業外にもゲーム制作のイベントがあります。しかし参加するのはわずか1、2人くらいです。」と苦言を呈する参加者もいました。
岸本氏はそれを受けて、「僕はこういうイベントもあるよ、と生徒にそそのかします。」とポジティブなアプローチを取ることを語ります。一方で「そそのかすのも大事ですが、変に関わると学生が自分を信用しなくなるデメリットもあります。」と、コミュニケーションに慎重な発言もありました。
ゲームを教育するジレンマ

ゲーム教育がままならないことは参加者で共通しており、そこで教育のフレームワークが重要になります。そこで小野氏は「フレームワークの守破離で意識していることはありますか?」と問いかけました。
現場からは「型にはまっちゃっている子もいる。でも型に違和感のある子は、自分でアレンジしていきます。型が嫌な子は自己流でいきますので、心配はしていないんです。」という意見もあるなか、「4年、学校にいてもフレームワークから離れられないのはどうか」と小野氏は問題提起をします。
その解決策として、「いきなりゲームを作らせるのではなく、すでに楽しく遊べるゲームをアレンジさせる。それから次のステップへ進ませます。」という方針を語った参加者のほか、「トップの生徒を伸ばそうとするカリキュラム作りをしています。」と語る参加者もいました。「優秀な生徒のおかげで学校で賞を取ることもあります。正直なところ、できない生徒を切ったほうが効率がいいんですが、ジレンマですね」とトップに注力する難しさも語られました。
小野氏はそれを受け、「専門学校としてはボトムアップ形式を求めていますね。」と述べました。対照的に大学からの参加者は、「大学では目指すものを決めているので、それができない学生は来なくていいんです。」と方向の違いを語りました。
それぞれの立場で、ゲームを教育する難しさが語られた今回のミーティング。総じて印象に残ったのは、生徒の自発性というものをどのように動かしていけばよいかということでした。そこで岸本氏が語ったように、「教えることではなく、場をあたえること」、「そそのかすこと」が大事と思えます。
しかし現実には学校の経営する問題や、企業が即戦力を求める状況であり、立場によっては難しいようです。ゲーム教育はジレンマを抱え続けており、どう解消していくかを問うディスカッションとなりました。
(スライド提供:岸本好弘氏)