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発売から2週間で200万本出荷を達成した『デビル メイ クライ 5(以下:『DMC5』)』。本作の開発に携わったカプコン第一開発部の伊津野氏は、3月30日に大阪にて開催された関西最大規模のゲーム業界勉強会「GAME CREATORS CONFERENCE '19」にて『DMC5』を題材に“感情からリバースエンジニアリングするゲームデザイン”と題した講演を行いました。
講演は、同じく『DMC5』の開発に携わったMatthew Walker氏が「今日は英語で話します。」とジョークを飛ばしリラックスした中で始まりました。
■感情からリバースエンジニアリングするゲームデザインとは
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伊津野氏はいつもゲームを作るときに、ユーザーにどんな感情になってほしいか、どうすればその感情になってもらえるかを考えるとのことで、「感情とは、感動した、気持ちよかったなどゲームをするモチベーションになる気持ちである」と述べました。
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次に、伊津野氏は目的と手段について「手段はいくつもあるが、プロジェクトが進んでいくと手段の達成が目的にすり替わってしまうことがある。特にエンドで作業をしているスタッフに起こりがちな事なので、手段の難易度と優先順位を明確にしてからプロジェクトを進める方がよい」と語りました。伊津野氏自身の場合は目的と手段が同時に思いつくので、プロジェクトの実現性の高さにつながっているとも述べています。
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伊津野氏は現在、ドキドキワクワクをテーマにした新プロジェクトに取り組んでおり、この感情をチームメンバーに経験してもらっているとのこと。その経験について「どんなドキドキワクワクがあるのかを事前に想像し、メンバーで話し合うことが大切。実際に経験後、想像と比べてどう感じたかを再度メンバーで話し合って生じた感情の差分がゲームデザイナーとしての財産になる。」とコメント。
また、「想像より経験した内容がつまらなかった場合、自分の想像力のほうが面白いことを考えられたので、その面白さをゲームに入れてユーザーの想像を超えた経験をゲームで提供できる。その逆の場合は、何が優れていたのかを分析、吸収してゲームに取り入れることができる」と話しました。
伊津野氏も自身のトライアスロン完走(会場からは拍手が起きていました。完走おめでとうございます)、4歳の頃に感動したアニメと、そのアニメの劇場版を32歳のときに見て感動した経験を熱く語り「4歳でも32歳でも同じように、感動は何によって引き起こされたのかをロジック分析することが大切」とし、「感動を正確に特定できればゲームに取り込むことは比較的容易。ただし、感動した本当の原因と感動を増幅させた要因を混同しないように注意が必要」と述べています。
■『DMC5』を題材にゲームデザインを読み解く
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ここから講演の内容は『DMC5』に移り、伊津野氏は同作のテーマは「挫折と覚醒」で、主人公たちの挫折と覚醒についてパネルを使って説明していきました。
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伊津野氏は『DMC5』でやりたかったこととして「ネロの覚醒を最高のタイミングでユーザーに届けたかった。二人を止めるときにネロの長髪が髪になびく演出がやりたくて、デザインを設定した。やりたい表現があったからネロの長髪という設定は生まれた」とデザインについて触れました。
また、「全ての企画・シーンや事象に明確な目的、表現したいものがある。もし、自分が担当している作業の目的を他人に説明できない場合は発注者に目的を再確認するべき」と会場へアドバイスを送りました。
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ネロのパワーアップについても、セオリー破りなゲームデザインにしたとのことで、「アクションゲームでは主人公がフルパワーアップするのは全体の2/3くらいというのがセオリー。でも、最後の最後にフルパワーアップにしたかったので、最終のミッション20でフルパワーアップ状態にする……つもりだったが、エンディング後のスタッフロールでさらにパワーアップして超フルパワーアップするようにした」と伊津野氏は語っています。
そのため、スタッフロールの一番最初にはスタッフの名前ではなく、超フルパワーアップ時の操作方法が表示されるそうです。
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伊津野氏は「セオリーを破っているのはよくわかっているが、最後の最後でユーザーを感動させたい。ディレクターのわがままだが、どうしてもやりたい」と2015年に『DMC5』開発チームで実施した伊勢志摩での合宿で説明したとのこと。
この合宿はメインスタッフが同じゴール地点を見るために開催し、すべてのミッション構成、体験版での使用シーンの決定、E3での展示内容などがほぼここで決まっていたとのことです。
伊津野氏自身、今回の登壇のために3年前の資料を見なおし、合宿時の資料そのままにプロジェクトが進行していて驚いたとのこと。
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伊津野氏はアクションゲームの真理とは、苦労してクリアした感動だと考えていると話し、どうすればこの感情にユーザーはなってくれるのかと聴衆に問いかけ、アクションゲームであれば次の3つの要因があると述べました。
「敵に勝つ方法を自分の力で見つける」「その方法を実現するため、自分の腕を鍛える、練習する」「練習は面倒でつらいので、練習をあきらめさせない」こういった感情へ導くロジックを出すことができればゲームデザインの上級者だと思うと語りました。
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「勝利する方法を自分の力で見つける」ことについて、伊津野氏はユーザーが悪魔の攻略方法を自分で見つけ出したと思えるようにゲームデザインをする事と、民族、国、地域の違いに影響されにくい価値観を元にキャラクターをデザインすることが大切だと述べています。
例として、悪魔のデザインの採用理由を挙げ、ある悪魔は背びれが刃になっていて、丸まって突進してくるとユーザーは予想しやすいデザインにし、赤い悪魔のフューリーのデザインが自信ありげで知性のあるポーズを採用したのは、明らかに手ごわい敵だとユーザーに伝わるからだ、と語りました。
また、カプコンのローカルルールで赤い敵は強いというのがあり、フューリーと名前が決まるまでレッドアリーマーと仮称がついていたと語り、来場者から笑いが起きていました。
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「その方法を実現するため、自分の腕を鍛える、練習する」ことについて、伊津野氏はネロのイクシードというシステムを挙げています。これはネロの攻撃終わりにボタンをタイミングよく押すとブーストゲージが溜まるもので、大当たり、中当たり、小当たりと3段階のデザインを行ったとのことです。「イクシードシステムは『DMC4』でも存在していたが、入力タイミングがシビアでユーザーが挑戦すること自体を諦めがちだったため、『DMC5』ではユーザーが挑戦そのものを投げ出さないようにした」と述べています。
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『DMC5』では、レッドオーブというゲーム内通貨を使ってコンティニューができますが、レッドオーブの支払額によって回復値を変化するようにデザインし、少額では体力回復も少なく、最高額だと自分の体力は完全回復し敵の体力も半分になるようになっています。
この意図について伊津野氏は「コンティニューするときにユーザーはどう考えるか?敵の体力はあと少しのところでゲームオーバーになったから、少額の回復でも大丈夫だろう。と判断した時、ユーザーは自分の判断に賭けている」とユーザーの心理を分析。
続けて「もしゲームオーバーになった場合、ユーザーは自分自身のせいと判断する。ゲームオーバーの時にユーザーの不満は最も溜まりやすく、あきらめてしまうので、もう一度チャレンジしてもらうように設計している」と語りました。
■質疑応答
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講演が終わり質疑応答に移ると参加者からは、講演の内容を咀嚼した質問がありました。講演の内容をより深く理解できる質疑応答ですので掲載しています。
Q:ゲームデザインで、一つの敵の倒し方はいくつか方法があるのはなぜですか。
A:『DMC』シリーズでは敵の最適な倒し方を最低でも2種類以上用意するように開発している。1つしか倒し方がないとその方法ができない場合ユーザーは感情のいきどころがなくなる。また、ユーザー間で倒し方を話し合うこともできるため最適な倒し方を複数用意した。(伊津野氏)
Q:自分の経験、得られた感動の要素分析についてですが、1日や1回何かを体験した感動もあれば、何年も体験を積み重ねた結果の感動もあると思う。後者の場合は分析が非常に難しいがどのように分析しますか。
A:個々人の差もあって感情分析できない人もいる。こまめに細かく分析する。分析した結果、その要素がなければどうだったのか?を考える。この要素がなければ感動は大きかったのか、小さかったのかをこまめに細かく分析することが大切。また、感動した要因だったのか、増幅の演出だったのかの判断を誤ることはあるので、注意が必要。(伊津野氏)
Q:「感情からリバースエンジニアリングするゲームデザイン」の考え方は、チーム全体で共有することが大切だと感じました。チーム内で同じ考え方に近づくトレーニングや、しくみがあれば教えてほしい。
A:今のチームではプランナーを全員集めて、自分のすごい面白かったイベントや経験をプレゼンしてもらい、その中で一つを選び、実際に体験する。そして体験する前に、その経験はどう感じるのかどのようにドキドキワクワクするのかを想像し話し合う。期待を最大限に膨らませて参加し、冒頭に話をした差分を検証する。注意点としては、よかったです。つまらなかったです。で終わってはいけない。もっとドキドキワクワクさせるにはどうすればよいのか?を話し合ってどんどんアイデアを出し、理想を高くする。(伊津野氏)
なお、『DMC5』では4/1からは追加DLCの「Bloody Palace」が遊べるようになっているのでもう一度自身の感情から逆算して『DMC5』をプレイしてみてはいかがでしょうか。