
近年では原作者もゲームシナリオに積極的に加わり、クォリティの高いオリジナルシナリオが提供し続けているのも原因の一つと言います。一体どのようにゲーム開発者が加わる体制を整えることができたのか。その成功の秘訣が9月6日にパシフィコ横浜で開かれた「CEDEC 2019」で行われたセッション「IPタイトルを成功させる3つの視点~ライセンス・プロモーション・プロデュース~ 『ダンまち~メモリア・フレーゼ~』の事例」で明らかにされました。

セッションには、作品のプロデューサーを務めたグリー株式会社の野澤武人氏、プロモーターを務めた同社チームマネージャーの小泉義英氏、ライセンスマネージャーを務めた同社ライセンス事業部の武田豊氏の3人がそれぞれの立場から語りました。

まず、どのような経緯でゲーム化になったのか。発端は5年前に遡ると言います。「当時グリー社内では、新しいゲーム化できそうなコンテンツを探しており、漫画原作のものが一巡していた当時の状況から、漫画に代わるジャンルを開拓しようとしていた」と武田さんは当時を振り返ります。そこで、当時ライトノベルとして注目を集めていた「ダンまち」に白羽の矢が立ったといいます。当時「ダンまち」はアニメ化が決定する前でしたが、その早い段階から目を付けていたことになります。最初のうちは、外部のゲーム開発会社と相談を重ねながらゲーム化を模索していました。



その後、2015年4月にアニメ1期が放送されます。ヒロインのヘスティアをはじめとするキャラクター達が世界的な人気になると、極力アニメ放送中にゲーム開発を進めるべく、開発期間の短いブラウザゲームという形での配信が決定しました。結果、アニメ1期終了から半年ほど経った15年12月に『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか クロス・イストリア』(以下、『クロス・イストリア』)がグリーのサイト上でリリースされます。この作品が当時の社内新作タイトルの初速最高値を記録し、改めて「ダンまち」のコンテンツやファンの熱量を実感したといいます。

この成功から、ブラウザゲームという形ではない、ネイティブゲーム化をしてみないかという話があり、『ダンメモ』の構想が浮上します。『クロス・イストリア』はカードゲームという形式を取っていましたが、この新作ゲームはどのようなジャンルにするかという検討が行われることになりました。


「ダンまち」の特徴として、RPGそのままを題材にしたような作品であり、またキャラクター数が多いという特徴がありました。「多く登場するキャラクターそれぞれに性格が立っており、また戦闘にも参加するところから、スマートフォンゲームにうってつけであった」と野澤プロデューサーは述懐します。そしてゲーム化にあたり、市場調査を実施しました。当事社内でたくさんの製作ラインが走っており、すぐに本開発に進むことが出来なかったため、その間に市場調査をしてなるべく内容を固めていこうとした狙いがあったといいます。

市場調査の内容は、まずインストール数がどれぐらいになるのかという点がありました。数の見積もり方法は「スマホゲームユーザー」かつ「『ダンまち』を知っている人」かつ「『ダンまち』がもしスマホゲーで出たらやりたい方」とアンケートでシンプルに調査しました。これを日本の人口比率と照らし合わせてインストール見込み数を試算していきました。この狙いについて野澤プロデューサーは「見込み数を算出することで、ビジネスの可能性がどれくらいあるのかというのを測りたかった。市場調査をしたことで『ダンまち』のファンにターゲットを絞っても事業が成立し、ビジネスとしての確信を持てた」と言います。結果的に、この試算数は『ダンメモ』リリース後3ヶ月のインストール数と一致したということです。


さらに「ダンまち」望むものは何かという調査を実施。すると、キャラクターや世界観が好きと回答した人が多く、バトル要素はそこまでではないということが判明します。そのため、RPGではあるものの、バトルよりキャラクターの成長や物語にゲーム性を振っていくべきと導き出しました。また、「声優が好き」と答えた方も多く、そして女性が10%というところから、かなり男性に寄ったコンテンツであることがわかっていたので、プロモーション面での方針も立てられたといいます。

『ダンメモ』のリリースは17年5月を目標としていました。この時外伝のアニメ「ソード・オラトリア」が放送予定であったため、これに合わせての公開を予定していたためです。そうすると開発期間が9ヶ月しかないということなり、『ダンメモ』は当時開発中だったスマホゲーム『アナザーエデン 時空を超える猫』のゲームエンジンが転用され、開発期間の短縮が図られました。

こうして突貫的な開発が進められた『ダンメモ』ですが、プロモーションにも市場調査がふんだんに活かされました。まず原作や漫画版のファン、そしてアニメから入ったファンをファーストターゲットと設定し、出演する声優のファンをセカンドターゲットと置きました。特に声優ファンに訴求するために、ツイッターなどを通じて声優全員のサイン色紙プレゼントキャンペーンが実施されました。また、アニメ期間中に放送していたラジオ番組に『ダンメモ』のコーナーを設立し、『ダンメモ』のストーリーをリスナーが考えるという企画を実施。ターゲットの外縁に位置する声優ファンだけでなく、アニメに加えラジオまで聴いている内縁のコア層への囲い込みもしました。

そして17年6月に『ダンメモ』がリリースされます。予定より1ヶ月遅れのリリースとはなりましたが、アニメ放送期間中には間に合いました。これにより、「アニメによる集客と製作委員会の連動によりオフィシャル感のあるプロダクトとして世に出すことができた」と野澤プロデューサーは力説します。


さらにアニメ放送終了後もいかにユーザーをゲームに定着させるかの取り組みがなされました。そこでYouTubeやツイッターを活用したファンコミュニティの形成を目標にしました。主にYouTubeが活用され、17年9月にはYouTube番組が放送開始されます。番組はヒロイン役の声優・水瀬いのりと大西沙織を起用した「水瀬いのりと大西沙織のPick Up Girls!」、ゲームの最新情報や攻略情報を発信する生放送番組「ダンまち情報局 オラジオZ」、ゲームの攻略情報に特化した10分未満の録画番組「ダンメモ研究所 オラジオmini」の3番組が運用されました。

こうした努力も実り、ゲームの立ち上げは順調にいきます。しかしリリースから数ヶ月が経つと、現場では一つ重大な問題が発生していました。監修のボリュームが非常に多くなってしまったことです。特にシナリオ面の監修が顕著で、一週間で数千が時には数万字の字数のシナリオを、原作者の大森藤ノ先生にチェックしてもらう負担がありました。

当時、こうした監修は週に一度メールで提出するという形を取っていました。しかしそもそも量が膨大ある点、そしてメールだけでのやり取りの場合、認識の齟齬が増えてしまったという問題がありました。こうした問題を解決するため、原作サイドとゲーム製作サイドと企画協力の体制を新たに組むことにしたといいます。それまで原作者とメールだけのやり取りだったものを定期的に企画会議という形で顔を合わせて作ろうという試みを始めました。

この取り組みはとても功を奏し、原作者から直接回答をいただくだけでなく、メールでのやり取りでは不可能だった内容についてその場で議論することが可能になりました。監修のサイクルにおいても、それまで一週間かかっていたものが最短2日ぐらいで回るようになり、非常に早くなったといいます。何より大きかったのが、会議後に食事を共にする機会も増え、原作サイドとの距離が一気に縮まるという好循環が生まれたことです。これにより、「ゲームを共同で作っていくぞ」という意識が原作サイドと強くなっていきました。

こうした甲斐もあり、18年6月には、原作者が原案したオリジナルシナリオがゲーム本編に実装されました。このほか、単行本化されているけれどもまだアニメ化されていないストーリーもゲーム内で先行フルボイス実装されるようにもなりました。

同じく18年に入ると、『ダンメモ』は他作品とのコラボイベントが始まるようになります。4月には「キノの旅」、10月には「進撃の巨人」、19年3月には「デート・ア・ライブ」と連動したイベントが行われましたが、このうち「キノの旅」と「デート・ア・ライブ」については、原作者の大森藤ノ先生がライトノベル作家同士の繋がりを活かし、作家同士でプロットを作って企画を引っ張ってきたそうです。原作サイドと顔合わせする形の会議を定期的に行うようになったことで、ここまでの当事者意識を持たせることができるようになったというわけです。

当事者意識が深まったのは原作サイドだけではありません。18年11月には、劇場版「ダンまち」をきっかけに、グリーがアニメ製作に出資。公式に製作委員会入りを果たしました。これにより、それまで製作委員会のライセンス許諾を得てゲームを運営していたものが、名実共に「ダンまち」の共同製作者として作品に関与することができるようになったというわけです。

こうした動きもあり、『ダンメモ』リリース2周年となる19年6月には、原作者自らがゲームシナリオを書き下ろすというところまできました。そして7月からは、アニメ2期が放送中です。現在、『ダンメモ』と原作者をはじめとする製作サイドとは、極めて密接な関係を構築し続けています。

このように、『ダンメモ』の成功の秘訣は、ゲーム開発を自社の中だけに留まらず、チームの輪として社外にも広げたことにあります。それにより自社コンテンツがヒットしただけでなく、製作委員会入りという、ゲームを超えたビジネスを展開できた点は特筆に値するものがあります。このようなモデルが他のゲームにも広まっていけば、ゲームで得られた莫大な収益が、アニメや原作にも還元されるという好循環を生み出しそうです。