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『ドラゴンコレクション』の生みの親である兼吉氏は「『ドラコレ』ヒットの要因」と題して講演。制作を振り返りながら成功の要因を語りました。
『ドラゴンコレクション』がリリースされる前の市場は、ソーシャル・アプリケーション・プロバイダー(SAP)と呼ばれる会社がソーシャルコンテンツ市場をけん引し、既存のゲームメーカーはこの分野でなかなか実績をあげることができていませんでした。ゲーム制作者の中にはソーシャルは自分達の領域ではないと考える人も多かった中、「ソーシャルは見た目はライトながら遊び方はヘビーで、ゲーム制作者の出番は必ずある」と考えたそうです。
しかしゲーム制作者にも発想の転換が必要であると兼吉氏は考えていました。それは (1)モバイルに対する意識の低さ (2)削る勇気 (3)スピード感 といった点です。すなわち、モバイルをスペックの低い端末として捉えるのではなく、常にオンラインで誰もが1日1回は使用するデバイスと認識し、コンテンツを無闇に追加するのではなく本当に必要なコアなエッセンスだけを提供する、そして家庭用ゲーム向けタイトルと比較すれば投資額も低いプロジェクトということで、まず着手するという姿勢が必要との事でした。
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他のソーシャルコンテンツに倣い、3ヶ月という制作期間で制作が行われた『ドラゴンコレクション』はリリース当初こそ苦戦したものの(カードゲームという今までに存在しなかった新しいジャンルであったからと分析)、バイラル効果で一気にユーザー数が拡大。ランキングで1位を獲得するまでにそう時間は必要ありませんでした。兼吉氏はその成功の理由について次のように語りました。
「弊社は、ゲームにおいて『メタルギア』『ウイニングイレブン』『実況パワフルプロ野球』『麻雀格闘倶楽部』『Dance Dance Revolution』『beatmania』というように多彩なジャンルで大ヒットを生み出してきました。しかもゲームだけでなく、コナミグループでは、健康サービス事業やゲーミング&システム事業なども大きく成長しています。そこにはグループとして蓄積してきた事業成功のノウハウやチャレンジを奨励する土壌が大きな要因としてあると思います。」
コナミグループでは事業のノウハウは、制作事例の報告会で成功/失敗を問わず徹底的に共有されます。チャレンジが奨励される風土であり、上手く行った事業について大規模な社内表彰もあるそうです。また、お客様を大事にする姿勢が徹底され、目先の利益に捕らわれない意識が強いそうです。さらに、社内リソース中心の制作であり、ノウハウの蓄積が容易であることも成功の要因ではないかと挙げていました。こうしたコナミグループの企業としてのバックグラウンドがソーシャルコンテンツ事業の成功にも大きく寄与したと考えられます。
今後の展開としては世界市場への進出が大きなテーマで、各国の拠点作りを進めています。今年のE3には『ドラゴンコレクション』を映像出展しました。早い段階での米国でのサービス開始を目指します。また、スマートフォンなどにおけるコンテンツのリッチ化や、今までにないゲームジャンルの創出にも力を入れていきます。
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■ドラコレスタジオの運営体制
続いて語られたのはドラコレスタジオの運営体制です。既に数百人を超える規模となり、非常に沢山のプロジェクトが進められています。
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ドラコレスタジオには5つの制作プロダクションがあり傘下の各チームでゲーム制作が進められている一方、それらを横串にするマネジメントラインがあります。縦軸の制作プロダクションがゲーム制作や日々の運営に注力する一方、横軸のマネジメントラインはタイトル編成やスタッフの配置、運営に重要な計数管理など全ラインが共有すべきノウハウを蓄積し、効率的なスタジオ運営を行います。
コナミデジタルエンタテインメントのソーシャルコンテンツは、2010年4月に制作プロダクション内の1チームで制作がスタート。そこで『ドラゴンコレクション』が誕生し、後にドラコレスタジオでも最大のプロダクションである兼吉プロダクションへと成長します。その後、年末には複数の制作プロダクションで制作がスタートし、プロダクションとマネジメントラインという2軸でのビジネス推進も確立されました。
ドラコレスタジオの行動指針は「受け身ではなく自ら動いていく」「プロ意識を持って取り組む」「仕事の線引はしない」「情報伝達は簡潔に行う」「自分の考えをしっかり伝える」ということ。非常に動きの速いソーシャルコンテンツにおいて、言われた仕事を遂行する、ではない働き方を各人が行わなくてはなりません。オフィスもその方針に基づいたものにリニューアルされました。元々は通常のゲーム制作現場のように机はパーティションで区切られ、クリエイターは自分の仕事に専念していました。しかし新しいオフィスは開放的でコミュニケーションを促すものとなっています。ラフなミーティングスペースが多数用意され、気軽に意見を言い合うことができます。
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制作チームはプロデューサー、ディレクター、プランナー、運営、デザイナー、プログラマー、プロモーター、分析という風に一般的な構成です。
運営が始まれば運営(プランナー)×お客様対応(プログラマー)×分析(アナリスト)という三位一体の運営となり、日々改善と新規コンテンツの投入そして分析というPDCAサイクルが回る事になります。この点について、「日々の改善活動は日本のソーシャルコンテンツが成功する根拠にもなっています。世界各国を回っていますが、ここまで改善の積み重ねができるのは日本だけだと感じます」と世界に通用する自信があると語られました。
コナミデジタルエンタテインメントでは「世界一のソーシャルコンテンツスタジオ」という目的を掲げ、世界各国・地域で良質なソーシャルコンテンツを提供することを目指します。「世界一を目指すには、それぞれのクリエイターがそれぞれの世界一を持っている必要があります。その積み重ねがスタジオとしての世界一に繋がります」とのコメント。スタジオの一体感とスピード感を持って自信のあるコンテンツを展開していくとしました。
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■技術面について
最後に技術面についても「ソーシャルコンテンツを支える技術」と題して語られました。
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『ドラゴンコレクション』の環境はアプリ部分は所謂LAMP環境と言われるようなCentOS 5、Apache2、PSP5+APC、MySQL(InnoDB/MyISAM)、そしてmemcachedといった「奇をてらわない教科書的な構成」だそうです。同社では他にも KVSのmembase やKyoto Tycoon、DB フェイルオーバーのツールではMySQL-MHA、ジョブキユーにはGearman等の採用実績があります。
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リリース直後 | リリース2週間後 |
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リリース1ヶ月後 | リリース3ヶ月後 |
制作者としても自信作だったという『ドラゴンコレクション』。ネットワーク構成はロードバランサー1台、2コアのウェブサーバー6台、4コアのデータベースが3台という、当時の同社のタイトルとしては比較的厚めな構成でした。当初は「これでも足りなかったら嬉しい悲鳴だ」と話がされていました。それは直ぐに現実となります。リリース直後から一気にユーザー数を伸ばした『ドラゴンコレクション』。2週間後にはウェブサーバーは8台になり、性能自体も2コアから4コアに増強。ロードバランサーも2台になりました。しかし「この頃はまだ嬉しい悲鳴でした」だったようです。
勢いは止まりません。1ヶ月後には「もはやただの悲鳴に(笑)」。増え続けるトラフィックを捌くため、サーバーも次から次に投入。データベースの分割などプログラム面の改修も行います。最初は数台ずつ追加していたサーバーも20台、30台といったオーダーに膨れ上がることになります。ボトルネックを見つけて改修計画を立てても改修が終わった頃には新たなボトルネックが発見されるような始末。そのような状況が8ヶ月くらい続いたそうです。
ようやく1年くらい経つと、伸びが予測できるようになり、多少落ち着くことができたそうです。現在のサーバー台数については「教えられませんが、サーバーは3桁のオーダー。リリース3ヶ月後のシステムが今では可愛かったなと思えるくらいの規模になっている」だそうです。
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ゲーム運営と同様にシステム運用でもPDCAサイクルが非常に重要になります。核となるのはインフラとアプリチームが一体となった定期ミーティング。ここで問題を共有し、改修計画を立てます。当初は障害発生を受けて応急処置を行うという対処療法的なケースが多かったものの、現在ではノウハウや経験の蓄積から事前に問題となりそうな箇所を改修できるようになってきたそうです。
同社の強さを印象づけられたのは、「システムの都合でゲーム側のやりたいことを阻害しない」という意思です。システム担当は「俺たちは絶対に落とさないから、自由なタイミングで運営チームは施策を打つように」と常々言っているそうです。システムの都合でメンテナンス期間が必要な場合も、その際には新コンテンツの投入と合わせてお客様に楽しんで貰える展開を用意しているそうです。
新しい技術にも積極的に取り組みます。内製技術ではFlashをHTML5に変換するソリューションがあります。『ドラゴンコレクション』ではAndroidのFlash搭載端末ではFlashで、そうでないスマートフォンではHTML5でムービー演出を再生しているそうです。これは研究開発から生まれたものではなく、現場で実践のために生まれたもので、それを横展開しているそうです。1つの開発成果は極力共有するようになっていて、その副産物としてエンジニア同士の交流が盛んになるという効果もあったそうです。
最後に会場に集った参加者に対し、「振り返りを言葉にすると楽しい過去ですが、実際にはかなり泥臭く、トライ&エラーを繰り返してきました。ある意味では気合と根性という世界です。しかし、システムでもPDCAサイクルを繰り返すことで高みを目指し、エンジニア集団としても世界一を目指していこうとしています。ぜひ皆さんも一緒にメイドインジャパンを世界に伝えていきましょう」とエールが送られ講演は終了しました。