実写動画コンテの重要性
映像業界を経て2002年にフロム・ソフトウェアに入社した室氏。最近ではカットシーンの演出に携わることも多いと言います。もっとも、E3 2015で公開された『DARK SOULS III』のデビュートレーラーでは、プリレンダームービーの制作にガッツリと取り組みました。本作はシリーズ初の現世代機(PS4・Xbox One・PC)タイトルで、DCCツールは3ds Maxで、レンダラーはV-Rayが使用されています。
(1)ムービー内容打ち合わせ
(2)絵コンテ制作
(3)実写動画コンテ
(4)ビデオ(CG)コンテ
(5)モーションキャプチャ撮影
(6)ゲームモデルのV-Ray対応
(7)モデルのブラッシュアップ
(8)カット制作
(9)合成
(10)編集&出力
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ワークフローで特徴的なのは、新たに「実写動画コンテ」が加わったことです。絵コンテ手の内容を実際に撮影して簡易的に映像化したもので、社内のアーティストが出演し、小道具などもダンボールで制作するなど、手作り感あふれるもの。これにより手早く映像の雰囲気をつかみ、チーム間で共通認識を持つことができます。モーションキャプチャにおけるアクター向けの参考動画としても使用されます。
もっとも『DARK SOULS II』までは、絵コンテから直接CGによるビデオコンテが制作されていました(さらに昔は絵コンテから直接、モーションキャプチャとカット制作が行われていました)。今回はじめて実写動画コンテが制作されたのは、CGで仮モーションを作るよりも手早く映像制作ができ、イメージの齟齬が減らせるためです。それだけ短期間で効率の良いワークフローが求められてきた、ともいえるでしょう。
室氏は「今回はキャラクターの演技ニュアンスが重要な要素だったため、特に実写動画コンテの制作が必用でした」と語りました。特にムービー中盤で大きな荷物を背負って老人が杖をつきながら画面を横切るシーンでは、どのような演技で歩くのかが絵コンテだけでは表現しづらかったといいます。またこれは制作チームだけでなく、クライアントへの承認においても有効だと補足されました。
キャラクターモデルのブラッシュアップ
また、ゲームモデル用に制作されたキャラクターモデルのブラッシュアップや、マテリアルのV-Ray対応も行われました。これまではムービー向けのハイポリとゲーム向けのローポリによるキャラクターで明確な差がありました。しかし現世代機では両者の差が急速に接近しています。『DARK SOULS III』では雑魚キャラで3万ポリゴン、ボスキャラクターでは15万ポリゴンにも達するほどです。
もっとも、これでもムービー用途には十分とは言えません。理由の一つにゲーム内と違い、映像では演出によってさまざまな角度や距離からモデルが表示されるため、場合によっては粗が目立つ点があります。そこで必要に応じてテクスチャの拡大やレタッチが行われ、ディスプレイメントマップも使用されました。またマテリアルをレンダラーのVーRayに対応したものに変更。これにより古びた鎧の雰囲気が出せました。
デビュートレーラーのポイント
最後に室氏はデビュートレーラーの制作ポイントについてあかしました。「世界のスケール感、没入感」「終末の世界と英雄の物語」「コンセプトの継承と進化」の3点です。もっとも短い映像の中ですべて伝えきるのは難しいため、今回は「世界のスケール感」「終末の世界と英雄の物語」にポイントをおいて制作されました。
中でも終末感を表現するために意識されたのが「色あせた太陽による光」です。ゴシックホラー的な世界観といっても単に薄暗いだけでなく、枯れた美しさを表現したかったと言います。
拠点となる古城の変遷についても紹介がありました。ビデオコンテの時点では崖の上にある背景にすぎず、デザインが固まっていなかった古城。そこからディレクターやアーティストと打ち合わせを重ねつつ、細部が固まっていきました。途中段階ではのっぺりしていた側面もディティールが加えられ、内部から木の枝が飛び出すようにして古さを表現。色調を修正して完成となりました。
最後にデビュートレーラーでめざしたものとして、改めて「DARK SOULS IIIが持つ世界観を表現する」「説明しすぎないことで、(シリーズファンに対して)期待感を煽る」「世界観の美しさで(新規ファンを)引きつける」とまとめた室氏。発売に向けて開発を進めたいと語りました。