しかし、2016年2月にPS4・Xbox One・PCでリリース(日本ではPS4のみ)された『NARAUTO-ナルト-疾風伝 ナルティメットストーム4』(バンダイナムコエンターテインメント)は様相が違いました。開発当初は旧世代を含む5プラットフォーム(PS4・PS3・Xbox One・Xbox 360・PC)で開発され、2014年10月から現世代機のみのマルチとなったのです。
ポイントは旧世代向けのリソースを現世代向け開発でいかに有効活用するか。その数はステージにして40以上、キャラクターでは100体以上にも及びました。もちろん、今までのワークフローをできるだけ変えることなくです。適度な工数で次世代らしいリッチな表現を実現……言うは易く行うは難しでしょう。
KSYUSYU CEDEC 2015で行われた講演「次世代機におけるリアルタイムアニメ表現への取り組み」では、この重たいテーマが扱われました。講師は開発を担当したサイバーコネクトツーでテクニカルアーティストをつとめる芦塚慧祐氏と、プログラマーの閔煥氏。教室は立ち見が続出し、関心度の高さを感じさせました。
なお、本作の開発はバンダイナムコエンタテインメントのNUライブラリをベースに、サイバーコネクトツーでカスタマイズされたNUCCライブラリで行われています。
シェーダーの移植
最初におさえるべきポイントがグラフィックスAPIの進化(DirectX9世代→DirectX11世代)です。これに伴いさまざまな変化がありましたが、本講演ではその中でもシェーダーモデルが3.0から5.0になったことへの対応について説明されました。閔氏はほとんどのシェーダーはコード変更なしで移植できたが、「constant buffer」「textrure, samplerの定義」「shader effect」の3点は対応が必須だったと言います。
constant bufferはDirectX10から追加された、シェーダーパラメータを設定するためのバッファで、DirectX9では個別に設定していましたが、DirectX11ではオブジェクト化されています。textureとsamplerの定義では、約220個のシェーダーファイルをマクロ化して管理し、プラットフォームの差を吸収。shader effectでは文法が変化したため、適時書き替える必要がありましたが、本作の場合は使用していなかったので問題はなかったそうです。
パーティクルのパフォーマンス問題
本作のキーワードでもあった「超破壊」。前作と比べてパーティクルの数が圧倒的に多く、通常のボスバトルで500パーティクル。多いシーンだと2~3000パーティクルに及びました。その結果、前作までの描画システムではCPU負荷が約2~300%にもなり、抜本的改革が必用な事態に。ボトルネックになったのが、PS4のCPUはPS3に比べてコア数は多い(1PPU+6SPU→8コア)ものの、クロックが低い(3.2GHz→1.6GHz)という点です。
対策としてGPGPU化も検討されましたが、オブジェクト間での依存性が高く、分岐・再帰・共有リソースの数が多いなど、GPGPUに不向きだったために断念。マルチスレッド化で対応されました。結果的に4スレッド化したことで、約4倍の負荷削減ができたといいます。もっとも、マルチスレッド化を念頭においた設計になっていなかったため、さまざまな課題が発生したとのこと。また「可能であればGPGPU化するのがベスト」(閔氏)とされました。
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デカールの活用
本作ではPS4世代に向けて、さまざまな表現上の工夫が行われています。芦塚氏は大きく「背景」「キャラクター」「ポストエフェクト」「パーティクル処理」に分類し、一つずつ解説していきました。
背景やキャラクターにはデカール表現が実装され、地面の爆裂やキャラクターの負傷が表現されています。また一部のモードではメモリ量を考慮して、背景シャドウがライトマップではなく自動生成で実装されています。
デカール表現では、セルシェードによるアニメ的な表現を生かして、法線情報が不要などのメリットがありました。そのぶん背景デカールでは数がたくさん使用でき、通常バトルで20枚、ボスバトルで40枚を一度に表示させられます。あらかじめアーティストがテクスチャを1枚準備しておき、プログラマーが投影するポイントと範囲を設定するだけなので、工数のわりに効果が高いといいます。
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キャラクターの傷デカールについても考え方は同じで、各キャラクターのボーンに紐付けて表示位置が設定されています。ダメージを受けると傷デカールを体表にはり、痣や汚れなどを表現するのです。新規キャラクターやボスバトル用のキャラクターでは専用のダメージモデルが作成されましたが、既存キャラクター向けには傷デカールが使用され、8時間×100体ほどの工数が削減できました。
もっともアーティストからは「設定ツールが直感的ではない」という指摘もみられました。Windowsのツールでよく見られるダイアログ形式のGUIを備えていましたが、3DCGのモデリングツール上で直接、キャラクターの部位にはれた方がわかりやすいというのです。また、マントや関節などの一部部位では使用できないといった制限も。この点については芦塚氏も同意で、今後の課題だとされました。
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ポストエフェクト
本作ではステージごとの表現を拡張するため、ツールの色調補正機能が強化されています。新たにバリエーション機能とトーンカーブ機能が実装され、同じステージでも日中と夕ぐれなど、状況に適した色調修正が行われました。具体的にはPhotoshopとの連携を強化し、効率的で直感的な作業フローを構築。これ以外にフリンジ機能や魚眼レンズ機能も加えられ、画面の情報量増加に一役買っています。
また前述の通り、本作ではボスバトルや破壊表現をはじめ、さまざまなシーンで大量のエフェクトが使用されています。「パーティクルは画面内の情報量の増加につながり、次世代機的な絵作りを行う上で、非常に効果が高い手法の一つです」(芦塚氏)。大量かつ様々な使用用途に対応させるために、ビルボード(常に画面に対して正対する透明なポリゴンにエフェクトアニメーションを表示させる)と、複数のポリゴンで構成されたエフェクトモデルが併用されています。
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最後に
このようにプロジェクトの途中から現世代機向けに注力することになった『ナルティメットストーム4』。閔氏は前世代機むけのリソースと現世代機のパワーを有効活用できたと振り返りました。もっとも、ハードウェアの性能がフルに活用できたわけではなく、まだまだ改善の余地は高いと補足。特にキャラクター表現のクオリティを向上させるには、一体ごとにかかる工数を正確に把握していることが大事だといいます。
その上でポイントとなるのが「画面内の情報量をいかに増大させるか」「空間をいかに変化させるか」という点。ここをしっかりおさえれば、描画エンジンを根本的に変革させなくとも、次世代的な絵作りを行うことは十分に可能だとしました。