2012年6月22日に黒川塾の一回目を開催した。その時は、月に1回開催しようとか、次はこんなテーマとゲストで開催しようという目的意識のようなものは全くなかった。
■5年経ったら50回になっていた
しかし、一回目を終えたときに小さな達成感があった。
自分でもやっていて面白かったこともあり、このやり方で自分が勉強したいテーマで、そのジャンルの知識人やクリエイターと会えたら面白そうだというが次の段階で沸々と浮かんできた。その繰り返しの結果が2017年7月、5年かけて50回の開催を数えるに至った。いうなれば愚直に一般的なエンタメ視点で、自分の意志と向学心を軸に、常にそれをアンテナにして、そのアンテナに引っかかったテーマやゲストに打診をしてきた。その結果としての50回だと思っている。果たしてこれがあと何回出来るかはわからないが、自身の気持が続く限り実施してみたいと思っている。
■デジタル封建社会を生き抜く5つのポイント
さて、今回のコラムは、2017年7月14日に開催された黒川塾50「魔法の世紀~エンタテインメントの未来を語る」ゲスト落合陽一氏(メディアアーティスト)と杉山知之氏(デジタルハリウッド大学大学院 学長)の鼎談にて語られたことから、私自身がこれからのデジタル社会を生き抜くためのヒントとして感じたものをご紹介していきたい。
ちなみに落合陽一氏は初めて「コンピュータを触ったのは1995年、ウインドウズ95パソコンで、当時8歳だったというから驚きである。
◆1・ワーク・アズ・ライフ

これは落合陽一氏の著作(「超AI時代の生存戦略」)のなかでも語られているが、直訳すれば「生きるように働く」ということになる。簡単に言えば、単純作業や自分が直接やらなくてもいいことはコンピュータに任せて本来やるべき活動にそれぞれの人が集中すべきと言うことだ。現時点では難しい部分もあるかもしれないが、コンピュータやネットワーク、そしてそれにまつわるテクノロジーなどのおかげで、我々のライフスタイルは10年前とは比較にならないほど便利になりスマートになったと感じる。この先の未来はさらにAI(人工知能)やそれを活用したテクノロジーが浸透することでやるべきことに集中できる働き方ができるのではないかということだ。ポイントはストレスがかかるタスクの多い仕事はゼロには出来ないので、自分の思い通りになる仕事を挟み込むことストレスを切り分けて生きることが重要になるという。
◆2・人工知能(AI)は人間の仕事を奪うのか?
ジェームズ・P・ホーガンの著作『未来のふたつの顔』では、コンピュータ自身が最適解を見つけ出し、自らアクションを起こすという近未来が描かれているが、現在の現実とその未来像に関してはということに関しては、すでにそのような事象は始まっている。
例えばコンピュータがある種の良心を持ち、地球環境を大切にしようという概念が芽生えた時「地球環境を守るためには、とりあえず20億人くらいいなくなったほうが守りやすいよね」となったときに、そのような状況を引き起こすかもしれないといことになる。しかし、脳科学者の茂木健一郎氏に言わせれば「(絶対に)ない!」と言う。しかし。確かに、知的自己進化系みたいなものを持ちうる可能性は高いが心の情動みたいなものを持つことは考えにくいのではないかという。

しかし、すでにAI(サーバー)によるそれらの仕事のフローの代替えが始まっている。
Uber(以下ウーバー)を例にとってみれば、すでに客からの配車要請、配車のための実車ロケーション・サーチ、マッチング、実乗車、ロード・ナビゲーション、決済までがサーバー上で自動化されている。人間が関わる部分は「こんにちは」「さようなら」などの挨拶や、実際に「指定された区間運転」に過ぎない。おそらく次に来るのはその「区間運転」が自動運転に変われば…ということになる。現状だけを見ても、人間はすでにコンピュータ(サーバー)の下僕と化している。さらに自動運転化の時代は近いという。それはAirbnb、宅配サービスでも同様である。サーバー(人工知能)をコアにした新しいデジタルネイチャーのエコシステム、循環系が始まっている。すでにトヨタやアウディの自動運転システムは知られているが、その先にはすでに無人運転が控えている。

◆3・人間がAI時代を生き残るために為にはどうするのか
落合陽一氏は、現代を「近現代」と位置付けている。
「近現代」とは「近代の終わり」であり、我々が次に迎えるのは「デジタル封建社会」。
そのデジタル封建社会とはひと握りのポジションの人たちと一般の人々のとの「デジタル格差」を象徴しているという。この黒川塾50が終わった8月には、有名ユーチューバーが相対的価値評価システムサイト「VALU(ヴァリュー)」でのVAの高値売り抜けがあったように、一部のデジタル領主たちと一般人たちの格差傾向はこれからも拡がることだろう。
それと重要なことは秀才とか天才が求められているのではなく、人と違うことを目指すという、ある種の変態性のようなものが必要とのこと。

◆4・デジタル系のクリエーターの働き方の変化と未来
本質的なクリエイティブは大きな変化や代替えが進むというわけではないが、大半の部分をAIが自動化していくだろうという予測した。
一例を挙げれば、ゲーム系のモーションキャプチャーに関しても、データは自動生成されて、その不具合を調整するみたいな仕事が人間の最後の仕上げ的な仕事して存続するのではないかということだ。
時代は既にiPhoneを使って、中学生がプロ並みの映像を撮って、編集するような時代になっている。
落合陽一氏自身もiMovieを使ってiPhone上で映像編集ができたときには「撮ったその場で編集できるんだ!」という感動を覚えたという。しかし、最後の味付けのようなパートはやはりクイエーターが行うことになるだろう。しかし、それらも、いずれはAIに集約されてしまうのかもしれない。
落合陽一氏のツイッター投稿の半分はBOTだと冗談めかして語っていたが、どれがBOTでどれが本人かの判別は簡単には行かないように、実態としての未来の働きかたは自ずと変化していくことだろう。
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◆5・過去の歴史を伝える役目と未来への警鐘
最後に、デジタルハリウッド大学の杉山知之学長からはクリエーターや人間の本質として、1989年にAI研究者マービン・ミンスキーが語った“Entertainment for to next millennium”という言葉が紹介された。
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要するに「エンタテインメント以外に人間やることがなくなるよ」ということになる。
「仕事や面倒なことは人工知能がやる、重いものはロボットが持つから、生まれてから死ぬまでエンタテインメント以外に人間がやることない」ということだ。
最後に落合陽一氏はイーロン・マスクの言葉を引用した。
「人工知能は人間の文明を崩壊させる」
落合陽一氏自身もこの言葉は的確だと言う。
その事例として挙げたのは、大海に生息するマッコウクジラが人間を恐れなくなったということがあるという。遡れば、狩猟の対象としてのクジラが、今は保護対象になっており、捕獲される恐れがなくなったことに由来するという。つまり、その分、感覚がスポイルされてしまったということなるだろう。すべてを人工知能に頼るべきではないということ自然界の事象から感じさせるような出来事かもしれない。

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■著者紹介
著者:黒川文雄(くろかわふみお)
プロフィール: 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。