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大きなブームを巻き起こした人気のパーティーゲーム『汝は人狼なりや?』。静岡大学情報学部行動情報学科准教授の狩野芳伸先生を筆頭とした6人の講師陣は、人工知能(AI)を用いて“AIで『人狼』をプレイ出来るのか?”を焦点に当てたセッション「しゃべる人狼知能~人工知能による自然言語人狼対戦」を、神奈川県パシフィコ横浜で開かれた「CEDEC 2017」にて実施しました。
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CEDECで過去2回開催され、今回で3回目となるセッションでは、前述の狩野先生を筆頭に、広島市立大学知能工学専攻の稲葉通将先生、電気通信大学大学院情報理工学研究科の篠田孝祐先生、筑波大学システム情報系の大澤博隆先生、東京工芸大学工学部コンピューター応用学科の片上大輔先生、山形大学学術研究院の大槻恭士先生の5名が登壇。また、出力されている画面には専用のコメントルーム「リアルタイムコメントシステム」が設けられており、セッション視聴者が文字を入力すると動画サイトのコメントのように文字が右から左へと表示されます。
■人工知能とゲーム、その発展と成り立ち
初めに筑波大の大澤先生が人工知能とゲームに付いて解説しました。「人狼知能プロジェクト」は、人口知能で人狼をプレイし、様々な課題を説いていきたいというものです。同氏曰く、人口知能の歴史は古く、初期の開発には20世紀のイギリス数学者アラン・チューリング氏が大きく関わっており、チェスを解くプログラムを紙の上で書いたことから史上初のゲームプログラマーではないかと言われています。
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ゲームと人工知能との関係は古く、ゲームプラットフォームにおいて人間vsAIの歴史では1994年のチェッカーから始まり、近年では2016年に囲碁において人間に勝利しています。これらのゲームのように全てのフィールドが相手に見えているゲームでは、人間より強くなっている可能性がありますが、麻雀やポーカーなどの不完全情報ゲームでは相手の意図を読まなければいけないことに加え、記号的か言語的かというのも難しさに拍車をかけています。このような難しさを持つゲームにコンピューターが対応出来るようになれば、日常の生活でAIが人間に理解を示すのではないかと推測しています。人狼AIに関することは、「人狼知能で学ぶAIプログラミング」と「人狼知能」という本で詳しく解説されています。
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今回の人狼知能大会は、人狼でよく使う発話のみを選択する“プロコトル”と、あらゆる表現が出来る“自然言語”の2分野があります。大会ではプロコトルと自然言語を用いて争います。また人狼は、数人の中に紛れた”人狼“を会話を用いて探し出すゲームです。
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プロトコル部門の大会ルールは15人制人狼で、人狼BBSルールに準拠し、プログラミング言語はJAVA、.NET、Python、公式ライブラリはJavaのみ、サイバーエージェント間の通信はTCP/IPとJSONです。ここで人狼アイドルであるぽんちゃんさんが登場し、本大会の予選を通過したチームに参加賞が贈られました。続いて、今後の発展に期待できる学生チームに贈られる学生賞の発表に移りました。ここでは、学生が開発したAIがどのような特徴を持っていたかを説明するスライドが表示されていました。
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■自然言語部門(普通の会話)でプレイする『人狼』人工知能
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人狼大会の表彰式が終わると自然言語部門紹介へ移りました。狩野先生は自然言語処理を担当しており、言語処理という分野は文字通り言葉を扱っています。先生曰く、言語は難しいもので、言葉こそが人間の知能や思考を司る中核にあたるものでもあります。そのため、人工知能が言葉を扱えるようにすることが今後の発展の要になると解説しました。そこから、このプロジェクトで会話を用いて『人狼』をプレイする人工知能を開発できれば、その発展の大きなカギを握っているとも言えます。
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言語を理解するということは、全方面で難しい事に変わりはありません。人工知能が会話を行うには、文章の解析と理解、どのような話を返すかという対応の戦略が必要です。そこで『人狼』を用いることで会話の目的を明確化し、ある程度自由な会話を行いつつしっかりとプレイする流れが生まれます。その観点から会話システムに『人狼』を組み込むのは非常に良いと考えたようです。そのため、ゲームの勝ち負けではなく自然な会話が出来ているかということが評価の対象になります。『人狼』の人工知能構成では、目的があるタスク指向と、特に無い非タスク指向の中間に設定。『人狼』がしっかりとプレイできるものになり、より広げて行くことができれば、研究としてのアプローチとして最適ではないかと述べています。
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冬に開催したプレ大会は、相手の表情が見えないチャットで行う「BBS人狼」に当たるもので、村人2人と占い師1人、狂人1人、そして人狼の5人『人狼』で自動対戦を行いました。評価の方法は、複数回の対戦を行った結果で一番自然な会話が行われているかを評価者に判断してもらうことで比較したようです。また特殊な仕組みとしてアンカーを付けることが可能です。
ここでプレ大会のログが披露されました。プレ大会では嘘を交えた自然な会話を含む自然な会話が可能になったと評価しました。
■「自然言語部門」参加5チームの会話アルゴリズム構成
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自然言語部門には5チームが出場。それぞれのチームにおけるAIのアルゴリズム解説が行われました。愛知工業大学の“AITWolfAgent2017”は、雑談(挨拶や勝利に貢献しない発言)や発言された話題を特定します。発言された話題の特定は機械学習を活用しており、会話文字に少しの違いが出ても処理を続けられるように文字列を図るレーベンシュタイン距離を用いています。
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横浜国立大学のチーム“frost”が開発した“リアル狂人システム”は、発話を重視するシステムを搭載しています。力を入れたポイントとして自分以外の役職を予測し発言を投げかける機能を有していることです。
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静岡大学の“Kanolab自然言語エージェント”は、係り受け/解析折を利用して相手の発言を、単語レベルだけでなく構造レベルで深く理解することに重点が置かれたAIです。会話にはゲーム無いように関係する質問などを重視し、状況を理解しながら返答が難しいような質問を積極的に行います(雑談は無視する傾向)。処理の流れは、会話文の解析からプロトコル変換、戦略決定、会話内容の決定、会話文生成の順でループします。
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広島市立大学のチームが開発した“KELDIC”は、TwitterとLINEで公開している雑談対話エージェントで、ディープラーニングを用いて応答を決定しています。“KELDIC”の機能としてチーム饂飩ベースの役職推定があり、雑談機能が特徴的。Twitter KELDICの機能も移植されています(独り言や周囲への反応)。戦略は、役職推定を饂飩ベース(相手の役職パターンを全列挙し、その中で正確性の高いものを選定し行動する)で行っており、発言理解はルールベースによるパターンマッチングが割り当てられます。雑談はTwitterデータを用いて制作した独り言発言をランダムに出力します。
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チーム“m_cre”のエージェントは、プロトコル部門で応募したエージェントをそのまま組み込んでおりEarクラスにおいて振り分けをし、プロトコル部門エージェントが情報を解析、そしてMouthクラスが自然言語に変換して出力します。自然言語解析では、形態素解析器Jumanと構文解析器KNPを合体させて運用(形態素解析は、文章を単語など最小レベルで解体し名詞や動詞などを判別して振り分けること)。自己対戦例では、対話において反応やパワープレイを行う様子が紹介されています。
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次に自然言語部門の表彰に入りました(評価基準は主観)。評価をした株式会社人狼の高橋氏は、こういう形で人狼の評価をするのは初めてで、送られてきたログに戸惑いを隠せなかったようです。「人狼ゲーム賞」が贈られたのはチームm_creでした。澪標アナリティクスの井原氏は、技術的な評価を行い主観評価の「技術賞」がチームkanolabへ贈られました。
■カオスな会話が繰り広げられたデモンストレーション
しばしの休憩の後に後編が開幕。まず各大学の講師陣である、大澤先生(筑波大学)と片山先生(東京工芸大学)、大槻先生(山形大学)、篠田先生(電気通信大学)、鳥海先生(人狼P代表/東京大学)から総合優秀賞についての主観評価がそれぞれ発表。チームm_creに決定した経緯が語られました。
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m_cre氏に賞状が送られた後に、いよいよ人工知能vs人間による『人狼』デモンストレーションが実施されました。ここでは前半でも登場した、人狼アイドルのぽんちゃんさんが再び登場。ぽんちゃんさんは、AIが集う5人人狼の人間代表プレイヤー4(村人)として、ゲームに参加します。発言はキーボード入力で行うことで自然言語の会話を行い、AI側で誰が人狼かを読み合います。
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途中でAI処理が重なり結果に時間がかかったことがありました。ここでぽんちゃんさんが、一連の会話劇から人狼を推理しました。それによれば、自称占い師が2人が他に人間を言っていることから、そのどちらかに人狼が潜んでいると推測。1番は何も言われていないが、自称占い師の内1人を処刑するのが得策という結論を出しました。また1番AIは、「ラブライブ勢の人狼」とも発言したことからボキャブラリーに富んだ雑談力を持っているのかもしれません。結果は1番AIが人狼で、最終的に5番AIが生存し人間側が勝利を得ました。
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静岡大学狩野研究室のKanolabシステムと、宝塚大学の協力を得て制作されたアバターを使った『人狼』のAIデモンストレーションへと続きました。今回はアリスとジャック、ロビン、リリー、デボラとアバターに名前がついており、ぽんちゃんさんはアリスとしてゲームに参加します。視聴者のコメントでは、独りだけスキンヘッドでシンプルな服装のロビンに人気が集まっており、多数の言及されていました。
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試合展開では、ロビンはこれまでの発言から白というという予想を立て、自称3人の占い師の言葉や矛盾した発言から疑惑が疑惑を呼びました。最初の投票では、ぽんちゃんさんはデボラへ投票。結果は1日目にアリスとジャック、そしてロビンが生き残り、この予想外な結果から会場参加者への動揺も広がります。ロビンとジャックの発言から、ジャックが人狼ではないかと予想し、投票して結果を待ちます。
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しかし、結果はロビンがアリスに投票し、ジャックが生き残ったことで人狼が勝利するという予想にもしなかった展開が起こりました。会場に衝撃を呼んだこの展開は、狩野先生も考えつかなかったようで、かなり困惑したと述べました。
最後に簡単なディスカッションが実施。今回はターン制で展開したことで多少不自然な会話になってしまっているため、対話システムの非同期化や、音声周出力、表情やしぐさの演出について語られました。高橋氏は、先のアバターを用いた『人狼』では、比較的人間が行う『人狼』に近い雰囲気だったとコメント。これを進化させて時間経過やタイムラインが見えるようにすれば進化するのではないかと述べました。
渡邉先生はアバターについて、キャラクターの日本語と英語の名前が元々存在していることを明かし、ロビンの日本語名はしげるという名前だったことで再び会場に衝撃が走りました(城島茂や松崎しげるなど、著名人が多いため)。続けて、キャラクターの第一印象があるだけで集中のしかたが全然違うこともあり、会話の中でも不自然な笑顔で反応することで『人狼』として成立することもあり、自然な反応を紐付けしすぎないほうが『人狼』のゲームとしての面白さがあるかもしれないと語りました。
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また高橋氏は、感情について発言や表情の強弱が出来れば良いのではないかと考察。大澤先生は、感情には自分の内面を表現すことと、“誰か来たら笑顔で対応する”ような社会的な表現の2つ役割があると話します。この人工知能のエージェント同士では意味がありませんが、人間がいることによって意味を持つと語りました。また、内面をサジェストするような、正反する感情を表現していけば推論しながら楽しめるのではないかと述べます。
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最後に狩野先生は、課題として「他人を説得できる(騙せる)エージェントを作ること」を提唱しました。他人を説得できる人工知能が制作するのは難しく道のりも長いですが、現在の完成度が高いこともあり、ハードルを超え歩んで行きたいと話します。また来年も開催予定であるため参加者を募集していると述べセッションを終了しました。
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