遡ること2011年6月から始まったこの連載が、6年3ヵ月を数えた今回の76回目で終了することになりました。今までご高覧いただきました読者の皆様、取材などの御協力をいただきましたパブリッシャー、クリエイターの皆様、編集スタッフの皆様、ありがとうございました。ちなみに初回のコラムはコンテンツが流通するメディアの移り変わり、すなわち、現在のダウンロードビジネスへの予感という内容でした。
このコラムはそのタイミングごとに浮かんでは消えるエンタテインメント系の森羅万象の出来事にフォーカスしてきましたが、今回のコラムでいったんペンを置くことになります。
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このコラムが掲載される頃には東京ゲームショウ全体の動員やその内容面の動向なども各種メディアにて報道されていることと思いますが、私も参加し見学し、そして体験してきたことを今回はまとめておきたいと思います。
まず、本来の東京ゲームショウの主たる展示である家庭用ゲームコンテンツですが、大前提として出展しているメーカー(パブリッシャー)の固定化がさらに促進されました。中規模以上のメーカーでも、今回の出展を控えた企業も多く、来場者にとってはやや新奇性にかける展示と体験だったと思います。とは言え、各社の新作の評価は一定以上のものがあり、年末商戦は手堅い数字が見込めることを確信しました。
事例を挙げれば株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントでは『グランツーリスモSPORTS』が10月19日に発売を予定しています。個人的にとても気になったのはシネマティックゲーム仕立ての『DETROIT BECOME HUMAN』です。フィリップ・K・ディックの「マイノリティリポート」と「アンドロイドは電気羊の夢を見るのか」をミックスしたような世界観に期待をしています。
カプコンは来年1月発売の『モンスターハンター:ワールド』への注目が集まっており、シリーズのなかでも群を抜いて楽しめるコンテンツに仕上がっています。もはやブースも『モンハン』と『バイオ』の二本立て仕様が定番になってきました。
スククェアエニックスにおいて新作の『LEFT ALIVE』が発表されました。今回はイラストレーターに『METAL GEAR』シリーズで良く知られる新川洋司氏が起用されています。コンテンツ面はまだ未公開部分が多いのですが、スクウェア時代にリリースされた『フロントミッション』シリーズの流れを汲んだリメイクか、サイドストーリーのような予感がします。
セガゲームスはすでに発表済みの『龍が如く』シリーズのスピンオフ企画もあり、タイトルとしては各商流に対応してあらゆる客層をカバーしようという意気込みを感じます。
コナミはハイスピードロボットアクションゲーム『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』の4K/VR対応リマスター版『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS』を発表。過去のライブラリー作品の新作での投入も数タイトル控えており、攻守ともに充実したラインナップを感じさせました。
一方でやや陰りを感じさせたのがスマートゲーム系アプリの出展です。こちらもコナミの『ラブプラス EVERY』がスマホ向けVRコンテンツとして話題を集めていましたが、純粋なスマホ・ネイティブなコンテンツを中心にラインナップを揃えているパブリッシャーへの客付きは悪く感じました。ビジネスデーでの特典キャラなどの販促施策を訴求すれどもスルーしていく来場者がほとんどで、危機感を感じました。
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また、2015年、2016年は出展していたスマホ系パブリッシャーがガタンと減ってしまったことも動員を左右する大きな要因のひつとだと思います。特に2015年にはCygamesの飛行艇の展示が目を惹きましたが、今年はそのような展示は一切ありませんでした。
このところ中規模から大規模のスマホ系パブリッシャーでも数億円の開発費を投じても3ヵ月ほどでコンテンツを閉じるケースも散見され、飽和レベルではない危機的な状況が感じ取れます。
さらにiPhoneをOS11バーションに更新すると、各種アプリのランキングを表示するランキングタブが廃止されたことが、今後は少しづつ各社のアプリの販売状況に影響が出るのではないかと懸念しています。もちろん不正な操作でのランクの上下動は問題ですが、あのランキングが各社のコンペティティブなキャンペーン施策や販売促進効果を生んでいたと思うからです。全体のテンションが低下を招かなければ良いと考えています。
会場で知人たちから聞いた話ですが、このところスマホ系の開発会社が知らないうちに破産し清算するケースも目立つと言います。なかには発注したものの成果物がまったく回収できないケースもあるようです。
もしかすると今年度の東京ゲームショウの熱量が低い要因はこのVRジャンルの鎮静化が、そのひとつかもしれません。昨年は各社こぞって「VR元年」を標榜していましたが、その元年も過ぎてしまい・・・、とは言えまだ一本立ちするまでにはいかないのが現状です。
このVRジャンルに関しては家庭用ゲームパブリッシャー各社も多数の展示を行っていました。しかし、家庭環境でVRをエンジョイする環境にはもうすこし時間がかかりそうです。
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むしろ、私が気になったのは海外系出展社による大型のアトラクションタイプのVRコンテンツです。韓国の出展社Sangwhaによる「GYRO(ジャイロ) VR」に注目しました。すでに韓国のアミューズメント施設では導入が進んでいるとのことですが、昔、セガがリリースしたアーケード用ゲーム筐体「R360」のようにジャイロ状に筐体が回転する仕様になっており、日本のアーケード系ゲームメ-カーにもチャレンジしてほしいコンセプトだと感じました。
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写真)今回の東京ゲームショウでは松戸市コンテンツ事業者連絡協議会のブースでトークイベントも
3章にわけて、今回の東京ゲームショウ2017で感じたことを、家庭用系、スマホ系、VR系、それぞれについて個人的な印象と可能性を書いてみましたが、各社それぞれが真剣に経営に向き合い、クリエイターは真摯な気持ちが開発に勤しんでいることでしょう。
現況がどうあれ、それを乗り越えて新しい結果を出すことが、個人であり、企業であり、クリエイティブであり、マネージメントです。そして、それについていけないものは時代の中で淘汰され座を明け渡すことは世の倣いです。
時代(とき)は巡り、皆様と再びお会いできることを楽しみにしております。ながらくの連載と購読ありがとうございました。
了)
■著者紹介
著者:黒川文雄(くろかわふみお)
プロフィール: 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。株式会社ジェミニエンタテインメント・代表取締役。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
オンラインサロン黒川塾も開設。https://lounge.dmm.com/detail/577/
著者:黒川文雄(くろかわふみお)
プロフィール: 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。株式会社ジェミニエンタテインメント・代表取締役。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
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