今回は「クリエイターのキャリア形成において大切なコト-ゲーム運営の現場がいかにクロスポイントとなるか?」と題して、キャリア形成に着目させていただきました。クリエイターのキャリアにゲーム運営が交わることで、クリエイターがどんな成長曲線を描くのか、以下のようにまとめてみたいと思います。
1.クリエイターのキャリア形成における重要な2つのポイント
2.これからのクリエイターに求められるコト
3.ゲーム運営の現場がクリエイターの力になれるコト

まず前提として、「クリエイターのキャリア形成において重要なことは何なのか?」について、私なりに考えてみたいと思います。プロフィールにも記載させていただいている通りですが、不束者ながら、さまざまな現場でクリエイターとしてお仕事をさせてもらいました。その上で感じた重要なポイントは、以下の2つだと考えています。
(1) コアスキルを持つ
(2) コアスキルを発揮するための付加価値を持つ
(1) に関しては非常にシンプルで、「コアスキル=得意領域」を持つ、ということです。そして、具体的に「どこまでなにができるか」を客観的に理解し、周囲に伝えることができている状態です。デザイナーであれば、単に「デザインができます」ではなく「UIの設計からグラフィックをのせるところまで一貫して対応できます」ということですね。
そこから繋がる形で、クリエイターのキャリア形成に影響を与えると考えているのが(2)です。
スキルを習得し、それを本番で発揮するという観点では、クリエイターとアスリートは似ていると思っています。常に基礎訓練を怠らず、ニーズを模索/理解。一見、無関係なスキルも上手に吸収しながら常にコアスキルを最大限発揮できるようにコンディションを整えておくことが非常に重要である、ということです。
イメージしやすいように、知り合いの事例をご紹介させてください。その方のコアスキルはグラフィックデザイン。それにプラスして、エンジニアリング部分のスキルを習得し、Web/アプリ制作時にクライアントやパートナーに動くもの(プロトタイプ)見せながらデザインの提案を行っています。まさに(1)(2)を実践できている事例だといえます。
コアスキル(グラフィックデザイン)を持ち、付加価値(エンジニアリング/ニーズ理解/自己研鑽)を効果的に使い、周囲からの評価/魅力的な案件を獲得しながら、クリエイターとして活躍する。
このように(1)(2)を体現できればクリエイターとして案件の幅が広がり、より良いキャリア形成ができるのではないでしょうか。
続いて、これからのクリエイターに求められるコトですが、ズバリ1.で書いた「(2) コアスキルを発揮するための付加価値を持つ」ことだと思っています。
案件の多様化にともない、求められるスキルも細分化され、さまざまなツールも整備されていますね。クリエイターとしてのあり方が多様化している一方で、個としての特色を出していくのが難しくなっているのが現状だと考えています。
同じデザイナーでも「私は◯◯ができるデザイナーです」というように「◯◯」の部分=付加価値を自己研鑽していくことが非常に重要です。クリエイターが置かれている現状を理解し、自らを客観視する。なぜならば、ニーズを理解し、付加価値を見出し、コアスキルを存分に発揮し高め、広げ続けることがこれからのクリエイターに求められることだと考えているからです。
さて、つらつらとクリエイターのキャリアとこれからについて1.2.で書かせていただきました。3.では、現在、私が身を置いているゲーム運営の現場が、クリエイターのより良いキャリア形成におけるクロスポイントになりうるか、を書いていきたいと思います。
■ゲーム運営の現場で身につくクリエイターとしての付加価値とは

実際にゲーム運営の現場を経験したクリエイターはどんな付加価値がついているのでしょうか?私が特に実感した付加価値は以下の3つです。
・サービスマインド
・提案力
・チームワーク/チームビルディング能力
一見してクリエイターのスキルとは直接的に繋がりがなさそうですが、その理由を1つずつ説明していきたいと思います。
■サービスマインド
ゲーム運営の現場はプレイヤーの声が非常に多く、大きいという特徴があります。この環境がクリエイターの「サービスマインド※」を成長させることに大きく寄与しているのは明確です。
※ サービスマインド=ステークホルダーの要望や期待に答えようとする姿勢・意識。世の中により良いものを提供しようとする気概、と考えています。
シンプルにプレイヤーが声を上げて求めてくれるものを、しっかりと受け止める。さらに、ユーザが潜在的に求めているものを想像/分析/定義し届けていく。このサイクルを日々行っていくので、自ずとサービスマインドが醸成されていくのです。サービスマインドは、ニーズを把握し、適切なアウトプットを出すという意味で、ゲーム運営の現場以外でもクリエイターにとって非常に重要な付加価値といえます。
■提案力
クリエイターがアウトプットを世の中に届けるまでのプロセスで、避けて通れないポイントとして「提案」があると思います。ゲーム運営の現場でクリエイターは、プロデューサー/ディレクター/プランナー/エンジニア/アナリスト/マーケ担当/渉外担当などなど、世の中にアウトプットを届ける前に、さまざまなステークホルダーとの議論を繰り返し「何をつくるか/届けるか」を意思決定していきます。その際にクリエイターの提案が、ゲームそのもののクオリティを左右する非常に重要な役割を担っていると考えています。クリエイターはこのような環境で提案力を磨くことで、さらなる成長ができると考えています。
■チームワーク/チームビルディング能力
上述の提案力で触れましたが、ゲーム運営の現場はさまざまなステークホルダーが存在します。その中には一緒にゲームを作っていくチームメンバーがいます。特にゲーム運営クリエイターの職種は、ディレクターやデザイナー、2D/3Dアーティスト、アニメーター、フロントエンジニアなど、さまざまです。だからこそ制作していく上で、効果的にコミュニケーションを取り、要件や認識をすり合わせるのが非常に重要になります。
さまざまな思考やバックグラウンドを持つメンバーを理解し、協力体制を築いていくことが必要になるので、チームワーク/チームビルディング能力が鍛えられる環境といえます。クリエイターといえども完全に一人で仕事をすることは少なく、必ずステークホルダーが存在することがほとんどかと思います。その際に、この付加価値を身に着けておくことが大きなメリットになると考えています。
以上、簡単なまとめになりますが、クリエイターとしてのコアスキルと、一見、無関係なスキルや思考を上手く混ぜ合わせることで、他のクリエイターとは一線を画す存在になれるのではないかと考えています。普段からさまざまな方面にアンテナをはりながら、楽しく真剣に、クリエイティブワークに携わっていくことが大切なんだなあと筆を執りながら改めて感じた次第です。
今回も長文となり大変恐縮でございましたが、クリエイターのみなさまが今後のキャリアを考える際に少しでもお役に立てましたら幸いでございます。次回の更新は10月30日を予定しています。
■プロフィール
楠 薫太郎
株式会社 DeNA Games Tokyo デザイン部 部長
紙媒体のデザイナーからキャリアをスタート。Web・音楽・アパレル・映像業界での経験を積み、フリーランスを経て、2012年、DeNA入社。複数のゲーム運営、IP系ゲームのクリエイティブディレクションを担当。その後、DeNA Games Tokyo(http://denagames-tokyo.jp/)の立ち上げに携わり、2016年、同社のデザイン部 部長に就任。
楠 薫太郎
株式会社 DeNA Games Tokyo デザイン部 部長
紙媒体のデザイナーからキャリアをスタート。Web・音楽・アパレル・映像業界での経験を積み、フリーランスを経て、2012年、DeNA入社。複数のゲーム運営、IP系ゲームのクリエイティブディレクションを担当。その後、DeNA Games Tokyo(http://denagames-tokyo.jp/)の立ち上げに携わり、2016年、同社のデザイン部 部長に就任。