モバイル/ブラウザゲームの開発と運営に特化したDeNA Games Tokyoと、アプリ開発に定評があるブレイブソフトが、それぞれの観点から議題を紐解いたセミナー聴講レポートをお届けします。
◆二社の視点から上流工程を語るライトニングトーク
まずはブレイブソフトのチーフディレクター・助川なつき氏によるライトニングトーク。「"1.旅行は予定通りに回らないと気が済まない"、"2.知らない人がいる飲み会は行きたくない"、"3.大掃除は自分の机だけ片づければOK"、"4.世の中がどう動いているかなんて自分には関係ない"。みなさんは、この項目がいくつあてはまりますか? 一つでも当てはまるものがある方は、残念ながら上流工程への参加には向いていません」と助川氏は語ります。
上流工程はスタッフ間の助け合いが大前提で、だからこそ周囲や大局を見据える視点や円滑なコミュニケーション能力が必要となる、この項目が当てはまる人にはそれが欠けていますとバッサリ。助川氏は「ですが、大変なことばかりではありません」と言葉を続けます。
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「プログラマーは指示されたことばかりをこなしがちですが、上流工程で(プロジェクトやサービスの構築に)能動的に関わっていくことで、それまでになかった達成感を得られます。また、最新の情報や技術も身につきますし、サービスを一から組み立てるためのノウハウは、将来独立したいとお考えの方には、とても有用だと思います」。
上流工程に携わることが自分にとってプラスかマイナスか考える方も多いと思うが、興味があるならぜひ挑戦してほしい、と助川氏はトークをまとめました。
次のライトニングトークは、DeNA Games Tokyoのエンジニア・岡村謙氏が登壇。エンジニアの視点から見た「ゲーム運営における上流工程」に迫ります。ゲーム運営におけるエンジニアの業務はクライアント開発業務と運用業務に分けられますが、ここでは前者にフォーカスしたトークが行われました。
まずはシステム開発とゲーム開発の開発マイルストンの差異について説明。システム開発の上流工程では要件定義、基本設計、詳細設計が行われますが、ゲーム開発の上流工程は
施策フェーズ:成果物を具体的に想像し、話し合って懸念点を解消する
企画フェーズ:成果物を具体化。UIなどの設計は別チームが担当する
仕様フェーズ:上記2フェーズを経て、ゲ―ムの仕様を確定させる
という3つのフェーズで構成。「どのようなゲームにするか」という仕様を考えるのはプランナーの職分で、エンジニアはそのプランを実現するためにあらゆる手段を模索し、実現するのが職務になります。
岡村氏は「仕様が確定したあとに新たな仕様が追加されたり、ゲームの各種パラメーターを調整する頻度もかなり高い」と苦労を語りながらも「一人のゲーム好きとしての視点がUX(User Experience:ユーザー体験)の構築に生かされたり、PCDA(Plan:計画 Do:実行 Check:評価 Action:改善)サイクルを回しやすいのは楽しさもある」とトークを展開。
現場の課題は「敵とのバトルの仕様を深く理解しているのはAさんだけ」、「このコードがわかるのはBさんだけ」というようにあちこちで属人化が発生してしまうこと。岡村氏はこれに対し「開発チームの課題を集める会」を発足し、解消したそうです。
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岡村氏は最後に「上流工程に参加するエンジニアは開発をするだけではなく、事業として成功させる意識を持つことが大切です。弊社ではそのようにサービスに寄り添ったマインドを持つエンジニアを"サービスリードエンジニア"と定義しており、エンジニアは誰もが上流工程から参加できます」とDeNA Games Tokyoの強みを語り、トークのまとめとしました。
◆二社四名が登壇したパネルディスカッション
ライトニングトークが終わると、ブレイブソフトから清田耕一朗氏と間宮正信氏、DeNA Games Tokyoから小篠隆児氏と五木田康平氏がそれぞれ登壇してのパネルディスカッションがスタート。モデレーターはエウレカの高橋健太郎氏が務め、来場者からの質問を適宜拾い上げながら以下のような議題が取り上げられました。
■お互いの会社をどう感じるか?
小篠今回のセミナーは、自分が企画して実現しました。企画したきっかけは(ブレイブソフトが)いつも楽しそうに仕事をしていて、すごくいい企業だと思ったからです。
清田人が用意した船に乗って進んでいくのは、あまりおもしろさを感じない。それをいかに自分のこととしてとらえるか、自分のことにしていくかが大切。BtoCのアプリを作るうえでは、DeNA Games Tokyoのやり方が必要なのだろうなと感じました。
■上流工程に携わったきっかけは?
間宮自分は元々組み込みのエンジニアで上流には縁がなかったし、当初は興味もなかったが、リーダーを務めたりして社歴が上がっていくうちに「上流工程から参加しろ」と(笑)。でも、いざやってみるとプロジェクトをどう回すかなど、コーディングだけでは味わえない楽しさがあることを知りました。
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■「コードだけ書いていたい」というようなエンジニアに、どう言えば上流工程に関わってもらえるか?
間宮自分は上流工程に参加するようになってからも、エンジニアとしてコードも書き続けていた。上流工程に携わったらもうコードが書けなくなるわけではないし、携わることで新たな景色が見えるのは間違いないので、それはエンジニアとしての自分にもプラスになる。そうやって説得してみては。
五木田DeNA Games Tokyoはエンジニアも上流工程から関わることができるが、自分が上流工程に興味を持ったきっかけは「上に上がるほど、給料も上がるはず」というシンプルなもの。今は、プランナーに意見を提案することで、自分でゲームやゲーム内のイベントを作り上げているという確かな実感や楽しみがある。
■社ではどのようなキャリアパスが推奨されているか?
清田弊社のキャリアパスにピッタリ当てはまるのが、先ほどライトニングトークをした助川。アパレル業界が前職というド素人の状態で入社した。ブレイブソフトでは、若手や新卒をリーダーに抜擢し、責任を持たせて勉強させる、まずはやらせてみるという気風がある。相談されたら応じるが、こちらからはあまり指示を出さない。
そんな環境で助川が伸びたのは、前職の経験を生かしてのものであろう、お客さんに寄り添う気持ち、お客さんの求めるものの本質を見据える目があったから。仕事を他人事とせず、自分のことしてとらえるのも肝要。
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写真右:仕事を自分のこととしてとらえることが第一、と繰り返し説く清田氏
■エンジニアが上流工程に自然と携わるような風土や制度のために心がけていることは?
清田弊社には「自立他尊」という独自の標語がある。物事をいかに自分のこととしてとらえるか、そして、会社の規模が大きくなるにつれ失われがちなベンチャー精神を保ち、価値のあるものにいかにリーチしていくかという気風が大切にされている。
小篠DeNAグループには"DQ(DeNA Quality)"を常に重んずるという社風があり、その中に"発言責任"というものがある。これは「発言したことに責任を持つ」ではなく、「発言することに責任を持ってほしい」という考え。これを言ったらどうなるだろう……と尻込みする前に、まずは発言そのものをしてほしい。この社風が保てているかどうか、社内で定期的に振り返る機会を設けている。
とはいえ、うまく機能していないのではないかというときもあるし、自分自身ができていないときもある。そういう状況を改善するため、社内では部下が上長を評価する"360度フィードバック"制度が用意されている。これときちんと向き合って、改善していくのが大切。