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国内最大のゲームカンファレンス「CEDEC2021」が8月24日から26日にかけて開催され、「人間中心型リーダーシップ戦略論 ~ 過激な感情表現で関係を壊さないために」のセッションが公開されました。
ゲーム開発はもちろん多くのスタッフと共に行っていくもの。プロジェクトを遂行させるためには他のメンバーとうまくコミュニケーションを取ったり、チームのリーダーとして導かなくてはならなかったりするシーンも多々あります。
そこで本セッションでは、「個人からできるコミュニケーションの改善」をテーマに、どういう風に他のメンバーと関わることでプロジェクトを円滑に進められるかを解説します。
アジャイルコーチという仕事を行っているLINEの松浦洋介氏、アギレルゴコンサルティングの川口恭伸氏、そして中小企業診断士の松元健氏がスピーカーとなり、「よりよいリーダーとなるにはどうしたらいいか」が語られました。
アジャイルという考え方
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まずソフトウェア開発において、現在アジャイル開発という手法が主流となっています。これは、「計画から設計、そして実装し、テストする」という開発工程を小さいサイクルで繰り返すことで開発を進めていくことで、素早く進捗を出していくことを特徴としています。
従来は全体の機能設計と計画に従い、開発を行うウォーターフォール型が主流でしたが、開発途中で仕様の変更や追加が予想されるプロジェクトには不向きでした。対してアジャイル型開発では、だいたいの仕様を決めたら開発サイクルを繰り返して完成へ近づくスタイルのため、変化に強い特徴を持っています。これは仕様変更がよくあるゲーム開発において、有効なスタイルだと言えるでしょう。
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そんなアジャイル開発ですが、最適なパフォーマンスを出すためには守るべき「アジャイルマニフェスト」があるのだと、川口氏は解説します。「動くソフトウェア」や「顧客との協調」などが挙げられている中、もっとも重視してされることは「個人と相互作用」とのことです。
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つまり、個人の行動がいかにチームのパフォーマンスに影響しうるかが、アジャイル開発という考え方では重要であるかが示唆されているわけです。アメリカの独立コンサルタントであるリンダ・ライジングの「アジャイルがもたらしものは、ふわっとした人間同士の事柄を現実として捉えることだった」という言葉がセッションで引用されているように、具体的な人間関係の構築がポイントになる模様です。
どんなに良いチームでも内包しうる4つの毒
川口氏は「みんないい大人なので、多少のことは理性的な反応をしていますよね」と語り、「準備した気合いれたものが上司の鶴の一声でなくなる」みたいなことでも、みんなぐっとこらえて仕事しているものだといいながら、それとなくチームで仕事をするなかで感情的になってしまうことのリスクを説明します。
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こうした個人の感情の問題を引き継ぐかたちで、松浦氏は「チーム4つの毒」について解説。松浦氏は「SCRUMMASTER THE BOOK 優れたスクラムマスターになるための極意」を引用する形で、チームに内包する問題を取り上げていきました。
チームの4つの毒とは、「非難する」、「守りの姿勢」そして「壁を作る」、「侮辱する」事だと言います。これらは良いチームであったとしても起こりうることであり、「毒を把握しておくことは、チーム運営のために大事」なのだと語りました。これらはいずれもチームで作業する際、多くの人が身に染みていることでもあります。
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まずわかりやすいところでは「非難する」ことがそうでしょう。たとえばバグが発生したとき、いつも同じスタッフがやったことに気づきミスを攻めたててしまうことがチームにも悪影響を及ぼすことは、多くの人が身に染みていることではないでしょうか。
続いて「守りの姿勢」。これはミスなどが起きた時に「私が悪いんじゃない」とひたすら自分を守ろうとする反応を見せることだと言います。これが「他の人が悪いんだ!」と飛躍していくと、さらに悪循環になってしまうといいます。
それから「壁を作る」ことの毒が紹介。「話をするだけ無駄」と議論を避けてしまうことの問題を取り上げています。一見すると、先のふたつよりは問題が少ないのではないかと思われますが、問題に向き合って議論するようにしないと溝が深まって、悪化した関係性が長引いでしまうリスクが指摘されています。
最後に「侮辱する」。もっとも個人の感情が発露してしまっているもので、相手を劣ったものとして見てしまい、否定的な言葉や感情を投げかけてしまうことです。イライラして侮辱している本人は気付きにくく、状況を悪化させてチームの雰囲気を悪くしてしまいます。
松浦氏によれば「いちばんの猛毒は『非難する』ことにある」と語りつつ、良いチームであっても、協力的な態度や友好的なふるまいが十分ではないとこれらの毒が生まれる可能性があるのだといいます。
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こうしたチーム4つの毒を踏まえ、いかにチームがダメになってしまうかの「5つの機能不全」について解説されました。
チーム運営に置いてこの機能不全とは、次のようにピラミッドのように積みあがるのだといいます。最初にスタッフ間での「信頼の欠如」、その前提による他のスタッフとの「衝突への恐怖」、そうして溝ができることで個々の「責任感の不足」、ならびに「説明責任の回避」が生まれ、仕事への「結果への無関心」へと辿り着いてしまうことだと言います。
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このようにチームが上手く行っていない機能不全に気付いたとき、松浦氏は「互いを信頼すること」や「アイディアを巡って容赦なく衝突すること」など、機能不全のそれぞれを見直すことが改善のヒントになるのではないかと説明しました。
チームを壊す感情を発露しないために。エモーショナル・サイエンスという考え方
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このように、チームが機能不全になるきっかけには、仕事の中で感情的になってしまい、他人を非難したり侮辱したりしてしまうことが問題というのがわかるでしょう。しかし他人と仕事する上で、自分の仕事の範囲ではないところでミスなどが起きたり、成果物がなしになったりした時、どうしても感情が高ぶってしまう問題は起きてしまいます。
続いて松元氏が、そんな感情との付き合い方についてを解説。感情の発生や性質について研究された書籍「Emotional Science: The Key to Unlocking High Performance」を元に、感情の作用がどのようになるかを解説します。
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まず基本的な感情として、ポジティブな感情について説明。これは幸せや喜びや、気持ちのいい感情であり、周囲と繋がっていくことができる感情であり、チームで仕事するのも重要な要素でもあります。
対してネガティブな感情には怒りや恐怖、嫉妬があり、不快な感覚のためにその状態から脱したい反応が起こるものだといいます。この感情によって、周囲の繋がりから離れていっていまう問題が起きてやすくなります。
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こうしたネガティブな感情は誰でも経験することでもあります。人間が仕事をしたり生活したりする、いわゆる「外の世界」がある一方で、自分自身の感情である「自分の内面」のふたつは相互に関係しており、行動に現れていくのです。
先述の例で言えば「外の世界」としてのチームの仕事でミスをしたスタッフがいると気付いたとき、「自分の内面」に怒りといったネガティブな感情が発生。これが辛いので解消しようとする結果、「非難する」といった行動を「外の世界」で起こしてしまい、ダメージを起こしてしまうのです。
こうしたネガティブな感情が引き起こす行動から、「私たちは、目の前の出来事に見合わないような反応を返してしまう」のだと松元氏は説明。「感情的な振舞ってしまうことで、後でどうしてあんなことをしたのかと後悔してしまうようなことをどうすべきか考えていきたい」と語りました。
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そもそもの感情とは、生き残るために備わっている仕組みです。身体の中で生まれる肉体的な感覚であり、「外の世界」で何かが起きたとき、「自分の内面」に感覚と考えが起こることを指しています。これは人間が行動を起こす時の源でもあります。一方でそれは、人間はロジカルには行動せず、本当は感覚で動いているという事実にも繋がっています。松元氏は、「感情があるがために、自分が脅かされる出来事に素早く反応できる」のだと解説しました。
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さて、なんらかの感情が自分の中に生まれた時、そのポジティブやネガティブの感覚にはどんな性質があるのでしょうか。松元氏によれば「感覚には時間の概念がない」のだといいます。
たとえば新型コロナウイルス感染症の流行で、外出できない昨今ですが、想像の上で温泉に行きたい未来を考えて、温泉に浸かっていることを考えたとき、その幸せを「今」感じるのだと説明。または過去に旅行した記憶を思い出す時、当時の感覚が「今、この瞬間に」蘇っているのだといいます。なので何らかの感情が発生する感覚というのは、実は目の前の「外の世界」で起きたことが原因ではないとのことです。
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しかし、感覚が生まれる原因は目の前で起きてしまった事だと思ってしまいがちです「外の世界」で起きたことは、神経系が似た状況を素早くマッチングし、結果として不快な感覚が生まれ、「今」その不快さを感じるシステムになっているのだそうです。
このことについて松浦氏は「私たちは単にそのようにできている。目の前の出来事に見合わないような反応を返してしまうことがある」のだと説明。なのでそうした構造を理解することで、自分の感情について付き合えるようです。
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では、そんな感情をどうしていくのでしょうか。松浦氏は「そのポイントは、感覚に気づくことでパターンを崩せるということ」なのだと語りました。
神経系は刺激と反応でパターン化しているため、無意識に反応を返してしまいます。そのために、自分では気づけず、似た状況に対して同じ反応を繰り返してしまうため、感情的になったりするのだといいます。
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なのでパターンの存在を認めたり、気づいたりした時に感情のパターンを崩せるのだそうです。そのポイントとして、松浦氏は「感情を自分自身で引き受けること」だと指摘。自身の感情の高ぶりを、自分自身で引き受けていくということが大切なのだそうです。筋の通らない感情に気づいて自由になることや、自分で感情の高ぶりに気づけるようにすることが重要だといいます。
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続いて自分がいまネガティブな感情に蝕まれていると気づいてから、いかに自由になるかの方法が語られました。
まず。ネガティブな感情を持ったら止まること。それから身体にどんな感覚があったかを確かめることと、うまれた感覚が筋が通ったものなのかも確かめることだといいます。そして過去からの感情と受け入れることが大事なのだといいます。松元氏は「自分のなかで。胸のあたりがギューッとしているなと気づくこと」が、こうしたプロセスで重要だと説明しました。そうすることで、感情の憤りを解いていくのだといいます。
しかし自由になったとしても、まだ感覚は残ってしまうとのこと。この感覚を十分に味わい、表現されなかったら、自分の中で蓄積されてしまうそうです。
不快感が身体の中にあることを神経系はもっとも嫌うため、感情の高ぶりを見つめたうえで、蓄積しないようにしっかり味わっていくことだといいます。具体的な方法は、「10分深呼吸を続けることで、感覚を味わっておく」ことだそう。
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さらに一旦感情が生まれるループが出来上がってしまうと、堂々巡りに考えるようになってしまいます。こうした罠から脱出する方法として、まずは考えても解消はしないので、同じことを繰り返すことに気づき、考えるのをやめることが第一とのこと。さきほどの感覚を味わう手法を使い、自分の身体の中の感覚を確認していくことだそうです。
また、ネガティブな感情が生まれたことに対して自己正当化したり、陰口や憂さ晴らしをしてしまうのも同様であり、松元氏は「不健全な方法で心の傷を開放している大変問題のある方法」なのだと指摘。これらの感情にも自分で気付き、立ち止まれることが重要だといいます。
「周囲の出来事に反しているのは自分」、「自分には、望まない方向へ行かせようとする部分がある」と気づくことであり、そんな自分自身を受け入れ、繰り返し訓練することでネガティブな感情とうまく付き合えるとまとめました。
アジャイル戦略論
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最後にアジャイルの戦略論について解説。ここまでは「自分の内面」をベースとした個人の精神的な安定のさせ方についてでしたが、実際仕事する「外の世界」の環境が上手くできあがっていなければしょうがありません。いかに「心理的に安全なチームを作ること」が語られました。
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さて、チームの心理的安全性とはなんでしょうか? これは、「ネガティブな可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかがポイントとのことです。
チーム関するGoogleの調査では、次のような結果が出ました。「真に重要なのは、 “誰がどのチームのメンバーであるか”よりも “チームがどのように協力しているか”」であり、「心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていない」、「そうしたチームのメンバーは、離職率が低く、収益性が高く、 “効果的に働く”とマネージャーに評価される機会が2倍多い」
そうした心理的安全性の高いチームとして、さらに効率的に働くためにアジャイル戦略論が役立つのだと言います。
アジャイル戦略ステップでは、「仲間を作り、話し合い、アウトプットし、成果物の置き場を確保し、成果をアピールしたのちに過程を振り返り、技術的な負債を解消する」プロセスで進めていくとのことです。
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まず仲間を作るプロセスについて解説。デレク・シヴァーズのTEDトークにて語られた「社会運動はどうやって起こすか」を引用し、「何かを起こす時。まず最初に仲間をみつけることが大事」なのだと指摘しました。
例として部活やコミュニティをつくることや、気軽に参加できることからチームの信頼を築き上げていくことが重要とのことです。こうして仲間と話し合い、関係を作っていくことがポイントになります。
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ただ、ここでの話し合いも「結果の質から始まって、成果が上がらないのはだめ」とのこと。関係性の構築からはじまって、良い結果に繋げるものが心理的安全性の高いチーム作りの第一歩といいます。
そこで4つの大丈夫を宣言し、チームの心理的安全を高めることが重要とのこと。どんな意見や質問も受け入れても大丈夫、という環境にしておくことで、先述してきたようなチームの毒を生み出す可能性を減らせる模様です。
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話し合いながら良いアウトプットをするには「良いインプットをすること、成果に寄与すること」がポイントになります。チームにおいてルール(ワーキングアグリーメント)を決めておき、情報の置き場をしっかり見えるようにしておくことも大事になるとのこと。
そうして成果をアピールするプロセスでは、まず関係者に期待されている成果がなんなのかを事前に確認し、共通認識にしておくことが重要になるとのことです。
こうしたアジャイルのポイントは、「小さな成功体験を重ねていくことが大事」なのだといいます。成果のアピールには、定期的にアピールする場を作ることや、持続可能なペースで達成可能な目標を計画していくすることが成功体験の積み重ねになるといいます。
チームの心理的安全性を確保するまとめとして、「感謝を伝えあう」、「個人攻撃しない」ことと、「思いやりや発言力を持つ」ことなのだといいます。こうしたことを忘れないことで、チームの関係性を高めることが出来るのだと解説。
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最後に、アジャイル戦略の終わりのプロセスである「技術的課題の解消」について説明されました。
これは、低品質なコードや設計、重いビルドなどの問題をいかに解消するかという課題であり、これを放置して目先の利益を追うと。長期的な生産性を犠牲にした結果、チームが持続できなくなる問題が発生するとのことです。
こうした技術的課題の解消には、可視化することと、関係者と負債の認識を合わせて計画すること、更新する予定日も決めることで、負債を解消していくことが重要だといいます。
多くのメンバーとコミュニケーションを取ることが要求されるため、チームの心理的安全ができていないこうした課題解消は難しいということは耳が痛いマネージャーも多いことでしょう。「複雑で激しい時代を生き抜くために、心理的安全なチームを作ることが重要」なのだとまとめられました。