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オンラインで開催されたゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC2021。ゲーム関連グッズが開発される過程を語る「インディペンデントな会社が「IP」とどう付き合い優れたものづくりをするか」セッションレポートをお届けします。
このセッションには、インディーゲームのプロデュースなどを手がけるワイソーシリアスのCEOである斉藤大地氏と、信州そばなどを手がける山岸産業の代表取締役の山岸靖氏が登壇しました。
如何にして蕎麦屋がアークの『GUILTY GEAR』とコラボするに至ったか
始めに山岸靖氏が社長を務める長野県にある山岸産業は(ブランド「信州油屋清右衛門」)は、信州での創業から97年の歴史を持つ蕎麦屋です。近年お中元やお歳暮の需要が減っていることから、会社として先行きのある事業を行う必要があったということに加え、山岸氏が社長交代したことを切っ掛けに、エンタメ系のIPを利用したコラボ商品の製造販売を始めます。
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コラボ商品化までのパターンは3つ存在し、パターン1が「何を作るかが具体的に決まっている」で、パターン2が「何を元ネタにするかが決まっている」、そしてパターン3が「コラボすることは決まっているが、何を作るかは決まっていない」です。パターン1では、White Owls開発の『THE MISSING J.J.マクフィールドと追憶島』における「THE MISSING ドーナツ」で、このドーナツは各ステージに登場するキーアイテムであり、実際に制作するのは理解しやすい企画です。
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パターン2では『THE KING OF FIGHTERS』における「蕎麦処 八神庵の蕎麦」で、元ネタはドラマCD「NEO・GEO・DJステーション」から来ています。これは八神庵(やがみ いおり)を八神庵(やがみ あん)と読んだら蕎麦屋みたいという定番ネタで、十数年前に山岸氏も聴いた時に実家が蕎麦屋ということから強烈な印象を受けたことから、令和の世に復活しグッズ化させるためSNKに企画を持っていったそう。
初期段階で蕎麦を作るという話が進行していましたが、蕎麦だけでなく「蕎麦処 八神庵」をモチーフに割り箸などのグッズも制作。コラボのタイミングも八神庵が異世界転生などをしていた時期に重なっていたことから、ビジュアルの強烈さも含めて大きくバズったと振り返ります。
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パターン3は、アークシステムワークスの『ギルティギア』シリーズの1キャラクターであるザトー=ONEを題材にした「ザトーショコラ」です。これは、『THE MISSING J.J.マクフィールドと追憶島』のパブリッシャーがアークシステムワークスだったことと、山岸氏が大ファンだったことからコラボすることが決まっていたものの、内容が何も決まっていない状態から始まっています。
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ザトー=ONEが「ザトー(ガトー)ショコラ」で駄洒落として成立しますが、駄洒落の名を持つ商品が世の中数多くあり、ファンが「ダジャレじゃん」の一言で片付いてしまわないように説得力を持たせるたる必要がありました。
ザトー=ONEの設定のなかで、ザトーを敬愛する元部下のヴェノムの存在が最新のストーリーでパン屋になっていたことから「ザトーをモチーフとしたショコラケーキはどうだろうか?」と思いつきます。しかしながら、こういった発想は公式設定として存在するわけでなく、アークシステムワークスへ許可を得ないといけませんが、結果的に快諾されたことで実現します。
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実際にリリースした後の反応は狙い通りのものが来ていましたが、一番嬉しい反応だったのが「美味しい」という感想でした。ケーキの候補には、少し安いものと少し高いものの2種類ありましたが、パッケージとコンセプトから「少し高くても良い物を出そう」と選んだことで、結果的に美味しいという声を得られたと振り返ります。
IPホルダーとグッズ制作側が如何にしてタッグを組むか
ここではIPホルダーとグッズメーカーがタッグを組むことへの利点などが語られました。キャラクターの個性付けのために好きな食べ物として特定の地域の名産品が設定されていたり、ゲームの舞台が実在地域の場合にはその特産品が実物として手元に残るということでゲーム内だけでない体験の補強をしてくれます。広報的な部分では、名前だけでないコンテンツの内容にアプローチする切っ掛けが与えられるという。
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「八神庵の蕎麦」では過去に起こった『KOF』シリーズの歴史に対するアプローチが、「ザトーショコラ」では“ヴェノムは今パン屋をやっているんだ”と『ギルティギア』シリーズが長期に渡ったことで遊ばなくなったユーザーが現在に対してのアプローチする切っ掛けがそれぞれ作れた例であるようです。
他にも山岸氏の視点では、蕎麦の顧客がどうしても高年齢に寄ってしまいますが、コラボ商品であれば年齢の垣根を越えて蕎麦業界ではターゲティングが難しい10代までもが視野に入ってきます。これは販路の拡大だけでなく、未来に繋がる顧客の開拓に繋がるからです。
またメーカー側からIP側にお願いしたいこととして、ゲームやコンテンツのホームページの問い合わせに「ライセンス関係はこうしてください」と一言書いて欲しいということ。なぜなら畑違いの人間が問い合わせるため、この一文があるだけでもハードルの高さが大きく変わってくるからです。
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一方で、IP側からメーカー側へ依頼した場合に、依頼先が決まっているならホームページなどを探して連絡するだけなので、そこまで難しいことではありません。しかし、代表のメールアドレスや電話が一つずつしかないことも多く、営業のメール/電話なども多々あることから初めて聞く会社に対しての警戒心が強く、「こんな会社で、こんなゲームを開発し、このゲームに対して、このような商品を作りたい」という説明まですると、ガチャ切りなど減ると述べます。
他にも、地方銀行に相談する方法があります。地方銀行を経由して目的の情報を得られればベスト。なぜなら地方銀行はその地方の中小企業と取引があり、付き合っている会社の状況を把握しなければならない機関なため、経営者の情報を持っているからです。他にも地方の企業をとりまとめてマッチングなど商談会をしてくれます(地方銀行が勧めてくれるだけでも会社の信頼度が大きく向上するため)。
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また中小企業と組む事への利点としては製造ロットが小さいことが挙げられます。大企業であれば1ロット数万からですが、中小なら1ロットが1000からで、さらに既製品から引き抜くことで100ぐらいからでも利用できますが(例として、無地の商品を貰いラベルなどを自分達で用意するなど)、その商品でなければならない理由がないといけません。一方で、資金が潤沢にあり、宣伝や露出などが目的であれば大企業に話を持ちこんだ方が良いとも加えます。
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IPを借りてゲーム化する場合
続いてはワイソーシリアスの斉藤大地氏による発表です。同氏は、ロードス島戦記をベースにした『ロードス島戦記ディードリット・イン・ワンダーラビリンス』(以下、ロードス島戦記DiW)や「殺戮の天使」などオリジナルIPの制作とIPを借りてゲームを制作するなどの経験を持っています。
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またお金を支払いIPを借りて開発することについてはNDAがあるため言えませんが、よほどの額でない限りお金より企画の内容や信頼の方が大事です。また、このセッションの結論としては「IPは監修が大変(貸す方も借りる方も)」であること。
それは、小さい企画においてお金に絡んだ話でなく(規模の小さいインディーであれば10万本売れてもインパクトがそれほどないと言う)、監修が大変ということであればお金より企画と信頼の話となるからです。前述の通り監修は非常に大変という前提があることから、監修がスムーズに出来る担当者を見つけたら仕事の半分は終わりであるとも結論付けます。
リリースまでのプロセスでとても重要なのは企画概要レビューです。「監修コストが爆発しない企画作り」が大切で、なぜなら小規模なゲームで売り上げの収益も大規模コラボに比べると大きくないとあれば、原作者も担当者も監修コストが掛かる企画はそもそも通りません。企画書でざっくり言ったところで、監修の手順において厳しく、なるべく監修側が見なくて良いように企画を立てる事が重要です。
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監修についての体制作りが重要なため原則として「レスポンスが早く、問い合わせ先は少なく」が大切であることから、アニメの製作委員会案件は難しく、利益についても見られるそう。また連絡に関しても担当者に1本化してもらうことや、原作者に近い編集者や担当者がベスト。またゲーム会社はIPを貸りることについてとても大変なケースが多く、ライツの貸し借りになれていない会社が多ということです。
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『ロードス島戦記DiW』の場合は、「ロードス島戦記」30周年記念企画での打ち合わせで生まれたもの。2020年に「ロードス島戦記」をテーマにしたドット絵メトロイドヴァニアのゲームが登場ということもありSNSで大きく話題になると共に、発表時のプレスリリース記事がファミ通で1位となり、小説の売り上げも増加しています。
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良い担当者を見つけるには「一緒に仕事をしてみる、紹介してもらう」以上のものがないそう。ちなみに「ロードス島戦記」の担当者さんとは5年前に一度別の企画で一緒になり、企画自体はあまり当たらなかったものの縁が続いていたところでの話でした。最後にIPを貸す(ゲーム制作を依頼する)側が気を付けたい要素についてを説明しセッションを終え、パネルディスカッションへと移りました。
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コラボカフェの可能性を熱く語るパネルディスカッション
最後に山岸靖氏と斉藤大地氏による質疑応答やコメント返しを兼ねたパネルディスカッションが行われました。コラボIPに関連した話題のなか気になる内容をピックアップします。斉藤氏が近年気になるものは、コンソールにおいて『ドラえもん のび太の牧場物語』などのIPコラボが多くなっていると思ったようです。
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山岸氏が注目したコラボIPでは、渡辺邦孝氏のアルバム「エスカルゴ・アラカルト」発売記念のケンミン食品とのコラボ「コンバット越前も大好き! ケンミン焼ビーフン“デスクリムゾンクニタカ”エディション」で、過去作が今に知られる切っ掛けを作ったことだからです。
他にも、お酒とのコラボでは、酒販免許がないと作ることも売ることも出来ないことや、突然お酒を造ることも出来ないため、コラボ商品を作るとなれば「既製品の中から抜いてくる」が基本になると解説します。
アニメ版権はゲーム化でのコラボにおいて前述の通り大変ですが、グッズ化に関してはロイヤリティなど関しての流れが解りやすくハッキリと出来ているという。一方で、絵を載せるだけのグッズなら通りますが、中身を作り込まなければならないストーリーやキャラクターが伴うもので、内容に深く関わると突然差し戻しになることがあると述べます(監修者が末端の人間であることも一因と加えられた。頑張れば頑張るほど大変になるため、アニメ関連のグッズは驚きがないものになりがちという指摘も)。
コラボカフェに関して山岸氏は、カプコンの『逆転裁判』コラボカフェにおける「吐麗美庵特製 ソフトクリーム風フォンダンパフェ」が、おっちょこちょいであるマヨイちゃんらしさを表現したものであることから最高の品であると評します(写真では普通だが、持ち運ばれる時に配置が変わり、ひっくり返してしまっているという体で運ばれてくる)。そのため、コラボカフェは食品業界のイメージがあるもののエンターテインメントを体験する場所に近いものであることから、「夢の国にいさせて欲しい」と語りました(一方で斉藤氏が「努力をしないと酷いことになる」と釘を刺した)。
最後の話題でも、コラボカフェでは「劇中に登場した食べ物を極力再現して1万円」というのがあったら山岸氏はそちらを選ぶことと、斉藤氏が現実でのコラボにおいて「IPの体験をなるべく再現することが望ましい」ことや、山岸氏が「意表を突いて欲しいけれど、期待は裏切らないで欲しい」と語り合いセッションを終えました。
以上が「インディペンデントな会社が「IP」とどう付き合い優れたものづくりをするか」の内容でした。筆者がファンとして熱を投じているゲームのシリーズも、25年以上の間にゲーム本体限定版やサウンドトラックCD以外のグッズ販売がほぼありませんでしたが、コラボが実現した背景の話や実際に商品化し販売された数が今回のセッションに通じる内容であることに気付かされます。