
連日、「日本トレーディングカード協会」(以下、トレカ協会)が話題である。
9月に会長の交代が発表され、体制や方針の変更など、様々な動きが予想されるなか、筆者も同協会への取材を調整中である。
今回は周辺取材として、同じくトレカ業界の業界団体である「NPO法人カードゲーム文化振興協会」の代表、大河内氏に話を聞くことができた。
トレカ協会への批判の正体、トレカ業界の本当の問題に迫る。
■大河内卓哉
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)にて、PlayStation用ソフト制作などに携わったのち、バンダイナムコゲームス(現:バンダイナムコエンターテインメント)に入社。ブシロードにおける創業期のカードゲーム事業立ち上げに参画し、主にトレーディングカードゲームのプロデュースや「カードファイト!! ヴァンガード」などの宣伝・番組等で「ドクター・オー」として活躍。その後、NCジャパンなどでプロジェクトプロデューサーなどを歴任。

トレカ協会と大河内氏の協会は何が違うのか
――まずは、NPO法人カードゲーム文化振興協会について教えてください。
大河内氏:当協会は、カードゲームの健全な活用と、文化としての適切な維持・継承を目的として設立された組織です。
営利企業から独立した立場を維持しつつ、業界に寄り添い、健全な発展を目指す志を持った関係者とともに活動を行っています。
――これまでの具体的な活動について教えてください
大河内氏:お伝えできる範囲で説明しますと、市町村やNPO法人から「子どもたちが遊んでいるカードゲームについて、健全な遊び方をするための講習会はできませんか?」という依頼が来た際に、講習会を実施させていただいています。
また、公民館などで実施される、カードゲームの初心者講習会などをお手伝いすることもあります。
直近では、NPO法人秋葉原観光推進協会さまから「いま秋葉原でカードショップが増えているけど、私たちの街についてどう考えればいいの?いまカードゲームの立ち位置ってどんな状況なの?」というご質問を受けました。
私たちからは「せっかくなので、その話は講習会という形も含めて公開で実施しましょう」とご提案させていただいて、イベント開催(2026年8月15日開催の「AKIBAサブカルサミット@神田明神2026」)に至りました。
また、これについて詳細は言えないのですが、放送系の団体様からのご相談にもお答えすることがあります。先日も某放送局さまから「番組内でカードゲームの特集をしたいのですが、どこを取材して、どのような文面で放送すべきでしょうか」とご質問を受けて、アドバイスやチェックなどのお手伝いをさせていただきました。
私たちは表舞台に出る機会はほぼありませんが、普段、皆さんが目にするカードゲームに関する情報の裏側に、関わっていることもあるかもしれません。
――単刀直入に聞きます。貴協会とトレカ協会との違いは何でしょうか。
大河内氏:最大の相違点は「組織の目的と立ち位置」にあります。
当協会は小売業者の利益集団ではなく、過度な商業的利益の追求とは一線を画し、文化的、教育的な観点から持続可能な環境づくりを支援することを、12年前より主眼としています。
具体的には、メーカー側の提供意図を尊重した取り組み支援を最優先としており、特定の商業的利益を守るための団体とは立ち位置が異なります。
また、NPO法人カードゲーム文化振興協会は、社会通念上、健全とは認識しがたい活動や商売を行う組織との連携は、今後も一切ございません。
――ここでの「社会通念上、健全とは認識しがたい活動や商売」というのは具体的に何を指していますか?
大河内氏:過度に射幸性を煽るサービスの展開、例えば「オンラインオリパ」などです。
私はメーカー出身ということもあるので、こういう視点になるのですが、メーカーは商品をできるだけ健全な範疇におさめる努力をしています。
――メーカーの視点から「健全な範疇におさめた」というのは、具体的にはカードパック内のレアリティの封入率などについて、と捉えればよろしいでしょうか。
大河内氏:おっしゃるとおりです。
この記事を読んでくださっている、当時のユーザー様からは、ご不満の声も上がるかもしれませんが、当時の私としましては、細心の注意を払っていた部分であり、レアリティの封入率は、流通量を考慮したうえで、厳密に設定しているものでした。
メーカー各社は、印刷会社様と連携をして、こちらが設定した封入率になっているのか、厳正なチェックを行っています。これらのチェック体制もメーカーの努力によるものです。
その観点において、オリパのような(メーカーでない)第三者が「封入率」を設定した場合「それらの封入率が確かなものなのか」「チェック体制における企業努力がなされているのか」というのは、誰も保証できません。

「誰か」が警察が動くのを察した可能性
――オンラインオリパも重要な論点なので、後ほどさせていただきたく。トレカ協会が立ち上がった際、強い批判がありましたが、批判の正体は何だと考えますか。
大河内氏:メーカー側の信頼を得られないまま、一部の事業者主導で組織化が進められたことが、強い批判を受けた要因だと捉えています。
まず第一に、トレーディングカードというのはメーカーが設計・提供している文化・商品です。
その根幹を軽視し、およそ30年にわたり誠実に業界を支えてきた老舗の小売業者やメーカーの同意を得られないまま、(トレカ業界の代表であるかのように)立ち上がったのが、社会とユーザーにとって違和感だったのかと。
――トレカ協会が立ち上がった際の、大河内さん自身の第一印象は。
大河内氏:「急いだな」という印象でした。
トレカの二次流通市場の急拡大に伴い、法的、社会的な責任を問われる局面に対抗するための組織が立ち上がること自体は、想定していました。
ただ私たちが(こういう組織が立ち上がるべきだと)想定していたのは、CERO(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)のような組織です。
ところが(トレカ協会は)法的、社会的な責任に対抗することを目的とした、議員さんと連携するための組織でした。メーカーとの真摯な対話や協調も見受けられず、あくまで自社、加盟店の商業的利益を保身するための動きに見受けられた点は残念に感じています。
――なぜ、トレカ協会は「急いだ」のでしょうか。
大河内氏:言葉を選ばずに申し上げますと、誰かが「警察が動く」のを察したのだと思います。
トレカの二次流通市場に関して、法的な整備が進んでいるなかで、ここで動き出しておかないとならないと判断した。
もっと踏み込むと、トレカ協会に関連する人物に「損をする人がいた」可能性もあります。
ここで立ち上げざるを得ない人が、先導した可能性はあるでしょう。
――不自然なタイミングで協会が立ち上がっているのは理解できました。ちなみに急いだ結果として、トレカ協会は何かを得られたのでしょうか。
大河内氏:結果として、トレーディングカード振興議員連盟(トレカ議連)を巻き込んだことで、彼らが想定していた活動はできたのかと思います。
しかし、正しく巻き込むべき人たちを巻き込めたのかは難しいところです。このタイミングが正しかったのかどうかは、これからのトレカの歴史が明らかにしていくことだと思います。
――2026年7月23日、トレカ議連とトレカ協会は設立総会を開催しました。彼らとしては、一歩前進したという。
大河内氏:そうですね。むしろあの総会があるから、準備をしていた可能性はあります。
――総会をすることは決まっていて、そのためにトレカ協会を立ち上げたと。
大河内氏:あくまで想像の話ではあります。
いずれにしても、いま立ち上げないといけない理由や焦燥感があったのだと思います。
――ロビー活動としては一定の達成があったとして、ここからメーカーとユーザーの信頼回復をしていくのは経過観察ということでしょうか。
大河内氏:自分たちの健全性をアピールした結果、不信感に繋がった。本当に健全なことをやっているのであれば、その健全性をあえてアピールする必要はないはずなので。
また(批判の正体に)話を戻すと、ユーザーさんはある程度は納得したうえでトレカで楽しく遊んでいるので「これ以上、波風を立たせてくれるな」という想いもあるのでしょう。

トレカ協会は「誰のため」の「何なのか」を示すべき
――もし、大河内さんがトレカ協会の会長を引き継ぐとなったら、まずは何をしますか?
大河内氏:別に要らないので解散します。
現在のカードゲーム市場において、小売店主導による独自の業界団体の必要性は薄いと考えています。
本業界はおよそ30年にわたり、小売店単体の全国組織がなくとも文化と市場を育んできました。
業界全体の健全な発展やルール作りを議論するのであれば、日本玩具協会様などをはじめとする既存の枠組みを通じ、メーカー主導、連携のもとで合意形成を図る形こそが適正であると認識しています。
その前提で、立て直しの話をするのであれば、もっと明確な目的を設定して公示すべきでしょう。設定した目的と行動がズレていなければ、世の中には受け入れられるはずです。
――確かに、いまのトレカ協会の目的は「文化を未来へつなぐ」「人と地域をつなぐ」「信頼される業界の基盤をつくる」など、やや抽象度が高いです。
大河内氏:「誰のための何なのか」を示すことですね。
本当に善意でやっているのか。世の中を正しい方向に導こうとしているか。業界の何を守りたいのか。責任者が肉声で示すべきですね。
――でも、大河内さん的には「不要」なんですよね。
大河内氏:はい。(業界団体がなくても)30年間やってきたことは販売関係者が誇るべき実績です。
ただ、少しフォローをしておくと、「いまは不要」だとしても、今後もそうとも限りません。トレカ業界を取り巻く環境や犯罪組織、世界的な流れも含めて、判断をしていく必要はあります。
――具体的に「どういう状況」になると、業界団体の必要性が上がるのでしょうか。
大河内氏:例えば今後、トレカが世界基準の「第二通貨」として扱われるようになったとき、国際基準の法整備が必要になります。国際社会におけるアンティーク・ヴィンテージが、1934年のアメリカ通商関税法から制定されたように。
今回のトレカ協会も、そういった未来の可能性を察知して動いた可能性もある。
――この取材では、トレカ協会を擁護したいわけでも批判したいわけでもないので、別角度からの問いもさせていただきたく。大河内さんからみて「この部分は叩かれすぎ」という指摘はありますか。「トレカ協会を叩けば、コスパよくトレカ界隈から承認が得られる」という雰囲気も出てきている気がしまして。
大河内氏:いや、むしろユーザーさんがあれだけ声を上げるのは凄いなと。
いまのカードゲーマーと呼ばれる方々は、業界のことを本当によく見ている。ひと昔前の「自分たちは遊べればいい」ではなくなっている。
業界のこと、私たちの好きなことをもっと理解してくれ、という悲鳴ですよね。
――ということは、今の状況は健全ということでしょうか。
大河内氏:まず、言論が弾圧されていないという点が、健全だと思います。
――トレカ協会のような団体が「ユーザー」と「メーカー」の間に立って、ユーザーさんの声を代弁する、またはメーカーに対してけん制するという役割を担うことは難しいのでしょうか。
大河内氏:難しくないと思いますが、まず考えないといけないのが、資本主義だということです。
現状でも、ユーザーさんはメーカーの商品や施策に対して、不満があれば「離れる」という行動で示すことができる。そこも含めて、自由です。つまり、消費者主権における、財布による投票(Vote with your wallet)ですね。
また、2026年1月、アメリカの玩具メーカー・ハズブロ社に対して、同社株主グループが連邦訴訟を起こしました。この訴訟は主に、同社の子会社であるウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の主力商品『マジック:ザ・ギャザリング』の販売戦略を問題視したものでした。
このように、業界団体を介さなくても「声をあげる」ことができる。
その前提があるなかで、第三者の組織が(メーカーさんへ)「それではお客さんが離れますよ」と指摘をしたいのであれば、それはメーカーにコンサルティングとして入るのが筋であって、業界団体が「民意」という形を使って、主張をするのは、私としては違和感がありますね。
ただ、(トレカ協会について)フォローしておくとすると「全て裏側で何かをする」ではなく「表舞台に出る」を選んだのは、良いことだと思います。

本当にヤバいのは「転売」ではなく「オンラインオリパ」
――トレカ業界を取り巻く問題について、教えてください。主に気になっているのは「転売」と「オリパ(オリジナルパック)」の問題です。
大河内氏:まず、転売については、良くある話でありますが「本当に欲しい消費者に届かない」のが問題です。
ここについては「どこまで購入制限をかけるか」という基準や責任を定めることも含めて、メーカーさんや小売事業者さんの努力が進んでいるところかと思います。各所で本人確認の厳格化が進んでいることは良いことと捉えています。
――「オリパ」の問題についてはどうでしょう。まずはメーカー公式パックとオリパの構造的な違いを教えてください。
大河内氏:正規のカード文化と昨今問題視されている商行為を区別する上で、メーカー公式製品と二次流通による「オリパ」の違いを正しく認識する必要があります。
まず、メーカーが製造・販売する公式パックは、健全なゲームプレイやコレクションを前提として厳密な品質管理のもとで生産されています。
製造ラインにおける封入率やロット管理が徹底されており、消費者に対して一定水準の公平性と製品保証が担保されています。
一方で、店舗や個人が独自に再梱包して販売する「オリパ」は、販売者側の完全な裁量によって作られる二次創作的で非公式な商品です。
――「オリパ」「オンラインオリパ」は問題が異なるのでしょうか。
大河内氏:その2つも分けて考えるべきです。
実店舗で販売されるオリパとオンライン販売のオリパは別モノということです。
オンラインオリパは、一見すると公式パックの開封と同じような体験に見えますが、その実態は販売者側の信用のみに依存した不透明な仕組みです。
最大の問題は、「何が実際に封入されているかの客観的な保証」も「表記された当選確率の妥当性を証明する第三者的な仕組み」も存在しない点にあります。
当たりカードが実在するのか、表記通りの確率で排出されているのかを買い手側が検証する術はなく、情報格差を利用して過度な射幸心を煽る構造の温床となります。
メーカーが長年築いてきた製品の価値や信頼を、証明不可能な射幸ビジネスの道具として消費する行為は、業界全体の健全性を損なう要因であると考えています。
――「オンラインオリパ」というのは、ただ単に「オリパ」の通販版ではないということでしょうか。
大河内氏:はい。全く性質が異なります。
そもそもとして、現物があること自体に全く保証がありません。つまり「仮想」でも成立するんです。とても怖いことです。
「ポイントと交換して、商品を渡すよ」という口約束をしているだけなんです。
もちろん在庫管理含めて誠実に行っている事業者もあるかもしれません。でも全てではないと捉えています。
――なるほど、「くじ引きに当たりが入っているかどうか」とは、また性質の違う危険性があると。ただ、それは様々なオンライン商材でも当てはまりますが、その中でもオンラインオリパが問題視されるのはなぜなのでしょうか。
大河内氏:実物の「パック開封」に似せている点です。
まさにいま「パック開封とオンライン開封って何が違うんですか」という問いをいただいている時点で、私たちとしては「やられてる」という感覚です。
まったく別ものなのに、同じものとして扱われているんです。
オンラインオリパって、モデルとしては、カードである必要がなく「100円入れた、80円返ってきた」を繰り返しているだけ。それで胴元は儲かります。
それを現実の店舗や個人主導におけるオリパに似せることで「(実物のオリパ側も)似たようなことをやっているでしょ」という主張で逃げきれると思ってやっている。またユーザーも勘違いして、オンラインオリパを買うようになってしまった。そこは法整備もされておらず、警察の摘発件数も少ない。
業界の「穴」(グレーゾーン)を狙われたので、「やられた」という感覚です。
NPO法人である第三者的な立場としては、現時点でこれ以上は踏み込めないのですが、オンラインオリパについては、国も含めて、波風が立つ形で、皆さんの目についてしまったのかなと思います。
――オンラインオリパの登場によって、従来型の実店舗オリパも巻き添えで「怪しいモノ」になってしまったということでしょうか。
大河内氏:おっしゃるとおりです。
これまでトレカを愛してきた人たちにとって重要な、オフライン市場を壊さないでほしいなと。
確かにオンラインの市場は、時代の流れに従った、新しい市場なのかもしれませんが、商売として根幹にある信用関係や、従来の市場を壊してまでやることではないと考えます。
また、ここからは個人の意見ですが、元々、トレカという遊び方は、親や学校の目を気にして遊んできたもの。それを業界の人たちが、血のにじむような努力で、数十年かけて、イメージをアップさせてきた業界なんです。テレビ広告を打って、電車広告を打って、世の中に周知させた。
各地のカードショップのスタッフさんも、夜遅くになったら、毎日子どもたちに声をかけて、先に家に帰らせているんです。それは風営法の遵守であったり、親御さんに心配を掛けないような配慮だったり。
多くの方々の30年間の努力があった中で、オンラインオリパといった存在によって、また業界の問題が蒸し返されるのは悔しいなと思いますし、メーカー及び誠実な店舗関係者からすると、早く正常化に向かい解決してほしい問題であると捉えています。
――本日はありがとうございました。







