しかしクラウドファンディングを原資としたゲーム開発では、一定期間で「確実に」ゲームを完成させることが求められます。事前に多くのユーザーから資金を調達しているだけに、プロジェクトの遅延や凍結は許されないからです。しかもインディーゲームは少人数で開発される例が多く、追加投入リソースも限られています。そのため、ある意味で商業開発よりも、さらに効率的な開発環境の整備が求められています。
2014年2月にKickstarterで26万ドルの調達に成功し開発が始まった『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)2』(NIGORO)も、その一つです。同人ゲームからスタートし、Wiiウェア版、PCゲーム版とリメイクを展開。海外展開も果たしました。映画「インディ・ジョーンズ」をモチーフとした、ピクセルアート(ドット絵)の横スクロールアクションで、インディーゲームならではの「自分たちが好きなゲームを作る」という気概に溢れています。
『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)2』の開発期間は19ヶ月~24ヶ月を見込んでおり、実質3名のチームで作業が進行中。2Dゲームということもあり、キャラクターなどのスプライトアニメーション制作に「OPTPiX SpriteStudio」が採用されています。ディレクターの楢村匠氏は「前作ではリメイク版の開発を通してクオリティが向上しました。今回は限られた時間内で前作以上のゲームを作らなくてはいけないので、ツール類の選択は重要でした」と語りました。
Kickstarter 『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)2』の紹介ページ
■自前ツールからOPTPiX SpriteStudio への移行
『LA-MULANA』シリーズの歴史は、同社の内製ツールの歴史でもあります。MSXゲームの再現をめざして作られたオリジナル版でもマップエディタをはじめ、さまざまなツールが開発されました。画面に霧状の効果をかけるツールもその一つで、その後長く使用される定番ツールとなっています。

一連のツール類が全面改修されたのが、2008年前後から開発がスタートし、2011年にリリースしたWiiウェア版です。NIGOROにとって、初のコンソールゲーム開発だけに、商用ツールやミドルウェアのリサーチもあわせて進められました。「OPTPiX SpriteStudio」も当時候補の一つにあがっていたといいます。しかしWiiウェアで許容されるメモリ量の制限や、開発コストなどから採用を断念。内製ツールの整備が進みました。
「ツールはプログラマとアーティストの価値観が衝突する部分です。プログラマはデータがきちんと出力されれば良い。アーティストはデータのことは気にせずに、マウスで直感的に作業したい。しかしインディーゲームでは開発チームが少人数で、ツール開発のコストもバカになりません。結局アーティストが我慢すれば良い、ということになりがちです」(楢村氏)。

NIGORO楢村氏
Wiiウェア版のスプライトアニメーションも、当初は楢村氏がPhotoshopでキャラクターを作成後、レイヤー分割されたパーツごとにクリッピングマスクで短径を区切り、各々の座標を一つずつ設定。これらをまとめてデータに整理し、プログラマに渡していたほど。すべて手作業で、これでは作業が追いつきません。そこでメインプログラマの鮫島朋龍氏によって、内製ツールの『ミスティックドラッグ』が開発されました。
もっとも、どれだけ豪華なツールを作っても、使うのは楢村氏一人です。楢村氏は「そのためタイムライン上でキーフレームの編集ができなかったり、アンドゥ機能が省略されたりと、商業ツールに比べると非常にシンプルなUIになりました」と語り、鮫島氏も「GUIによるマウス操作を組み込むと、とたんに開発工数が上がります。自分たちが作りたいのはゲームであって、ツールはその手段にすぎません」との見方を示しました。
その後、ミスティックドラッグはWiiウェア版、PCゲーム版の開発を通して、徐々に機能が拡張されていきました。パーツの拡大縮小・メッシュ変形・加速度パラメータの設定・テクスチャーの自動圧縮などです。ここまでくれば、ほぼ商用ツール並みといっていいほどですが、内製ツールだけに『LA-MULANA』シリーズの開発に特化した作りになっています。
しかし、「どこかでツールの切り替え時期を模索していた」と楢村氏。決め手となったのが、2013年9月の「OPTPiX SpriteStudio」インディーライセンス公開です。商用ツールだけにUIが作り込まれており、直感的に使用できる点も高評価でした。また、『どのくらい売れるか分からないインディーゲーム』において、ツールが無料で、ロイヤリティも一切かからないのも魅力的で、また特設ページでのタイトルの紹介など、ウェブテクノロジがインディーゲームを応援する姿勢にも共感したとのこと。ウェブデザイナー出身で、FlashやAfter Effectsなどのツールに習熟していたという楢村氏は、基本的な操作だけならマニュアル類を読むことなく、すぐにマスターできたと言います。
鮫島氏もOPTPiX SpriteStudioについて、「作成された出力データの取り回しが容易な点が、導入の決め手でした。「OPTPiX SpriteStudio」では、中間ファイルの仕様やSDKがGitHubで公開されているだけでなく、基本機能としてXML形式とバイナリ形式の二種類のデータ出力に対応しています。そのため、組み込み時に問題が生じた場合でも、自分たちでコンバータを作ることができます。うちのゲームはキャラクター数が200体以上と非常に多く、アニメーションパターンも異なるのが特徴です。そのためメモリが圧迫されがちですが、これならどうとでも対応できます」と評価しました。

NIGORO鮫島氏
GitHub OPTPiX SpriteStudio のページ
■NIGOROからの要望で進化する「OPTPiX SpriteStudio」
一方で汎用ツールだけに、使い勝手の部分で要望が挙げられました。
第一に挙げられたのがPhotoshopとの連携強化です。2DゲームではPhotoshopでキャラクターを作り、パーツごとにレイヤー分けして、PSD形式に保存するのが一般的です。現状ではこれを「OPTPiX SpriteStudio」に一つずつ手動で登録する必要があります。そこでPSDファイルをドラッグ&ドロップで「OPTPiX SpriteStudio」にコピーし、自動的にセルマップにレイヤー単位で登録されれば、効率が一気に上がるのです。

なおセルネームも今は一つずつ手作業で修正していますが、レイヤー名が連番形式などでそのまま入るのが理想的。グラフィックデータもPNG形式などに変換してほしい。その上でコンテキストメニューから、データをPhotoshopに戻せると、さらに効率がアップするという要望も出されました。一部のショートカットキーがPhotoshopと異なるのも、作業効率が低下する遠因となっています。
座標設定についても要望が出されました。「OPTPiX SpriteStudio」は座標系にOpenGLを使用しており、小数点第2位まで座標系を指定できます。しかし『LA-MULANA』シリーズは2Dゲームなので、ピクセル単位で座標を指定できた方が、使い勝手がいいのです。またアンチエイリアスについても、そもそもピクセルアートを際立たせたいため、本作においては不要な機能の一つです。
実は「OPTPiX SpriteStudio」には、ゲーム画面に描写したときに、自動的にピクセル単位で位置を修正してくれる設定があります。またデフォルトではアンチエイリアスがONになっていますが、OFFにする設定もあります。しかし、いずれもウェブテクノロジのサポートに問い合わせて初めて知った機能でした。
セル一覧ウィンドウがツールの右側にあった方が、作業しやすいという話もありました。デザイナーの多くは右利きなので、マウスを動かす距離が減るからです。現在もウィンドウを機能別に分離して、好きなように配置できますが、調整をするたびに元に戻ってしまいます。パーツの中心点を決めるツールがスクロールできなかったり、パーツを開くたびにサイズが戻ってしまうのも、作業効率を低下させているといいます。
Ver.5から実装されたインバースキネマティックスについて、一定の評価をしつつも、一部のパーツの動きがキャラクター全体に影響を及ぼしてしまうので、まだまだ改良の余地があると指摘されました。
これらの要望については、ウェブテクノロジ側はすでに認識しており、特に他のツールとの連携・UIの改善を軸として、順次対応していきたいと話しました。

ウェブテクノロジ浅井氏
このほかアニメーションの設定で、一定以上パーツの角度が変わったら、自動的に別のパーツに表示を差し替えられるような機能をつけたらどうか、という要望もありました。
一般的に2Dゲームで大型の多関節キャラクターを登場させる場合、真横から表示されることが多く、動きも操り人形のようになりがちです。しかし『LA-MULANA』シリーズでは、斜めから立体的に表示される多関節キャラクターが多く、パーツの角度指定によるアニメーションだけでは、動きが制限されてしまうのです。
「だったら3Dのプリレンダーでキャラクターを作って、アニメーションさせればいいと言われるかもしれませんが、それでは動きに味や迫力が出ません。ゲーム機のスペックや開発予算に余裕があれば、すべて手描きのパタパタアニメでキャラクターを動かしたいくらい」(楢村氏)。そもそもNIGOROでは、2Dを3Dとは別の表現方式ととらえていると説明します。ピクセル単位で間合いをはかったり、象徴化されたキャラクター表現ができたり、などはその一例。2Dのドット絵アクションを極めたいのです。
さすがに、この要望については「パーツを差し替えるUIをどんなふうに実装しよう…」とウェブテクノロジ側も悩んでいた様子でした。しかし楢村氏は「ツールに限界があっても、それを逆手にとった使い方を工夫するので、大丈夫です」と笑います。さまざまな制限をバネに生まれたアイディアが、日本のゲーム業界を大きく飛躍させる原動力の一つになりました。自分たちも、そうした開発スタイルに憧れがあるといいます。
ゲーム開発者がツールベンダーの予想をはるかに超えた使用法を編み出し、それに対してツールベンダーが機能追加で対応する。この繰り返しでツールは成熟していきます。ウェブテクノロジの「OPTPiX」は、まさにそんな循環でツールをブラッシュアップしてきた歴史があります。ウェブテクノロジ側もこうした知見をどんどん取り入れて、「OPTPiX SpriteStudio」を進化させていきたいと意気込みを述べました。
■インディーこそ、開発に集中するためにツールを使いこなしたい
楢村氏は「ツールやミドルウェアでは、利用者が多いほどポジティブフィードバックが回転する」と言います。利用者が多ければ、それだけコミュニティ内に知見が蓄積され、疑問点に対して回答が得られやすかったり、関連書籍が出版されるなどして、より利用者が増加するというわけです。それだけに、より多くのインディーゲーム開発者が「OPTPiX SpriteStudio」を使用して欲しいし、自分たちがその先駆けになりたいと語りました。
一方でウェブテクノロジ側は、「ゲーム開発者は開発環境やツールに煩わされるのではなく、開発に集中して欲しい。そのために弊社のツールに限らず、便利なツールはどんどん使って欲しい」と言います。「OPTPiX SpriteStudio」で補助ツールやライブラリ群を積極的に公開しているのも、自分たちの作りたいゲームにあわせて、ツールをより便利に使って欲しいという思いからです。
「OPTPiX SpriteStudio」補助ツールやライブラリ群ダウンロードページ
ゲーム機が進化し、グラフィックがリアルになる一方で、インディーゲームではピクセルアートの良さが見直されてきています。ミッドコアなユーザーを中心に、ゲーム体験の揺り戻しが来ているのです。その一方で、スプライトアニメーションを手軽に制作できるツールは、世界的にもそれほど多くありません。インディーゲームの開発シーンで、日本発の「OPTPiX SpriteStudio」がさらにメジャーになることを期待しましょう。
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