まず、エンターテイメントには不況はない、不況にこそ求められるものだ、と自分は常々言ってます。だから世の中が厳しいからエンターテイメントも辛いということはあり得ないと。それは仕事放棄をしているのと同じだと思いますね。
特にバンダイナムコグループの場合は幼児から大人まで幅広いターゲットの商品を扱っていて、いまはハイターゲットの部分が上手くいってます。ただ、人口自体が減少していくの厳しい。ただ、世界を見ればエリアごとにここをトイで、ここをネットワークエンターテインメントで、ここを映像で、という攻め方も出来ると思います。
―――今後は海外市場での活動を広げていくという戦略でしょうか?
現在も世界中に拠点がありますが、更に強化していきます。その中で中核となる考え方は、日本のビジネスをそのまま持っていくのは辞めましょう、ということです。やっぱり、現地にあったビジネスやカルチャーがあるんです。また展開するIPも現地での調達や買収もアリだと言ってます。商品も国によって異なる商品に力を入れていきます。同様に、国によってゲームなのか、玩具なのか、施設なのか、映像なのか、バンダイナムコグループが持ってるポートフォリオを活かしてその国独自の展開を図っていきます。
今のバンダイナムコグループはまだまだ日本主導で日本が潰れると危ういです。でも万一、日本が駄目になったら、米国や欧州あるいはアジアが支えるような本当の意味でのグローバル企業を目指さなきゃいけないでしょうね。今はまだ日本から攻めていく段階。でも早期に各国がそれぞれの国を攻める体制に変えていきます。
―――各国の拠点がより自律的な組織になっていく
その通りです。いま海外に20社以上あるのですが、それぞれが自らビジネスを立案して実行する部隊になっています。本社にグローバル事業推進室という部署があるのですが、本社が世界に指示する部隊ではなく、世界各地の拠点が日本に持つオフィスという位置付けでやってます。各国での採用にも力を入れて、そこで生まれたものがグループを更に押し上げるという形になると良いですね。
―――最後に、今後のバンダイナムコエンターテインメントが目指す姿を聞かせてもらっても良いでしょうか?
2012年から社長をやらせてもらってますが、10年以内に世界各国に展開していく、そして今はない事業を立ち上げていくということを掲げました。そして目指す姿というのは、世界の人々にとって無くてはならない会社にすることです。ディズニーが無くなったら悲しむ人はかなりの数になるでしょう。でもバンダイナムコが無くなって悲しむ人はその1/100くらいかもしれない。それじゃあ寂しいですよね。エンターテイメント企業として、それくらい愛してくれる人を増やしていく。そうすれば数字は付いてくるはずです。そう長くやるつもりはありません。2020年の目標を掲げて邁進しています。これからも楽しみにしていてください。
―――本日はどうもありがとうございました
インタビュー取材後記:黒川文雄
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大下さんと初めてお会いしたのは今からは12年前くらいだったと思います。大下さんがバンダイネットワークスの代表取締役に就任した頃で、私自身は、株式会社デックスエンタインメントを起業した頃と記憶しています。詳しい提案内容は忘れましたが、モバイルコンテンツかPC向けのオンラインゲームでの協業の提案だったと思います。
当時、すでに大下さんのバンダイグループでのiモードコンテンツへのチャレンジは話題になっており、玩具メーカーの老舗の関連会社が携帯コンテンツをやっているのか・・・と、バンダイグループの懐の深さを感じたものです。しかし、それ以上に感銘を受けたことは、起業したばかりの私の話を真剣に聞いていただき、さらには丁寧なアドバイスもいただきました。気取らない親身な対応は大下さんの人柄を感じたものでした。
その後、あっという間にバンダイナムコHDの取締役、バンダイナムコゲームスの常務、バンダイビジュアルの代表を経て、2012年にはバンダイナムコゲームスの代表取締役に就任されました。この間の異例のスピード昇任には驚かされると同時に、大下さんの手掛けてきたコンテンツのマルチ展開が促進される目の当たりにしました。
今回、このザ・インタビューズで取材させていただくにあたり、取材を一番楽しみにしていたのはかく言う自分自身ではなかったかと思うことがあります。それはバンダイナムコゲームスの社長ということはもちろんですが、それ以上に大下さんの人柄のルーツに触れることができるかもしれないと思ったからです。大下さんとの一問一答による経営観、未来へのビジョンから大下さんの人柄を感じとっていただければ幸いです。