CEDECと同時開催された「『ゲームのお仕事』業界研究フェア」で、この問いかけに対するひとつの答えが提示されました。セッションを担当する小林貴樹氏は、いくつかの会社を経て現在は株式会社スマイルブームの代表取締役を。いわく「皆さんが生まれる前からゲームを作ってました」という方です。
■ゲームに必要な要素とは
講演はまず「ゲームってなんだろう」というところから始まります。
小林氏によれば、ゲームとはつまるところ「遊び」であり、ゲームを作ることは「遊びのルールを作るということ」に他なりません。そこには「明確な勝敗ルール(じゃんけんなど)」「わかりやすく簡単な操作(トランプなど)」「ごほうびによる中毒性(TVゲームなど)」の3段階があるといいます。
TVゲームや携帯ゲームを作る場合、対象となるハードウェアには次の要素が求められます。
液晶モニターなどの「表示装置」。スピーカーなどの「音響装置」。コントローラーなどの「入力装置」。CPUなどの「制御装置」。メモリーなどの「記憶装置」。wi-fiなどの「通信装置」。PCや家庭用ゲーム機、スマートフォンはすべて、これらを備えています。
このように考えると、身近なものでも制御できればゲームを作れそうな機器があるといいます。地デジ液晶TV、パチンコ台、プリンターの複合機、銀行のATM、電子レンジなどがそれに当てはまります。
小林氏は「銀行のATMは、ニンテンドーDSの親分みたいなもの。カジノマシンとしては最高の装置」といいます。考えようによっては、カーナビでドライブゲームを作ることもできるとのこと。
■仕組みはいたってシンプル
ここからはソフトウェアの話に入っていきます。
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ジャンルによるプログラムの違い |
小林氏は「ゲームはどれも基本的な流れが同じ」といいます。その流れとは、1.コントローラーなどでの入力。2.プレイヤーキャラなどの制御。3.物体や背景、エフェクトの描画。4.同期。そして1に戻る。この繰り返しとのこと。
たとえば将棋では1手ごとに、格闘アクションは1/60秒ごとに、RPGではターンごとに、『Excel』ではキーが押されるごとに「入力」があります。またそれぞれ、駒を置く、攻撃or防御をする、コマンド選択、セルを選んで数字を入力するといった「操作」があります。さらにこれらには、駒を置いたとき、1/60秒、セルの内容が変わったときに「描画更新」が行われます。
つまり、いずえも処理内容として大きな違いはなく、「入力を待って、物体を移動し、決定する作業の繰り返し」なのです。
また、テキストを表示する場合も、2Dグラフィックで表示する場合も、3Dで表示する場合も、入力はどれも1/60ごとに受け付け、どれも1/60ごとに処理。表示も「座標を指定し、1文字(or画像orモデル)ごとに表示」するという意味では同じです。やはり、プログラムの処理内容としてはどれも違いはありません。
「ゲームを作るというと、いきなり豪華なゲームを作ろうとするかも知れないが、それは難しい。でも、どれも根っこは同じ。最初はテキスト(文字)だけで作ってもいい」と小林氏。結局はアイデアが勝負になるといいます。
「テキストだけでゲームを作ってもいい」例として、小林氏はテキストベースのシューティングゲームを公開します。これは「PLAYER」の文字で構成された自機を操作し、「SHOT」という弾で「ENEMY」という敵を撃ち落とすもの。見た目はシンプルですが、シューティングゲームとして成立しています。
次に、このテキストシューティングに2Dグラフィックを重ねたものを見せます。見た目は一気に変わりますが、処理に関して「やっていることはまったく同じ」。さらにカメラの向きを変え、3Dゲームにしたものがスクリーンに表示されます。これもやっていることはテキストベースのシューティングと変わらないとのこと。
つまり、やはり表示、音、人力、制御、通信の要素さえあれば、ゲームは作れるのです。
■己の「立ち位置」を決めよう
小林氏は「できるのであれば、企画、デザイン、プログラムをすべてひとりでやるほうがいい」としながらも、いきなりではハードルが高いため、まず自分がどの立場でゲームを作れるか考えるといいといいます。
まず、プランナーとしてゲームを作る場合。企画書は3枚でいいといいます。「表紙」「セールスポイント」「画面と操作」を用意し、表紙には世界観やイメージ、ロゴをしっかり描きます。セールスポイントは3点。他にはない要素をまとめます。「細かく書きたくなるが、まとめて書くのも訓練」と、小林氏はいいます。そして「画面と操作」。ここにはメイン画面や基本操作などを簡単な絵で説明します。
同社ではスケッチブックに鉛筆で書いた企画書を、スキャンしてパブリッシャーに提出することもあるとのこと。「企画書にいろんな飾りつけをしても、長く業界にいる人をだますことはできない」といいます。
次に、デザイナーとしてゲームを作る場合。デザイナーには、いくつかの職種があります。「美術設定」は紙と鉛筆、絵の具といった美術用具だけで純粋に絵やコンテを描きます。「2Dデザイナー」は『Photoshp』などで色を着け、表現します。そして「3Dデザイナー」。『Maya』などのソフトを用い、立体的なモデルを作ります。これらのうち、自分はどれで攻めるかを考える必要があります。「絵が上手だからといって、3Dモデルがうまく作れるわけではありません」。同社の3D担当者が描いたうさぎの絵を見て「爆笑したことがある」といいます。
自分の得意な表現を見つけ、ゲームのビジュアルを提案することが重要なのです。なお、プレゼンの際には、FLASHやムービー編集ソフトを使って映像で見せると説得力があるとのことです。
最後にプログラマとしてゲームを作る場合。
プログラマも技能によって役割が異なります。まず「ツール」担当。画像データやデータを効率よく変換する仕組み作りをします。「ゲーム本体」担当者は、ゲームソフト本体のプログラムを作ります。そして「共通処理の再利用」。ゲームをいくつか作っていくと、共通で使えそうな処理が見えてきます。それを担当します。「プログラマとして自分の強みをいかしたコードを書き、売り込みましょう」と小林氏。
■とにもかくにも最後まで
以上のようにコンピュータでゲームを作る際に重要なことは、「なにはともあれ作ってみる」ということと「プロ用の道具は不要」だということです。
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学生に贈るアドバイス |
「なんでもいいから1つ作ってほしい。それができればやっていけます。最初から売られているゲームと同じ物を作る必要はありません」と小林氏。いつまでも「作ってみたいんだけど…」で終わってしまう人は、たとえゲーム業界に入れたとしても、苦労するだろうといいます。
・(ゲームに限らず)自分の力で最後まで作った経験のある人
・新しい技術や表現に興味があり、応用力のある人
・他の人の気持ちになってものごとを分析できる人
こうした人材が、いまゲーム業界に求められているというのです。