えー、こんにちは。
この連載は、ゲーム会社のマーケティング部、宣伝部にお勤めの、わりと若手の方をメインターゲットとしております。「KPIを設定することでROIが云々かんぬん」と、会話のほとんどを英語や数字で占めるような宣伝担当者に、「そんな魂でゲーム広告作ってええんかオラー」と言ってくれと。そういうご依頼で始まったものです。
僕は小霜和也と言います。
広告のクリエイティブディレクター・コピーライターとしてこれまで数百本のゲームCMを企画制作してきました。そのほとんどがプレステ関連です。最初に書いたゲーム広告コピーは1994年プレイステーション市場導入時の「全てのゲームはここに集まる。PlayStation」でした。まあ、これは広告と言うよりはCI(Corporate Identity)・BI(Brand Identity)と呼ばれる領域の作業かもしれません。直近の仕事はPS Vitaの「共闘先生」シリーズです。あれでPS Vitaは元気になりました。
自分、たいていの仕事を外しません。あまり失敗しません。
「プレイステーションのあのキャンペーンはどうなんだよ」と思われた方、それが何を指しているのかわかりませんが、おそらく僕の仕事ではありません。ずーっとプレステ一筋だったわけではなく、何年か関わっていない時期もありました。その「どうなんだ」キャンペーンはおそらくその時期に実施されたものではないかと。
そういった時期、僕はXbox「特命課」シリーズなどをやらせてもらっていたりしました。皆さんからはわかりにくかったかもしれませんが、これはこれで期待したとおりの成果が上がりました。
なぜ僕は「ドクターX 〜外科医・大門未知子〜」のように「私失敗しませんので」と言えるのか?その大きな理由は、この連載の第一回のテーマでもあるのですが、常に「義」を持っているからです。
皆さんはゲーム広告を実施する際、「義」を持っていますか。
つまり、「この広告によって、このゲームをプレイする人がどんどん増えたら、それだけ世の中は良くなるぞ!」という信念を持ってやってますか? ということです。
宣伝担当に限らず、いまゲーム会社でそこに自信を持っている人は少ないでしょう。仕事終わりで飲みながら「おれはホントはスマホゲームなんかさあ…でも、働くってそういうことだしさあ」なんて言ってるんじゃないでしょうか。心の中に「仕方ないよね」を飼いながら広告作っても、どこかでうまくいかなくなります。ちょっとしたことで判断がぶれて、破綻が始まるからです。
日本では、お金儲けにはどこかやましさが付きまといます。利益を上げている企業にはクレームが入りやすいし、何かとメディアで叩かれますし、お上も天下り先でない業界には容赦なく規制をかけてきます。実際、コンプガチャ規制でグリーやモバゲーは大きな打撃を受けました。
だから、認知度を〇〇%以上にしよう、とか、課金ユーザーのCV率を○%引き上げよう、とか、そういうのを目標にすると、「とは言えクレーム来ないかな…」「あまり儲かりすぎるのもどうなのかな…」「おれのやってることは社会的にどうなんだ…」みたいなノイズが紛れ込んで、どこを向いて走ればいいのかわからなくなってくるわけです。どこかが少しずつ病んできて、広告会社のプランナーたちに「〇〇さん、言ってることがいつも違うんだよな」などと陰口を叩かれたりします。
急に成長した企業が急に衰退していくことって多いですよね。そこには大きな原因が一つあります。
ブレです。
トップもブレます。「商品ベネフィットはしっかり伝えつつ、あまり目立ちすぎないCMにしろ」なんて矛盾した指令が下りてきたりします。そして担当者が「まあそういうことでひとつ」と代理店にハッキリしないオリエンをし始めると、それは衰退の始まりでもあります。
僕はプレステの最盛期を知っていますが、トップが全くブレませんでした。途方もない目標設定で皆を啞然とさせましたが、皆さん必死でついて行ってました。そこにあったのは「自分たちがしていることは完全に正しい」という確信だったと思います。
プレステの最初のキャンペーンが始まる直前、果たしてこの仕事を引き受けるべきかどうか僕は上司に相談しました。「TVゲームなんかが普及して世のためになるわけない」と。上司は「泣く子と時代には勝てないのだ」と言いました。デジタル化の流れは止められないし、TVゲームも普及していくだろう。なら、おまえが自分でやる方がいいじゃないかと。
なるほど!
僕はTVゲームの善なる部分に目を向けようとし、プレステを「現代のキャッチボール」と考えることにしました。昔の父子は道端でキャッチボールして、絆を確認したものです。もしかするとこれからはTVゲームがその役割を果たすんじゃないかと。そのコンセプトは大いに当たりました。
スマホゲームに善なる部分はあるでしょうか。
「ある」と僕は思います。
人間は何かに依存して生きる動物ですが、スマホゲームにハマったおかげでアル中やヤク中にならずにすんだ人もいるかもしれません。自殺の衝動を生み出すものは社会からの孤立感ですが、スマホゲームのつながり感のおかげで思いとどまった人もいるかもしれません。「このゲームが普及すれば、社会はこんなふうに少し良くなるはず」。まず、そういう「義」を見つけてください。そして、代理店にはブレずに確信を持ってオリエンしてください。
今、一見、スマホゲームはビジネスがうまくいっているように見えます。が、その大半は、パズドラが作った流れに乗っただけとも言えるのではないでしょうか。自分で流れを作れない企業は、流れが弱まれば溺れます。「あっちへ向いて泳ぐんだ」という確信を今のうちに作っておかなければいけないのです。
では、次回では、ゲーム広告における「コピー」の話をしてみます。
■著者紹介
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コピーライター、クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント。博報堂でコピーライターを務めた後、独立し現在は株式会社小霜オフィス、ノープロブレム合同会社代表。プレイステーション、KIRIN一番搾り、その他日本を代表する数々の広告キャンペーンを手掛けてきた。ゲーム関連での実績多数。近著「ここらで広告コピーの本当の話をします(宣伝会議)」が大ヒット中。
ノープロブレム合同会社 / 小霜オフィス