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イベントは三部構成で、はじめに音楽制作やDAW専用PCの制作・販売などを手がけるOM FACTORYの大島崇敬氏が、「Nuendo 7」の特徴やシリーズの歴史などを紹介。続いてAudiokineticの田島政朋氏が「Wwise」と「 Nuendo 7」を連携させた新しいワークフローについて解説しました。最後にプラチナゲームズの山口裕史氏と中越健太郎氏が『ベヨネッタ2』のBGMとSE制作について語りました。
はじめにゲームオーディオの制作と組み込みについて、改めて整理しておきましょう。ゲームオーディオはオーディオクリエーターが素材となるWAVファイルを制作し、それをプログラマーが実装するのが、もっともシンプルな流れです。
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しかしゲーム開発の大作化や複雑化に伴い、大きく2つのツールが使われるようになっていきました。多彩なWAVファイルを制作するためのDAWと、組み込みの手間を省力化するゲームオーディオミドルウェアです。このうち前者の例がNuendoで、後者がWwiseとなります。
これにより、レースゲームで車がトンネルに入るとエンジン音の響き方が変化するといった、インタラクティブなサウンド演出を、プログラマーの作業を最小限にとどめながら、オーディオクリエーターのデザインを反映させることが可能になっています。
しかし、コンソールの進化と共にWAVファイルの総量は増え続けています。しかも最近では多言語展開が当たり前になっており、中でもボイスファイルは言語数分だけ増加していきます。これらを一つひとつ調整するのは(それこそファイルを選択するだけでも)大変な手間です。しかし、田島氏はNuendo 7で実装された「Game Audio Connect」機能を使うと、Nuendo 7とWwiseでファイルの受け渡し処理や修正作業などが非常に簡単になると説明しました。
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●作業の手間が半分になる新ワークフロー
【従来のワークフロー】
1. DAWでオーディオを作成
2. バウンス(WAV、Aiffの書き出し)
3. DAWマシンからWwiseマシンに音楽ファイルを移動
4. WwiseでWAVを実装
5.(修正が必要な場合)DAWでオリジナル波形を検索
6.(修正が必要な場合)DAWでオリジナル波形を修正
【Game Audio Connectを用いたワークフロー】
1. Nuendo7マシンでオーディオを作成
2. Game Audio ConnectでWwiseマシンに音声ファイルを移動
3. Wwiseで音声ファイルを実装
ポイントはバウンスの処理と、修正が必要な場合の作業フローがなくなっていることです。もちろんバウンスをしなくて良い、修正をしなくて良いということではなく、各々の手間を感じさせないくらい、Nuendo 7とWwiseが統合化されているという意味です。田島氏は今回のワークフローの改善で「いちいちファイルをハードディスクから検索する手間が省けて、作業がぐっと効率化される」とアピールしました。
上記の手順について会場で行われたデモに即して説明しましょう。はじめにNuendo 7マシンからIPアドレスとポート番号を指定してWwiseマシンとリンクします。次にNuendo 7で作成した波形を画面下部のGame Audio Connectエリアにドラッグ&ドロップすると、即座にWwiseのエディタ上に表示されます。Nuendo 7で複数の波形を選択して、まとめてバウンスし(後述するインプレスレンダリング)、出力先をWwiseに指定する(レンダーエクスポート)といったことも可能です。
逆にWwise側から「Edit in Nuendo」をクリックすると、Nuendo 7側でオリジナル波形が編集作業されていたプロジェクトが立ち上がり、その波形を選択するところまでが行われます。これにより、いちいちフォルダを開いてファイルを検索といった作業から解放されるのです。ちなみにファイルの受け渡しは社内ネットワーク環境だけでなく、インターネット経由でも可能だとのこと。海外のサウンドクリエイターとのリアルタイムな協業なども(理論的には)可能ではないかとも話されました。
プラチナゲームズが語ったゲームオーディオ制作術
続いてセッションはプラチナゲームズのサウンド制作に移りました。同社ではゲーム開発スタジオでは珍しく、BGMチームが6名、SEチームが7名からなる内作サウンド制作チームが存在します。しかもBGMとSEで別々の専用スタジオがあるほどのこだわりよう。もっとも『ベヨネッタ2』の開発時はCubase 7(最新版は「8」)が使われており、Game Audio Connectをはじめとした Nuendo 7の機能については、まさにテスト中だと話していました。
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ちなみにCubaseはシーケンサー、Nuendoは業務用の編集ソフトとして誕生し、それぞれバージョンアップを重ねてきました。今ではNuendoはレコーディングやマスタリング業務に領域を広げ、映像業界でポストプロダクト向けのソフトとして活用されています。一方でCubaseとNuendoはバージョンアップのたびに互いの機能を取り込んでおり、ファイルの互換性も高い状態で保たれているとのこと。BGM側を担当した山口氏は、もともとCubase 7で制作されたプロジェクトを、今回のデモ用にNuendo 7で紹介しましたが、プラグインなどの対応も含めて、特に問題はなかったと言います。
会場で披露されたのは『ベヨネッタ2』のメインテーマで、64トラックで構成されているとのこと。プラグインでは「HALion Sonic SE」「Prologue」などが使用されており、女性らしい音色をつけるのに一役買っていると話していました。プラグインエフェクターではボーカル用に「JJP-Vocals」、マスタートラックに「Magneto II」などを使用。日本人のサウンドエンジニアが制作しているリミッター「Invisible Limiter」も使用していると話されました。これには総合司会を務めた大島氏も興奮気味で、山口氏と2人で「Invisible Limiter」を絶賛する一幕もありました。
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アレンジャートラックを用いた、ゲームオーディオならではの活用方法も紹介されました。アレンジャーエディターでは音楽をブロック単位で管理でき、リピートやジャンプなどの設定もできます。これにより通常はシーンAの曲をループで再生しておき、ピンチになるとBの曲、ボスではCの曲といった具合に、ゲームの状況ごとに異なるサウンドを再生する、インタラクティブミュージック的な演出が可能になるといいます。
バウンス関連の新機能でSEの実装が劇的に改善
続いてSEを担当した中越氏から、Nuendo 7の新機能である「インプレスレンダリング」「レンダーエクスポート」「IOSONO Anymix Pro」などの紹介がありました。インプレスレンダリングは単に波形をバウンスするだけでなく、元のトラックに施されたエフェクトなどをオーディオに含めるか否かといった、細かい設定ができる機能。複数のファイルを選択し、それらを別々のオーディオイベントとしてレンダリングすることも、バウンスして一つのファイルにすることもできます。
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レンダーエクスポートは前述の通り、バウンス時にWwise側の作業フォルダを指定して、直接送信できる機能。オリジナルの波形データの修正が必要な時も、前述のとおりワンクリックでNuendo 7のエディタ上で開き、作業ができます。IOSONO Anymix Proは音源からの距離減衰や音色の変化を同時に設定できるプラグインで、Nuendo7には標準で付属しています。大島氏から「Nuendo 7で使いたい機能は」という質問に対して、中越氏は「バウンス関連での時間短縮は計り知れないほどで、ぜひ使いたい」と話していました。
会場では「Nuendo 7とWwiseの組み合わせをぜひ試してみたい」という声が聞かれた一方で、「1つ2つ導入しても意味がなく、チームで導入する必要がある。コストに加えてワークフローを一新する必要もあり、相当な覚悟が必要だ」といった声もありました。またこれまで映像業界のポストプロダクション向けに使用されてきたDAWが、ゲーム開発のワークフローにがっつりと絡み始めてきたという状況自体に対して、業界の活性化につながると肯定的に捉える声も聞かれました。
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プラチナゲームズの中越健太郎氏(左)と山口裕史氏(右)