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インタラクティブミュージックの制作・管理、マルチプラットフォームへの対応など、ゲーム開発に最適なオーディオミドルウェア「Wwise(ワイズ)」。同製品をグローバルに展開するAudiokineticは、日本法人が2024年で設立12年目を迎えるなど、日本での存在感も日に日に増しています。
GameBusiness.jpは、AudiokineticのCEOであるMartin H. Klein(マーティン H. クライン)氏と並ぶ共同創業者の1人で、製品責任者のトップであるSimon Ashby(サイモン・アシュビー)氏にインタビューを実施。Audiokineticが提供する製品・ソリューションの魅力や、ゲーム業界の未来について伺いました。
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「開発者がクリエイティブに専念できるツール」を目指して開発された「Wwise」
――まずはAudiokinetic設立の経緯を教えてください。
Simon Ashby氏(以下、Ashby)私がビデオゲーム業界に足を踏み入れたのは1997年で、キャリアのスタートはゲーム開発スタジオでした。当時のゲーム業界には「Wwise」のような商用のサウンドテクノロジーがなく、サウンドエンジニアやコンポーザーが制作したサウンドをゲームに組み込むには、プログラマーにコーディングしてもらう必要がありました。
サウンドをゲームへ組み込むフローに画一的なメソッドやミドルウェアが存在せず、どうしても大仕事となるので、私たちは週に70時間、80時間と働くこともありました。これは私が所属していたスタジオ固有の問題ではなく、当時の業界全体が頭を悩ませていた問題でした。
Audiokineticの共同創業者であり、現CEOでもあるMartinと「Wwise」を開発する意義を見出したのは、そうした状況を憂えてのことでした。「エンジニアやコンポーザーがもっとクリエイティブに専念できるよう、サウンドや音声を簡単にゲームに統合できるソフトウェアを作ろう」と意見が一致したのです。
――そういった経緯で誕生した「Wwise」がどのような製品なのか、あらためて教えてください。
AshbyWwiseはオーディオに特化したクロスプラットフォーム対応のミドルウェアで、オーサリング、ダイナミックミキシング、スペーシャルオーディオをはじめとするさまざまな機能を通じて、インタラクティブなオーディオ向けのソリューションを提供します。またゲームならではの没入感のあるオーディオ体験をプレイヤーに届けやすくするものです。
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――「Wwise」の開発にはどのくらいの期間を要しましたか。
Ashby「Wwise」は2003年から開発に着手しました。サウンドエンジニアがプログラマーの手を借りずにサウンドをゲームに組み込めるソリューションですから自信がありましたし、みなさんにすぐ使ってもらえるはずだと意気込んで2006年夏にリリースしました。しかし、最初から順風満帆とはいきませんでした。スタートアップである私たちの知名度や信頼性が不足していたからです。
まずはサウンドエンジニアたちと交流を持ち、少しずつ関係を深めていくことで、Ubisoft、Electronic Arts、Microsoft、Activision(現Activision Blizzard)などさまざまなスタジオに採用してもらえるようになりました。日本でも大手をはじめとするさまざまなスタジオに採用してもらっています。
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25万米ドル未満のプロジェクトは無償で利用可能
――AAAタイトルを数多く輩出している企業の名が並んでいますね。
Ashby当初は、PCとコンソール向けのAAAタイトルを手がける企業での採用を見すえて、一定の価格で利用できるマルチプラットフォーム型ソリューションを提供することに注力しました。
やがて、リリースから数年が経つと小・中規模なインディーゲームやモバイルゲームでも採用されるようになり、新たな課題が生まれました。小規模なデベロッパーから、もう少しシンプルなものを安価で提供してもらえないかと相談されるようになったのです。
――そうした要望にはどう応えたのでしょう。
Ashby機能面で妥協をせずにあらゆる規模のスタジオに「Wwise」を届けられるよう、2022年4月1日から、開発予算25万米ドル未満のプロジェクトであれば無償で「Wwise」を利用できる「インディーライセンス」を提供しています。
あらゆる規模のチームに「Wwise」を使ってベストなサウンド体験のゲームを作ってほしいという思いからでしたが、このライセンスモデルを提供し始めて以来、他社からも同じようなライセンスが提供されるようになり、私たちはこの決断を下したことを誇りに思っています。
ゲーム開発者は優れたゲームを世に届けるための「同志」である
――「Wwise」の特徴・強みを教えてください。
Ashbyあるゲームのプレイヤーが100万人いたら、そのゲームの音の鳴り方も100万通りあるといえます。「Wwise」の強みは、プロジェクトにインポートしたサウンドアセットに動作や情報を設定することで、プレイヤーのさまざまなプレイに対応したサウンドを詳細に設定できることにあります。
ゲームエンジンに「Wwise」サウンドエンジンを統合したあとは、サウンドチームがプログラマーの手を借りることなく、サウンドに関するワークフローを進められるのも大きな魅力です。ゲームにサウンドを組み込む一連のフローにおいて、時間がかかってしまいやすい作業の手間が最小限におさえられています。
――モバイル端末など、スペックに制限があるプラットフォームでの利用も可能なのでしょうか。
Ashbyゲーム開発において重要なのは「ゲームはハードウェアで動くソフトウェアである」ということです。ハードウェアのCPUやメモリには限りがありますし、例えば古いモバイル端末から最新のハイエンド端末まで、ゲームが対応するプラットフォームによってそのスペックもさまざまです。
「Wwise」はチームがモバイル、コンソール、デスクトッププラットフォームの仕様や制限に合わせて、サウンドエクスペリエンスを簡単に調整できることも強みの1つです。
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――利用者からはどのような声やフィードバックがありますか。
AshbyAudiokineticは毎年Game Developers Conferenceでブースを展開しており、「Wwise」を活用しているみなさんの声を直接聞ける機会になっています。「Wwiseのおかげでクリエイターとしてやりたいことができた」というようなことを言ってもらえることが多いですね。
そして、こちらからは「将来のビジョン」と「改善してほしいところ」を聞くようにしています。彼らが5年後、10年後にどのようなゲームを手がけたいかを知り、「Wwise」をそれに向けて対応させるためです。
また、私たちはAudiokineticをベンダーであると考えたことはありませんし、「Wwise」の利用者を顧客であると考えたこともありません。私たちは皆、ゲームのプレイヤーに満足してもらうための「同志」なのです。常にその一心でコミュニティーの発展や信頼関係の構築に向きあっています。
――「Wwise」の今後の展望を教えてください。
Ashbyこれまでのビデオゲーム業界は、10年が経つと開発チームの規模は5倍に、サウンドの量は10倍に……というようなペースで拡大、発展し続けてきました。
今後の業界がどうなるかを断言するのは非常に難しいことですが、今後は同じペースで拡大するよりは、これまでになかった新たなテクノロジーが必要になるのではと考えています。それはおそらく、機械学習やAIでしょう。
ゲームの世界は大型化する一方ですが、その世界を彩るサウンドをずっと手作業で調整し続けるのは現実的ではありません。「Wwise」のようなミドルウェアが大きな役割を持ち、そうした問題をどう解消するかが問われることになるかもしれません。
「Wwise」とともにワークフロー改善に大きく貢献するマルチトラックサウンドライブラリ「Strata」
――Ashby氏は、新しいかたちのサウンドアセットのサブスクリプションである、マルチトラックサウンドライブラリ「Strata」のプロダクトチームも率いています。Straraの魅力もお聞かせください。
AshbyStrataは、2022年にリリースしたサウンドエフェクトのライブラリです。Footstep(足音)、Vehicle(乗り物)、Explosion(爆発音)など、最初の1年間で37コレクションを提供できました。ソースファイル数でいうと16万、サウンド数でいうと4万7000、全サウンドを連続再生すると255時間におよぶボリュームです。コレクションは、毎月新しいものが追加されています。
他社のサウンドライブラリサービスにはないStrataならではの強みは、ひとつひとつのサウンドが複数のレイヤー(トラックグループ)で構成されており、それを自由に編集してバリエーションを持ったサウンドを自由に制作できることにあります。
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――なぜそのような仕様にしたのでしょうか。
Ashby1本のゲームにはさまざまなサウンドが必要となりますが、すべてのサウンドに一貫した質が担保されている必要があります。しかし、ほしいサウンドを複数のライブラリから探してくるような作り方をしていると、品質に差が出てしまうので最終的な調整が必要になってしまいますよね。
――ゲームスタジオやサウンドエンジニアからその手間を省きたいという要望が寄せられたということでしょうか。
Ashby直接リクエストされたわけではありませんが、私たちは常にサウンドエンジニアたちのワークフローに目を向けており、そういうクリエイティブではない単純作業がしばしば発生することをよく知っています。
その作業を効率化できるStrataのアイディアが浮かんだ時、「これは広く受け入れてもらえるだろう」という確信がありましたが、Audiokineticはソフトウェア会社であるため、欧州最大のオーディオプロバイダであるBOOM Libraryと提携することで実現できました。
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「Wwise」導入によるワークフローの改善はゲーム開発のコスト軽減につながる
――Audiokineticが普段から大切にしている理念はありますか。
Ashby常に誠実であること、真実を大切にすることです。新入社員には、クライアントに自社製品を説明するうえで分からないことがある時はごまかしたりあやふやなままで済ませたりしてはいけない、と常に伝えています。そういう時は、正確な情報を確認して後ほどあらためて回答すべきなのです。
だから私たちは、「Wwise」の導入を検討してくれている企業には「Wwise」を利用する上でどのようなことが課題になりうるのかを正直に伝え、解決に向けて共に取り組みます。クライアントは使用する時どこに気を付ければよいかが分かり、私たちは対応すべき課題をあらためて確認できるのでお互いに効率的です。
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――今のビデオゲーム業界をどのように見ていますか。
Ashby約50年の歴史を持つビデオゲーム業界は、ハード・ソフトの両面で常にイノベーションによって発展してきました。その流れは今後も続くと考えていますが、近年はレイオフの話を耳にすることが多く、今後はゲーム開発時に経済的・財務的なリスクをいかに低減するかも重視されるようになるだろうと認識しています。
Audiokineticのミッションは音に関わるクリエイターやアーティストたちのワークフローを改善し、生産性を上げることでクリエイティブな仕事に一層専念できるようにすることです。今後も、そのミッションを果たし続けたいと思っています。
――最後に、日本の「Wwise」利用者と、これから採用を検討している人へのメッセージをお願いします。
Ashby世界各国の「Wwise」ユーザーが、日々さまざまな形で知見や経験をコミュニティにシェアしてくれています。「Wwise」を誰にとってもよりよいソリューションとするために、日本のユーザーの皆さんにも引き続きご協力いただければと思います。
「Wwise」の採用を検討してくださっている方は、今採用しているメソッドから移行することに抵抗感があるのは理解しています。移行にはどうしてもリスクが付き物だからです。
しかし、「Wwise」を導入したあらゆる方が「Wwiseに変えてよかった」と言ってくれています。もし「Wwise」の採用を決断してくださったなら、お困りの際はいつでもご相談ください。満足していただけるよう、私たちがサポートします。
Wwise製品情報Strata製品情報