多くのゲーム会社は、ゲームビジネスの活性化と収益の回復に向けて、IoT (Internet of Things)を活用した新しいゲーム体験の提供を模索している。インターネットと接続したコネクティビティやセンサー、インテリジェンス機能をデバイスに搭載することで、より豊かなエンドユーザー体験の提供を実現できるため、IoTのゲーム業界での活用はビジネスの成長において非常に有望なものである。IoTのゲーム業界での活用は現時点ではまだ初期段階であるものの、ゲーム市場の将来的な成長のカギとなる、ゲーム業界におけるIoTの5つのトレンドを以下に挙げる。
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1. ウェアラブルデバイスのゲーム
2016年に「ポケモンGO」と連携して使える専用のウェアラブル端末「ポケモンGOプラス」がリリースされ、「ポケモンGO」はウェアラブル端末を展開した初のモバイルゲームである。「ポケモンGOプラス」はBluetoothを用いてユーザーのスマートフォンと接続し、新しいキャラクターが出現した時にユーザーにアラート機能で知らせることができる。「ポケモンGOプラス」は2016年9月にリリースされて以降、売上は好調であり、店舗で見つけることが困難な状態となっている。
また、SNSアプリ「スナップチャット」は、ユーザーがビデオを撮影できる機能を搭載したスマートグラスをリリースした。このスマートグラスはゲームとの直接的な関連はないが、同機能の有効性がひとたび実証されれば、他の分野での活用も今後拡大して行くだろう。さらに最近では、ゲームの世界を衣服を通じて体験できる「ウェアラブルクロージング」が、新たなゲーム体験を提供する技術として注目を集めている。これは例えば、ウェアラブルクロージングを通じて、ボクシングのゲームで実際にパンチを受けたような体験を提供することが出来るといったものである。米国の一部の企業は、ゲームの機能を搭載したウェアラブルクロージングの開発に取り組んでおり、将来この分野でのさらなる進化が期待されている。
2. 現実とバーチャル世界をつなぐ「コネクテッドトイ」
「Toys-to-Life」としても知られているコネクテッドトイ市場は、米ゲーム会社のActivision、米ディズニー、デンマークのLEGOや任天堂といった企業が圧倒的なシェアを占めている。これらの企業は、コンソールゲームでも実行可能なチップセット内蔵のインテリジェントトイを展開している。ディズニーは最近にコネクテッドトイ市場からの撤退を表明し、同市場は飽和状態にあると見られていたものの、IoTを用いたコネクテッドトイのコンセプトは、引き続きゲーム市場で強い存在感を残している。
現在コネクテッドトイ市場で最も大きなシェアを誇るゲームの1つとして、米Ankiの人工知能ミニカー「Anki Drive」が挙げられる。Anki Driveはセンサーと人工知能(AI)を搭載したミニカーの運転を、リモコンとなるiOS端末で操作するゲームであり、操作者の走行パターンを学習するAIアルゴリズムとレースの形式で対戦できる。このゲームは現在米国市場で4番目に売れているゲームとなっている。実在のおもちゃとデジタルの世界をつなぐ「コネクテッドトイ」のコンセプトは、今後ゲーム市場でさらに進化して行くことが期待される。
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3. 拡張現実(Augmented Reality)のゲームでの活用
「ポケモンGO」の大ヒット後、ゲーム会社やコンテンツ所有者は競合他社に先駆けて、同様のゲームの開発を急いでいる。「ポケモンGO」と同類のゲームは間もなく登場するとも見られており、「スーパーマリオ」や「ハリー・ポッター」のARゲームの開発が行われるとの噂もある。ARのモバイルゲームでの活用は今後拡大する見通しであり、AR技術を搭載したゲームは徐々に増えている。例えば、トレーディングカード市場において、米プロフットボールNFLや北米プロアイスホッケーNHLといったスポーツチームは、ARアプリを通じて追加のコンテンツが閲覧出来るトレーディングカードを販売している。ボードゲームもまた、ARの活用が今後見られる分野となっている。
4. バーチャルリアリティ(Virtual Reality)
バーチャルリアリティ(VR)は、未来のコンソールゲームとしての存在を徐々に増している。VRゲームのスターターキットの価格は以前と比べると安価になりつつあり、ソニーのプレイステーションVR (PSVR)の場合は399米ドル、米Oculus社の「Oclus Rift」は599米ドル、米Valveと台湾のHTCが共同開発した「HTC Vive」は799米ドルである。韓国のサムスン電子や米マイクロソフト、米グーグルといった企業の参入によってVRゲーム市場の競争は激しくなっており、イノベーションや価格競争力を生み出すのに十分な土壌となっている。また、VRゲームのコンテンツを開発する企業数も次第に増加しつつあり、VRゲームは今後3年の間に大規模な普及が進むだろう。
5. 「懐かしさ」を体験出来るゲーム
IoTがゲームにもたらす最も重要な利点の1つは、ゲーム体験を通じて懐かしさをユーザーに与えることも出来る点である。「ポケモンGO」のユーザーの多くは、子どもの頃にトレーディングカードやビデオゲームで遊んだ体験を持ち、彼らは自由に使える収入を持つ若い世代の社会人である。また米国では、バービー人形や粘土おもちゃ「Play-Doh」などの多くのフィジカルゲームが、IoTを搭載したバージョンをリリースしている。バービー人形の最新版は、Bluetoothと接続され、ユーザーとおしゃべりができるものである。「Play-Doh」は粘土でつくったキャラクターをタブレットやスマートフォンの専用アプリのスキャン機能で撮影し、ARを通じてタッチなどを通じて画面内でキャラクターの操作ができる。これらの次世代のゲーム体験は、成人と子どもの双方にアピールすることができるだろう。
マーク・アインシュタイン プロフィール
フロスト&サリバン ジャパンICTリサーチ部門ディレクター
通信・デジタルメディア業界において10年以上の経験を有し、マーケットや経営コンサルティング、経営分析における専門知識を持つ。主な専門領域は、スマートフォンおよびタブレット端末の市場動向、モバイルコンテンツ分析などが含まれる。
フロスト&サリバン ジャパンについて
ICTを含む多岐にわたる業界のリサーチ・コンサルティングサービスを企業に提供。新たなテクノロジーの動向や今後成長が予測される市場の分析、成長戦略に強みを持つ。
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