!注意!大人向けの表現が含まれます、18歳未満の方は閲覧をご遠慮下さい。
Valveが運営するゲーム配信プラットフォーム「Steam」。今日、そこには日本のコンシューマーではありえない様々なゲームが存在しています。その1つとして分かりやすいものは、いわゆる“アダルト表現の有無”。本記事では2017年度までの状況を追いながら、現在のSteamにおけるアダルト表現がどうなっているかをお送り致します。
◆2016年以前
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2017年を追う前に、まずはそれ以前の状況について整理しておきましょう。かつてValveは、厳しい内部キュレーションプロセスを持っており、その下では、アダルト表現を含むゲームは愚か、ゲーム要素の少ない、「ビジュアルノベル」ジャンルの存在すら認められてはいませんでした。これについては、当時、日本のアダルトタイトルの海外輸出を主に手がけるMangaGamerが、アニメにもなった一般人気タイトル『ひぐらしのなく頃に』のSteam進出について断られていたことが象徴的でしょう。
@Nagi_jpn もう既にSteamと問い合わせたのですが、「すみませんが、御社のゲームは弊社のサービスに向いていないと思われますので、今のところはお断りします。今後にまたゲームを発売になれたら、またお問い合わせをお願いいたします。」と言うような返事が返ってしまったのです。(1
— MangaGamer (@MangaGamer) 2010年10月20日
この状況が大きく変わったのは、内部キュレーションプロセスを廃止、ユーザーへと委ねるようになった、2012年の「Steam Greenlight」開始以降。そして、Valveですら無視できない大きなファンからの投票を受けて、2015年1月にある1本のゲームがSteamへと登場します。3マッチパズル+ADVに、酷く性的なご褒美画像を組み合わせた『HuniePop』です。今作はそれ以前のValveの基準であれば明確にリリースが危ぶまれる内容でありましたが、同作開発者はこのリリースに際し、Valveと明確に話し合いを持ってリリース許可を得たこと、また“本体自体の表現をトーンダウンさせた上で、性的な内容をパッチとして提供することは問題がない”といった回答を得たと公表しました。
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Everything about HP, including the patch, has been explicitly approved by Valve. Literally a quote from my contact: pic.twitter.com/zfMhcoguYl
— HuniePotDev (@HuniePotDev) 2015年1月21日
実際の所、それ以前から同様のシステムを採用した『Sunrider』『Everlasting Summer』といったタイトルも存在しています。特に後者は、当初そのままアダルトコンテンツを含んでいたため、一時配信停止となった後、パッチ形式でのコンテンツ提供へと切り替えた経緯があります。いずれにしても、『HuniePop』がこの暗黙の了解を明文化したことが1つの契機となりました。
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『HuniePop』の成功により、同様にSteamでゲームをリリースしていた日本の美少女ゲームの海外輸出を行っているメーカーがすぐに追従するかと思われましたが、実際はそうはなりませんでした。これは、MangaGamerが、“本体自体の表現をトーンダウンさせた上で、性的な内容をパッチとして提供すること”について“NG”を出されてしまった事が大きいのではないかと考えられます。
http://forums.mangagamer.org/viewtopic.php?f=2&t=511(リンク先既に消失済み、資料的観点より掲載しています)
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他方、『Sakura』シリーズで知られるWinged Cloudや、様々なビジュアルノベルタイトルの発売を矢継ぎ早に行ったDharker Studioは、パッチによるアダルトコンテンツの提供も含めたタイトルをリリースし続けていました。この非対称性については今後もSteamの表現において大きな影を落としていくことになります。
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話を戻すと、パッチに対し“NG”が出ていた例はあるものの、大半の同系統のタイトルについてはパッチ形式によるアダルトコンテンツの提供を利用、2016年にはパッチ形式は一種のスタンダードとして認識されるまでに成長しました。アダルト表現を採用したタイトル自体も次々と増加し、海外の小規模デベロッパーなどだけでなく、国内メーカーFrontwingなどが参入するように。また、海外で爆発的ヒットになった美少女ゲーム『ネコぱら』も2016年からは正式にパッチ対応が行われています。
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また、2016年には、いずれもライアーソフトの、比較的マイルドな表現のタイトルですが、『屋上の百合霊さん』『黄雷のガクトゥーン』がいずれも、日本では18禁となるオリジナルままの表現でリリースされたことも特筆しておくべきでしょう。
そして状況は2017年へと移行します。
◆2017年
2017年10月、大きな状況の変化を巻き起こしたのは“パッチ形式”に対するValveの対応が変化したことでしょう。突如、ゲームのパブリッシャー・デベロッパーがアダルトコンテンツパッチをSteamコミュニティ上に掲載することを禁じたのです。もちろんこれはユーザーによる情報提供や、パブリッシャー・デベロッパーのSteam外でのパッチ提供までも禁ずるものではありませんが、Valveの突然の態度の変化や説明の欠如は、けして良い兆候ではないと見るべきではないでしょうか。
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特筆するべきは、パッチ形式について“NG”を受けたMangaGamerが2017年6月に改めてValveと話し合いを持ち、パッチについて正式な許可を得ているということです。なお、MangaGamerは『Dal Segno』および、以降のタイトルについては、オリジナルがアダルト作品である場合、大半はパッチ形式でのアダルトコンテンツ提供を行っています。いずれにしても、この話し合いから日を置かずしてのValveの急激な態度の変化には何らかの事情がある可能性を疑わざるをえません。
また、前後して、Steamコミュニティにおけるスクリーンショットの性的な事由による削除・BANが非常に活発化しているという報告が多くのユーザーからもたらされていることにも注目です。コミュニティのBANについては、ゲームのパブリッシャー・デベロッパーおよび、Valveのモデレーターのみが権限を持っていますが、あまりに不明瞭な基準におけるBANが多発してしまったのか、BAN見直しのための専用フォームが新設されるまでに。
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これらの動きについて、Valveからの説明は一切行われていませんが、一部の海外サイトでは、3Dのリアル調のアダルトADV『House Party』などを対象として、その数か月前より行われたキリスト教系の団体による「Valveはポルノを販売している」といったロビー活動の結果ではないかと報じています。
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そのような状況とは離れますが、2017年も新たな多くのパブリッシャー・デベロッパーがアダルトコンテンツを何らかの方法で提供するタイトルをSteamにてリリースしています。中でも大きく頭角を現したのは、主に日本のアダルト同人ゲームタイトルをパブリッシュする“SakuraGame”という、中国に拠点を構えるとされるパブリッシャー。このパブリッシャーは国外配信権(従って日本のタイトルには日本語は含まれず)を得たゲームを、一般的な価格からは(Steamの基準からしても)非常に安価である100~300円程度で配信。更にコストダウンのためか、主な購買層である中国語以外には機械翻訳、もしくは同等内容で提供を行っているのです。中にはゲームのスクリプト自体を機械翻訳にかけたためか、英語では正常動作しないものまで。なお、当該のゲームは現時点では一切の修正はなされていません。
なお、ゲーム内容そのものも特にトーンダウンさせることもなく、CGの局部への修正のみを行っている形であるため、内容だけでなく、ストアページの説明文なども、タイトルによっては一種独特の雰囲気。更には原作が日本のタイトルについてはSakuraGameはパッチを配信しておらず、大半はユーザーが(半ばグレーな)“パッチ”を制作、配信するにまかせているなど独自の対応が目立ちます。
こういったやり方には賛否両論大きく別れるところでしょうが、ユーザー数が多い中国語圏に集中した戦略と、廉価で(パッチ適応後の)CGだけを見られればいいといったユーザーを惹きつける方策は成功しているのか、軒並みユーザー評価自体は高いものとなっている模様です。
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また、同社は2017年末には、アダルトだけでなく、英語や日本語への翻訳が別途進行している一般向けのインディーARPG『The Vagrant』のような、中国圏制作のタイトルのパブリッシュ権の取得にも着手しています。
◆ そもそも今のSteamの表現の“限界”って?
Valveからメーカー直接の宣伝が禁止された“パッチ”。これは一部海外メディアなどでは「アダルト禁止」であるかのように伝えられましたが、実際の所は、この“パッチ無し”でどの程度の表現が行えるのでしょうか。
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参考となるのは、前述したSakuraGameのタイトルや、無規制でのリリースがなされた『屋上の百合霊さん』『黄雷のガクトゥーン』の2例だけではありません。Flaming Fireflyが2016年にリリースしたビジュアルノベル『Treasure of a Blizzard』では、その後アップデートの形で大幅にアダルトコンテンツが追加され、開始数クリックで女性の臀部アップがモザイク付きで画面に映されるように。全体的には、シーン数は少なめで文章での行為描写はほぼなしですが、CGではいわゆる“絡み”の表現が日本のアダルトタイトルよろしくモザイク規制のみで表現されています。これらの表現についてですが、ValveではSteam上での「ポルノ」の配信は以前より禁じている形であり、他の例と合わせれば、テキストや情景面での規制を主に、CGにも日本の青年誌程度に収まるような一定の線引を要求されることを伺うことができるでしょう。
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触シューの性表現はValveの担当者と協議を進めながら日本版と同様のレベルを目指したんだけど、その結果がコレだったりする。
— ぱぃろ (@Piro_Shiki) 2018年1月10日
また、日本の同人タイトルを扱う国内パブリッシャーHenteko Doujinが2017年12月にリリースしたSTG『Tenta Shooter / The 触シュー』では、ステージクリア後に表示されるアダルトなご褒美CGは、局部の描写がもともと無いため、日本国内同人板と異なり、モザイクを排した形となっています。なお、このリリースにあたっては、Valveの担当者との協議の元に決定されているとのことです。また、同じくHenteko Doujinがパブリッシュする対戦メカアクション『Soul Saber 2』においては、女性キャラは、戦闘中の衣服がほぼ全裸になるまで破損、局部以外、胸などは規制なく裸を見ることが可能となっています。(これは日本国内版からの仕様)
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例示したケースを見ても分かる通り、特にGreenlight以降ではお色気の枠について大きく受け入れる例がある一方、以前から続く別種の問題を今も抱えているようです。2017年末に、Valveは、児童への性虐待を問題として取り上げた一般向けのADVタイトル『いえのかぎ』について「ペドフィリアを対象としているため」として、一度行った認可を一転、発売前にSteamから削除を行いました。同作パブリッシャーのHenteko Doujinは、前述した通りタイトルリリースに際しValveとの打ち合わせを行っており、唐突で一方的な条件変更が是か非かは大きく議論となっています。
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そして、2018年に入ってから、日本ではLoseより発売されたアダルトタイトル『ものべの』の一般版がSteamでリリースされました。同作は、伝奇物語としての骨組みは持っていますが、同時にいわゆる“ロリキャラ”に注力したタイトル。Steam版では直接的なアダルトシーンこそないものの、入浴シーンなどで(日本の一般タイトル基準ながら)キャラの裸などを見ることができます。このリリース単体であるならば、何ら問題はありませんが、前述の『いえのかぎ』の件を考えると如何せん不合理な印象を感じることでしょう。
更に、過激な表現でなくとも、アスキーグラフィックでかつてのアダルトサイト界隈を描いたアドベンチャー『You Must Be 18 or Older to Enter』がポルノとして削除されたり、他基準を合わせれば許容範囲内であると思われる一部のタイトルについてもストアから消失するなどのケースも発生しています。
これらの事例に代表されるように、Valveは不透明な判断を下すことが多々あり、この点が、今後のSteam表現基準において、メーカー側にとっての大きなネックとなっていくことを想像するのは難くありません。逆の事例では、Valveの判断が揺るがないならば、テーマ及び対象ユーザーがValveにとって適切と判断される限り、局部をモザイクなどの規制なく直接露出しない大半の描写は許容されうる可能性がある形。この線引が明示化されていくのか今後の焦点となっていくでしょう。
◆ 2018年~
2018年1月末現在、Steamのコンテンツを取り巻く状況は2017年末から大きな動きを見せていません。しかしながら、既にアダルト表現を含むタイトルが一定の評価をSteam上で確立してしまっている以上、現在のままで行くならば、今後も同様のタイトルは多くSteamでリリースされることになるのでしょう。
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しかし、国内メーカーに限って言えば、日本語に対するリージョンロックの問題や、国内法との兼ね合い(主にモザイク規制に関するもの。例を挙げると、Frontwingはこの回避のため、日本国内向けと、海外向けの2種類のパッチを公開しています。後者は日本からはアクセス不能。またMangaGamerタイトルのパッチは日本向けには提供されていません)、価格差などの関係もあり、完全にその恩恵を受けられるのはまだまだ遠いのかもしれません。
また、『House Party』に対するキリスト教系の団体によるロビー活動など、今後、他のタイトルへと波及する恐れのある問題も存在しています。他にも、海外メーカーが制作したアダルトコンテンツを含むタイトルに対し、日本の当局が何らかの行動を起こす可能性も0ではありません。
更には、近年、欧米の社会的風潮として、性的要素と取られる事象への大きな自粛ムードが発展していることも、今後Valveがアダルト表現について一定の独立性を確保できるかという点において大きな不安要素となります。そういった表現について認めるか否かのユーザー間での削除合戦などの軋轢の兆候が見えるのも忘れてはいけません。
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このある種の“フロンティア”がこの先どのような流れを辿っていくのか、まだまだ目が離せない所ではないでしょうか。