◆品質とは、プレイヤーに想いが届くかどうか
まず、ゲームに対する僕の捉え方ですが、「ゲームとはプレイヤーに対して、僕らの想いや体験してほしいことを届ける」というシンプルな構造だと考えています。そしてゲーム開発やゲーム運営を行う上で、品質は不可分です。
品質に関しても僕の考え方はシンプルで、「ゲーム開発者やゲーム運営者とプレイヤーとの間に、どれだけ障壁がないか」だと捉えています。プレイヤーに想いが届かないということは、障壁によって意図が想定通りに伝わっていない≠品質が低いということになるでしょう。
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◆3段階の品質
品質には段階があると思っています。まずは「遊べる」が最低レベルで、次が「面白い」、最後が「驚き」、という3段階です。
例えば、バグが出てしまう、ルールが正確に伝わっていないなどは、「遊べる」が担保されておらず、品質が低いゲームだと考えています。バグは目に見えてゲームが機能していないことが分かりますので、品質の中では分かりやすいですね。
そして「面白い」は顕在ニーズ、「驚き」は潜在ニーズと考えています。ゲーム運営として確実にクリアしたい品質は、顕在ニーズを理解して届けることでしょう。
実際に運営をしていて、難しいことだと実感するのですが、潜在ニーズを捉えられたときに、「こんな遊び方があるんだ!」「自分が予想していた面白さを超えてきたな」「まだまだこのゲームはポテンシャルあるな」、と思ってもらえ、そのような声が僕たちに届いたら嬉しいですね。
◆驚き≠プレイヤーが求めているもの
「驚き」は必ずしも成果に結びつくかというと、そういうわけではありません。何年も遊んでくれているプレイヤーにとってみれば、毎日遊んでいる「面白さ」が最高の品質、という方もいるでしょう。
今のプレイヤーが何を求めているか、ニーズを外さないことが大切だと考えています。プレイヤーが新しいことを求めているのであれば、「驚き」を届ければいいと思いますし、もっと今の楽しさを深めていけるのであれば、「面白い」を損なうことなく改善していくことが最高の品質になるでしょう。
また、運営が提供する品質をプレイヤーに届けるためには、すべての施策が「長く遊んでもらうために」ということを前提にしているのが大切だと思っています。長く遊んでもらうために、品質を高めていくのです。「このゲームをずっと遊んでるのは楽しいな」「今後も続けよう」とプレイヤーに思ってもらうのが一番大事だと思います。
「楽しい、だからお金を使ってアイテムを購入してみよう」は、プレイヤーに求めている姿ではありません。長く遊んでいただきたい、という本質的な想いに向けて、バグを出さない、期待通りの楽しさがある、期待を超える楽しさもある、など、プレイヤーの体験を設計できていることが、ゲーム運営のプロフェッショナルとしてあるべき姿かなと思います。
◆プレイヤーの声にヒントがある
僕がプロデューサー時代の話です。自分がそのゲームの熱心なプレイヤーではありましたが、他のプレイヤーの生の声も聞いていました。
例えばですが、プレイヤーに「このゲームは、何をしているときが楽しいですか?」といった質問をしていましたね。朝起きた時にプレイするのが楽しいのか、デッキを作ってる時が楽しいか、バトルで勝った時が楽しいか、人それぞれ楽しい瞬間があるんです。
さまざまなプレイヤーの声を聞き、「なぜプレイヤーはこのタイミングで楽しい、面白いと思うんだろう」を突き詰めていくことで、「ゲームの根幹である一番の面白さ」を言語化していました。この例でいうと「デッキの編成に変化が起き続けること」といった感じです。
ですが、改めて言語化した観点からゲームを眺めてみると、ゲーム内で「一番の面白さ」を意図的に体験してもらえるようにできていないことに気づきました。そこで、意図的にデッキの編成に変化を起こす仕組みを作れば、プレイヤーに楽しんでもらえる、と考え、このゲームにふさわしいゲームサイクルを作ろうと思いました。ゲームサイクルを作れば、理論的にはデッキは変化し続けるはずだと考えたからです。
当時も今も思っているのは、プレイヤーからの投資額を増やすことよりも、同じ投資額で長く楽しめるような品質を提供することこそが、目指すべきゲーム運営ではないかと思ってます。
◆「わかってるな、運営!」と感じてもらうために
品質の高いゲームを運営していくことで、プレイヤーの方には「わかってるな、運営!」、って感じてもらいたいですね(笑)。「そうそう、ここ改修してほしかったんだよ!」とか、「どこが変わったかわからないけど面白くなってる!」、という感覚を持ってもらえたら嬉しいです。
ゲーム運営もプレイヤーの要望すべてを叶えられるわけではないので、何をするにもターゲットを決めて、そのターゲットに感じてもらえるかどうかが大切です。
長年遊んでいるプレイヤーの要望だから改修する、ではなく、プレイヤー全員により面白いと思ってもらうためには、という観点を忘れてはいけないと思いますね。
次回は、プレイヤーが遊び続けたくなるような更新や改善を行う「長期的な視点」についてお話させていただきます。
■プロフィール
井口 徹也
株式会社 DeNA Games Tokyo 代表取締役社長
2013年、DeNA入社。ブラウザゲームの運営プランナーを経て、2014年よりプロデューサーに就任。その後、アプリタイトルのプロデューサー、企画マネージャーなどを歴任。2017年、DeNA Games Tokyo(http://denagames-tokyo.jp/) の代表取締役社長に就任。
井口 徹也
株式会社 DeNA Games Tokyo 代表取締役社長
2013年、DeNA入社。ブラウザゲームの運営プランナーを経て、2014年よりプロデューサーに就任。その後、アプリタイトルのプロデューサー、企画マネージャーなどを歴任。2017年、DeNA Games Tokyo(http://denagames-tokyo.jp/) の代表取締役社長に就任。