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ビデオゲームを開発・販売する側にとって、製作したタイトルを広めることには非常に気を使っています。
メディアでの掲載や取り扱いに注意していますが、各メディアごとの切り口によって、タイトルの印象は変わってくることも少なくありません。そのため、近年ではSNSや動画サイトを利用し、メーカーが直接タイトルを広めるケースも出てきています。
現代のビデオゲーム開発側とメディア側にとって、情報の取り扱い方についてどのような答えがあるのでしょうか?9月4日、パシフィコ横浜にて開催された「CEDEC 2019」にて、「ゲーム開発者とゲームメディアの理想の関係とは?」というセッションが行われました。ディー・エヌ・エーの佐々木悠氏と、電ファミニコゲーマーの編集長でマレの代表取締役を務めるである平信一氏が交わした議論の内容をレポートします。
ゲーム会社とゲームメディアの意外なタッグ
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そもそも今回どういう経緯から、平氏と佐々木氏がタッグを組んでセッションすることになったのでしょうか?もともと電ファミニコゲーマーはドワンゴのニュースメディア事業として運営がスタート。これが2019年6月30日より、平氏が立ち上げた新会社のマレへと移管されます。運営企業から離れ、事実上、独立のゲームメディアとなりました。
電ファミニコゲーマーは今後の運営に向けて、オンラインサロン「世界征服大作戦」をスタートするなど継続する形を探るなかで、協賛企業にディー・エヌ・エーが加わったのです。
佐々木氏はなぜ電ファミニコゲーマーの企業協賛となったかを説明しました。「モバイルは立ち上がってまだ10年程度で、高速で進んでしまい、語られることも少ないんです」という現状を説明し、今回の協賛に伴い、電ファミニコゲーマーにて「モバイルゲーム産業史」いう企画を立ち上げることになったということです。現在、モバイルゲーム産業に携わる人たちの知見を集め、歴史としてまとめようとしています。
独立したゲームメディアと協賛する大手ゲーム会社、という構図から、今回のゲーム開発とゲームメディアの理想的な関係について議論が繰り広げられました。
ゲームメディアの価値はいかに変わっていったのか
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まず平氏はゲームメディアの状況を把握しようとした資料を提示。 2014年にまとめられたものながら、概観を把握するには十分な内容が書かれていました。
1995年がゲーム雑誌の最盛期であり、「週刊ファミ通」が50万部、「電撃プレイステーション」が20万部を発行していました。しかしだんだんと部数を落としていく中で、新しいメディアとしてインターネットが登場します。
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平氏がポイントに挙げたのは2000年です。「4Gamer」など、インターネットで商業ゲームメディアが登場したことです。それらが成長していく一方で、Youtubeやニコニコ動画といった動画サイト、またはゲーム系まとめサイトのようなこれまでのメディアとは違う勢力が台頭していきました。
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ネットメディア登場以降の2014年には76億円に半減している
次にゲームメディアの経済規模がどう変遷してきたかを説明。この図のポイントとして、メディアが紙媒体からネットへとシフトしている一方で、メディア全体の市場規模がどんどん小さくなっていることを指摘します。平氏はこうした状況を踏まえて、KADOKAWAやドワンゴに企画をプレゼンし、電ファミニコゲーマーが生まれたと説明しました。
また旧来のメディアビジネスを後押ししていた攻略本事業が、攻略Wikiなどネットの情報によってそのビジネススキームが侵食されてしまったといいます。
佐々木氏も「ゲーム攻略情報は基本的にネットで取る」と話します。一方でネットで完結してしまうと手元に残らず、思い出が残らない問題に触れ、2010年前後に「あえて攻略本を作る」動きがあったことも語っていました。
また一時期のディー・エヌ・エーでは自社タイトルの攻略サイトを作っていたそうです。しかし他の攻略サイトには勝てず、予算もかかるため、労力に見合わず数年でやめてしまったそうです。「お客さんからしたら、情報が正しければどちらでもいい」と解釈していました。
ネットの発達はなにをもたらしたのでしょうか?毀誉褒貶ある系まとめサイトの乱立のほか、動画サイトでの実況など、ユーザーコミュニティ系の情報がものすごく発達した、とまとめられます、
総じてゲームメディアはゲームの紹介や攻略といった情報をビジネスに大きくなっていきましたが、そのビジネスを変える必要があると語りました。平氏は「ゲームの情報はメディアの中央集権的だったものが、そうではなくなった。昔から考えるとメディアの価値は落ちざるを得ない」と振り返りました。
現代のゲーム開発とメディアにとっての「情報」とは
ではこの状況ならではのゲームの情報のあり方はどうなるのでしょうか?
佐々木氏は「ゲームをプロモーションするとき、どうメディアを活用するか考えていたころから、だんだんと変わってきたと開発側からは感じている」と語りました。平氏は「ゲームメディアやゲーム雑誌は、ゲームを紹介して売る媒体として力があったが、もうそうではなくなってしまった。」と状況を確認しながら、ゲームメディアならではの役割を振り返ります。
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たとえばYouTubeでは小学生でもゲームを実況したりしますが、彼らがみんなクリエイターにインタビューができるかというとそうではなく、そこで専門メディアならばクリエイターへの取材に長けている点を挙げました。
佐々木氏はメディアの価値として「その情報がしっかり編集されている情報なのか、より編集が重要だと感じています。どうしても伝えたい情報はゲームメディアがいちばんいいです」と語り、平氏は「何でもかんでもゲームメディアが必要な時代は終わった」と前置きしつつ、「ユーザーでもゲームについて完璧に言語化できる人は限られており、そこにメディアの役割がある」とまとめました。
佐々木氏はゲーム開発側がTwitterやインタビューなどで情報を発信することも増え、「クリエイターの人格を持って発信していることも目立つようになった」と言います。「逆にゲーム開発が何を伝えるのか考えなければならないのでは」と考えているそうです。
「いまや、ゲーム会社が自社で完結して情報発信するのは当たり前」と平氏は前置きしつつも、一方で大本営発表みたいにも映ってしまうため、第三者の位置としてメディアがあればいいと語りました。
ネットでPVをどう評価するか?
また話題はネットメディアにおける数値の価値として、PVについても語られます。KPIを意識すると、回りくどく記事を書くよりも煽情的になってしまう傾向があります。
佐々木氏はPVについては「明確に読者の熱量やコメントで観るほうがよいのでは」と語ります。そう考えた根拠に、以前に佐々木氏は開発したゲームの動画を作った経験を述べました。
「それが400万再生もいったんですね。バズったんです」ところがゲームの売り上げに繋がらなかったそうで、動画のみが瞬間的に消費されてしまったと振り返りました。「結局、動画からゲームのプレイヤーになってない。情報自体を受け取るお客さんが、何を求めているか見ないとお金が無駄になる」とまとめています。
会場からの質問でも、「広告宣伝費がほぼ0円のタイトルで、Twitterで広めていきたい。しかし拡散しづらいもので、売り上げを出すにはどうすればいいか。フォロワーを増やすには何をすればいいか」といったものが挙がりました。
平氏は「話がずれるかもしれないが」と前置きしつつ、「たとえば電ファミニコゲーマーですごくいい記事が載っていても、開始した当初はTwitterのフォロワーは伸びなかった」と振り返りました。そこで「ネットでは、かなりテクニカルにユーザーがフォローしたくなるよう、背中を押してあげる必要がある」と指摘します。
そこで挙がった例は「読者プレゼント」です。「要は情報だけだとフォローする理由にならず。フォローする理由になるものがないと、何となく流れているものをみているかたちになる」と平氏は語ります。
佐々木氏は「本当にゲームが好きなコアなファンに情報を伝えることを考えた時、やはりメディアの力はすごい」と評価しています。今回のセッションでは、現在のさまざまなゲームの情報の価値について考えさせられるものになりました。