※ UPDATE(2021/09/01 08:26):発言内容や事実関係に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
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国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」が8月24日から26日にかけて開催され、「ゲーム業界の男性育児休業~職場復帰の実態。リモートワークでの育児両立の難しさと働き方。3社事例紹介」のセッションが公開されました。
本セッションは、日本全体で働き方を見直す時代のなかでゲーム業界はどのような施策が可能かをセガ、スクウェア・エニックス、ヒストリア所属の社員たちが語るものです。
2020年より、ゲーム業界でもリモートワークが恒常化してきました。その中で、夫婦共働き世帯はどのように変わったか、新たに生まれた課題は何かをテーマにトークセッションが行われ、「男性育児休業の実態」と、「リモートワークでの育児両立の難しさと働き方」の事例が紹介されています。
あらためて「育休制度」とはなにか?
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さて、「育休制度とはそもそもどういうものなのか?」について説明しましょう。大前提として、育児休業は労働者から事業主に対する「申出」によって行われるもの。事業主はこの「申出」を、原則として拒めないものです。
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近年の育休取得率に関して、厚生労働省の調査で男性の育休取得率は増加しているデータが出ているとのこと。近年、取得率は増加しており、2025年には男性の取得率を30%を目指すとのことです。
育休経験者の体験談
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本セッションはセガサミーホールディングスの茂呂真由美氏を司会に、男性で育休を取得したメンバーにその体験を語ってもらうものです。「ゲーム業界で男性育休取得者は増えているが、実態の情報は不足している。経験をシェアすることが目的」だと前置きされました。
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参加メンバーには会社の代表から、開発の前線を務めるプログラマーやエンジニアなど、多彩な立場が揃っています。ヒストリアからは代表取締役を務める佐々木瞬氏、同社のエンジニアを務める安部拓也氏が参加。株式会社セガからはリードプログラマーの増田亮氏、渡邉吉治氏に加え、データアナリスト・課長代行を務める竹内 公紀氏が参加しています。最後にスクウェア・エニックスからはゲームデザイナーの澤田唯氏が参加しました。
まずセガのメンバーからは育休の状況が説明。竹内氏はコロナ禍で子供が誕生し、育休を8カ月取得したそうです。現在も共働きでリモートワークで参加しているとのこと。
渡邉氏は3歳の子供がおり、生後1ヶ月のときに育休を6ヶ月間取得。育休明けには時短勤務を選択し、現在は在宅で仕事しているそうです。増田氏は子供が生まれた時に半年ほど育休を取得したそうですが、周囲を見て悩みもあったそう。「でも取得してよかった」と振り返っています。
ヒストリアの安部氏は、育休は子供の生後3ヵ月から取得し、その後復帰。二人目が生まれた時も育休を取得し、いまも育休中だそうです。今回の登壇も家庭内のタスクを調整したうえで行っているといいます。
スクウェア・エニックスの澤田氏は「保育園の入園の加点目的で2日間だけ育休取得する」という、少々トリッキーな育休を取ったといいます。「夫婦そろって早期にフルタイムで復帰したという点が、他のメンバーとは違う」ところであるとも語りました。
アンケート結果から見る、ゲーム業界での実体
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さてゲーム業界全体において、男性の育休取得の状況はどのような状況なのでしょうか? CEDEC2021ではアンケートを実地。419件の回答を集め、多くの企業やさまざまな職種からの意見が集まりました。
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ここからは、こうしたアンケート結果を見ながらパネルディスカッションしていきます。まず最初のテーマでは「男性の育休は取りにくいのか?」という問題が挙がりました。意外にも会社規模では小~中規模の会社から大企業は、3割から4割とまんべんなく取得している結果が出ています。
ところが左の棒グラフを見ると、100人から299人規模の中小企業だけ、取得率が21.7%と低い数値になっています。この結果に対し佐々木氏は「経営者の目線として腹落ちする」と回答。
その理由として、この規模の企業だと働き方の体制が上手くできあがっていないことが多いからだそうです。大企業だと社会的責任もある上、働き方について専門の部署があるのに対し、この規模の企業だとマネージャーの層がいくつもあり、各人に思惑もあるほか、各部署が出来上がっているかも分からないことが多いそう。まとめとして「ハンドリングが難しいんだと思います」とのことでした。
続いて、職種ごとの取得率について話題が及ぶと、全職種の中でエンジニアの取得率の高さが飛びぬけている事に触れられました。今回の参加者も3名がエンジニアであり、職能の関係から取得しやすい模様です。
唯一ゲームデザイナーである澤田氏は、この結果に対して意外だと回答。澤田氏はゲームデザイナーがいまひとつ取得しきれていない理由を「発注や折衝等のコミュニケーションが多いため、現場から抜けにくいのではないか」と分析していました。ただ、リモートワークができるようになってから、育児休業を取りやすい環境になってきてはいるとも考えています。
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育児休業を取得しなかった理由についての言及も。やはり収入が減ってしまうことや、仕事を休めないこと、そして将来におけるキャリアへの影響などがその理由に挙げられていました。
まず「収入の減少」という切実な問題に対し、増田氏は「収入が減ってしまう不安があったが、計算したところ収入の8割になる」とシミュレーションして、夫婦で共働きなので減少分はなんとかなると判断したそう。「奥さんのキャリアを応援したいのもある」というのが、育休に踏み切ったポイントだそうです。
澤田氏は「育休は部門長や人事部への連絡など、申請のめんどくささはある」と言い、育休だけではない休みの取り方もあるのだと説明。手軽さという意味では有休を利用することがやりやすいそうです。また「育休後の長期間は休めなくとも、1、2ヶ月は有休を利用して産後に休む」というやり方もあると語りました。
一方、「取得しにくい雰囲気があった」という回答がもっとも少なかった点にも触れます。やはりムードに流されて育休を取るのが難しくなりやすい問題はさまざまな企業にありうることですが、その中でもゲーム業界は比較的そうしたムードはなく、育休に理解ある環境ではないかとまとめられました。
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実際に育休を上司に伝えた時の回答に関しては、基本的には肯定的な反応を貰えることが多いのだそう。育休取得を伝える時期については、半年以上前から3か月以上前から行ったほうが肯定的に取ってくれるようです。これが直前になると、普通の反応となってしまうそう。
佐々木氏は経営者目線からの意見を問われると、「興味深いデータだと思います。基本的に『おめでとう』の気持ちはあると同時に、どうしても仕事の調整のことも考えています。」と回答。仕事の穴を埋めることを考えるため、たとえば外部からスタッフを募集したとして、その期間を考慮して5ヶ月前から育休を伝えてもらうほうがいいとのことでした。
メンバーも基本的には、パートナーが安定期に入ったタイミングで半年以上前に取得するケースが多いと回答。増田氏は連絡は4か月前と遅めでしたが、これは夫婦で同じ会社で働いているのもあり、安定期に入ってから連絡したいと考えたからだそうです。
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続いて「男性の育休についてどう思うか?」という質問について。本人が望めば取得していいと思うと回答がトップであり、佐々木氏はこの結果から「業界として倫理感がしっかりしていて安心しました」と語りました。
これから育休を取得したい人へのアドバイスとして、安部氏は「出産予定日と、実際の出産日がズレること」を挙げています。予定より2,3週間ズレることもあり、ズレたときに仕事をどうするか相談しておくことも大事だそうです。
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さて主に育休中にやったこととしては、基本的には家事や育児への参加といった回答が多い模様です。メンバーもこうした回答と同じく、「身の回りのことはできるようにした」ことや、パートナーと育児と家事を共同できることなどが語られました。
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「実際に育休を取ってどうだったか?」 という質問には、育休の期間が長いほど満足度が高い結果が現れました。育休を主得して後悔したといった反応はほぼ0と、やはり非常に効果はあるとのこと。
ただデータで気になるポイントとして、育休を4~6カ月よりも長く休みを取る人数が減少しているという点があげられます。これは育休給付金が問題なのだそう。取得してから6カ月を境に、給付金の金額が下がることがその原因ではないかと推測しました。
育休後の影響についての討論では、やはり限られた時間となったのもあってか、工数の計算や、効率化をより考える用になったそう。また出世については、仕事を他の人に頼まなくてはならないことで、若干影響はあったとのことも語られました。
リモートワークと育休の関係
現在、新型コロナの影響もありリモートワークが全盛ですが、「これなら在宅勤務であるから育休は必要ないのでは?」とも一部で言われています。
実際のところそうなのでしょうか? リモートワークを行っている竹内氏によれば「育休で何を実現したいかが大きい」と指摘。出産後はパートナーの体調が悪かったりするため、しばらく全部の家事育児をやってみたところ「1.4人月分くらいの工数がかかる感覚」だと言いました。なので時短勤務の感覚だと、リモートでも難しいようです。
増田氏は「在宅で勤務していても、PCの隣で子供が泣いているのを傍目で見る。それでいつもどおりプログラミングができるか? という」問題が合ったことから、出社して仕事していたことも。
一方、リモートの良い点として澤田氏は「家事が回るようになったこと」を挙げました。家事ならフレシキブルに対応できるため、計画的に行えることが大きいとのことです。
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メンバーによる実際のリモートワークでのスケジュールも公開。竹内氏は朝に子供を保育園に送った後に業務を開始し、終了するとともに子供をお迎えしてから夕食と家事をする一方、増田氏や渡辺氏は時短勤務で仕事をしているのがわかります。各家庭の状況が反映されたものだといえるでしょう。
リモートにおける夫婦での役割分担について質問が及ぶと、竹内氏はたとえば残業しなければならない時にパートナーにお願いするなどして対応しているそう。増田氏はお互い、得意なことを担当するシンプルなかたちで分担し、いざとなったら相手のことでもやれるようにするといいます。渡邉氏は子供の送り迎えなどをやっているときに、パートナーに家事をお願いするなどしてやることを分けているとのことです。
一方、ヒストリアでは「育児・介護レギュレーション」という通常勤務と別のレギュレーションを用意したといいます。安部氏は本レギュレーションで勤務しており、勤怠については週の初めに1週間の勤務体制をSlackで連絡しているとのこと。家庭内との状況に合わせて働き方をかえているそうです。
佐々木氏が本レギュレーションを設定した理由には、組織内で「休んでずるい!」と思わせないようにすることがポイントだったと説明。たとえば子供が風邪を引くなど、家庭内で起きる突発的なタスクに対応できるようにする、本人の裁量でフレキシブルに対応できる制度を作りたかったとのことです。
ゲーム業界でさらに有効活用できる? 今年改正された育児休業制度を振り返る
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さて、今年2021年の育児休業制度における大きなトピックスとして、厚生労働省より公式に制度の改正が発表されています。
改正で注目すべきポイントは「分割して2回取得可能」であり、「労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能」という点です。この改正ポイントはゲーム業界で働くうえですごく役立つものですが、メンバーの多くはまだ把握していなかった模様です。
この制度の利点が討論されたとき、澤田氏からは「休業中の就業」が復職後の悪いイメージの払拭や、育休中のデメリットも減るのではないかという意見が挙がりました。竹内氏は「育児は波があるから、楽になるときと忙しい時期がある」ため、そんな波に合わせて分割して取得できるのはありがたいと語りました。
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また来年2022年4月より施行される、育休休業における事業主向けの義務についても解説。育児休業を取得しやすい雇用環境の整備を目的としており、事業主側が社員に育休制度を勧めることも義務のなかに入るとのことです。
「ゲーム業界にはシャイな方が多く、事業主側が言ってくれるのはありがたいのではないか」と茂呂氏が語ると、メンバーも言い出しにくかった経験があるため、「早くにこの改正が欲しかった」との意見も出ていました。
その他にも同じような育休を選択した社員同士の集まりなど、大変さをシェアしていく逸話なども語られました。近年の働き方改革に加え、男性の育児参加など、家庭と仕事を両立させる流れが進むなか、上手く育児休業を取り入れたワークスタイルの今後がわかるセッションだったと言えるでしょう。