E3 2011で発表された、
日本の家庭用ゲーム機メーカーの、
新型ハード。
置かれた環境は同じです。
そして書かれている内容は、カンファレンスで発表されたことの要約記事が目立ちます。
私は物書きとしての良心を発揮しているのか、過剰に煽る罪をおかしているのか。
自分でもわかりませんが、メリハリをつけて対比的に書きます。
どうして、PlayStation VITAとWii Uが同じような論調で語られるのでしょう。
両者は別物です。
昨日、私はPlayStation VITAは「郷に従った」と書きました。
マーケティングです。言い換えると市場適合をしました。
アメリカの市場にPlayStation VITAを合わせる工夫を凝らしました。
今の北米のゲームユーザーが好むゲームソフトが、不自由なく遊べることをプレゼンテーションしました。
今日、発表されたWii Uは違います。
「郷に従った」の逆です。現在のゲーム市場を挑発しているかのようです。
現地時間、6月8日午前。
任天堂が行ったカンファレンスの模様は、公式サイトの映像で見ることができます。
私があえてレポートするべきは、その後のことでしょう。
プレゼンテーションが終わった瞬間に、隣に座っていた同行者と話します。
来場者たちの気持ちは高揚しているようでした。
皆の声が大きいです。笑顔です。
評判通りに良かった作品を見たあとの、映画館のロビーの雰囲気に似ています。
驚きがあったのです。予想外だったのです。
市場適合のためのプレゼンテーションとは違っていました。
ですが、あの高揚感は何だったのでしょう?
映像を見た観客たちの、あるいはWii Uが完成した際に遊んだイメージを想像したユーザーたちの高揚感でした。
では、ゲームソフトのパブリッシャーとして、デベロッパーとして、Wii Uの対応ソフトをつくるとなると、高揚した気分は冷静な判断となります。
相当なアイデアと、アイデアを盛りこんでもボツにしていく時間的余裕と、すなわち、ふんだんな資金力と、現状のゲームを破壊させるくらいの野心がないと、Wii Uのすぐれたソフトはつくることができません。
画面が2つあるのです。
操作方法はボタンを押すだけではありません。
コントローラを傾けても、激しく揺さぶってもいいのです。
タッチペンで書いてもいいのです。
Wii Uは、遊びに使うネタに事欠かないデバイスです。
この新型マシンは、市場適合などを狙っているのではなく、今の市場をぶち壊して、新しい市場を創造することを狙っています。しかし、本当におもしろいソフトをつくるのは、労力のかかることです。
これは憶測ですが、その労力がわかっているから、ハードウェアも、ソフトウェアもあんなに楽しく遊べるまでできているのに……私は『ルイージマンション』のデモンストレーションを遊びました……、任天堂は発売日を来年春以降に設定したのでしょう。
Wii Uは、アタリ社が『ポン』を出したときのように、テレビゲームの歴史を塗り替える可能性すらあります。
しかし、Wii Uの企画の練りこみと、完全なる作品の仕上げができるのは、任天堂だけかもしれません。あるいは、世界のどこかにいる未知の才能がWii Uの潜在力を爆発させてくれるのでしょうか。
Wii UのUはYouで、任天堂は世界ゲームクリエイターに指を向けて、「あなたはこのハードでゲームをつくれますか?」と挑戦状を叩きつけているかのようです。
以下、半分余談です。ですが、何か本質的部分をついているかもしれないエピソードです。
カンファレンスが行われる前日の夜でした。
私がTwitterで、Wiiの後継機のことをつぶやいたら、@付きメッセージが飛んできました。
そこにはこう書いてありました。
@HisakazuH 任天堂って3rdpartyのことを考えなければ考えないほど、面白いシステムができるように思う。善し悪しは置いておいて。オレプラットフォーム。
@HisakazuH DSもWiiもおもちゃだったと思います。タッチスクリーンもおもちゃと、コントローラのおもちゃ。おもちゃって入力側のインタフェイスが進化して初めて新しい面白さがあるわけで。どちらもハードを本質的に牽引したのは同社の数本ですし、もう逆にオレオレ路線行けばいいじゃんと。
メッセージの送り主は飯野賢治(@kenjieno)氏からでした。
私はゲームアナリストを名乗っていますが、私以上のアナリストって誰? と尋ねられたら、真っ先に「飯野賢治」と答えることにして、かれこれ15年が経ちます。ゲームのことでも、ゲーム以外のことでも。氏の分析力の高さには、いつも舌を巻くことばかりです。これは飯野氏本人にも言っていないことですが。
私は今日、こんな返信をしました。
@kenjieno 凄い。まるで予言されたかのようだった。オレプラットホーム。原稿で引用したいです。
「どぞ」と快諾してくれたので引用させていただきました。
余談を終わりにします。
PlayStation VITAとWii Uは、別物です。
E3でのプレゼンテーションの手法もまったく違いました。
ハードウェアの設計思想も、誰がソフトウェアをつくるかも。
2回にわたる(E3特別編)で、私がお伝えしたいことです。
■著者紹介
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株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式サイト、公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuHです。