3D格闘ゲームの中でも最高峰とも言える『鉄拳』シリーズ。それが完全フルCG長編アニメーション映画『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』として9月3日に公開されます。また、同作品とゲーム『鉄拳タッグトーナメント HD』が同梱された『鉄拳ハイブリッド』のリリースも決定。ゲームとアニメが同梱された作品としては『.hack』シリーズが思い浮かびますが、それは新規ブランド立ち上げ期の事。ここまでブランドが確立した作品で3DCG映画とゲームを同時に楽しめるといった展開はこれまで聞いたことがありません。とは言いながらも、完全フルCG長編アニメーションはオープニングやエンディングシーケンスと全く違います。そのようなチャレンジを制作者側は如何に受け止めて作品化を進めたのでしょうか?今回はデジタル・フロンティアの取締役で同作プロデューサーの豊嶋勇作氏と監督の毛利陽一氏にお話しを伺いました。■『鉄拳』の世界をベースに米日での劇場公開を実現。そのハイクオリティの秘密に迫る!―――中村彰憲:『鉄拳』シリーズのフルCG長編映画化の構想は如何にして企画として進んだのでしょうか?豊嶋勇作プロデューサー(以下、豊嶋):もともとバンダイナムコゲームスの皆様から、世界に向けて映像作品を展開したいという話を伺っていたのですが、当社は『鉄拳』ゲームのオープニングムービーを担当した頃から長編映画を制作したいと思っていました。ちょうど、『バイオハザード ディジェネレーション』が終わったころでもあります。更に、当社は、アニメ作品の脚本で長いキャリアを持つ佐藤大氏と仕事を一緒にしていたということや、佐藤氏だったら新たな視点から『鉄拳』を見つめ直し世界へ発信できる魅力あふれる物語を提案してもらえるのではという思いから本作に参加いただきプロジェクトが進んでいったのです。―――キャラクターは如何に本作で生かされていますか?毛利陽一監督(以下、毛利)ゲームの本質は地に足をついた格闘ゲームなんですが、登場キャラクターにはそれぞれ表には出てこない設定があります。ゲームのエンディングなどでそれらの違った側面を見ることができるんですが、そこには様々な人間関係や、ギャグ、ドラマが描かれていて、これが面白いんですよね。もちろんアクションがメインですけど、こういった遊びが「鉄拳らしさ」だと思うんです。そういった意味でも軸となるドラマを作って、そこに「遊び」、「アクション」を入れることで鉄拳の世界観を作っています。―――ストーリーは如何にして構築していったんですか?毛利:今作は2人の女性を主人公としたバディムービーです。物語を構築するうえで、感情移入できる存在が欲しかったんです。鉄拳といえば三島家ですが、彼らはすでに強いので成長の余地がないですからね。強さといっても格闘ではなく内面的な部分です。怒ったり、泣いたりできて弱くても許される存在でないと駄目なんです。彼女達の行動を通して、ドラマだったり、アクションが展開していくことが大事ですからね。そういった意味でもシャオとアリサのコンビは今作のイメージにあっていると思います。あとはデビル因子という鉄拳独特の設定も物語上の重要な要素なので、新しく神谷真というキャラクターを登場させることで、そのあたりの展開を考えました。神谷真は、トレイラーでもすこしだけ登場させたのですが、ネット上ではかなり話題になっているのでその点は作り手として本当に嬉しいですね。―――その他に『鉄拳』ファンを喜ばせる要素はありますか?毛利:パンダなどのゲームを想起させるキャラクターが登場しますよ。もちろん「鉄拳」といえばアクションですから、見どころは沢山用意してあります。馴染みの技なども取り入れているので是非見てみてください。鉄拳らしい遊び心も盛り込まれてますから楽しんで頂けると思います。■長編映画として楽しめるようにあらゆる工夫がされた『ブラッド・ベンジェンス』。それは同作品の技術戦略においても見事に反映されている―――09年が企画のはじまりだったとのことですが、プロジェクトとしての規模はどの程度だったのでしょうか?豊嶋:ピークだと100人、平均70人といったところでしょうか?総計で1年半。実制作は1年程度でした。―――立体視を前提に作品制作するにあたって意識した点は?毛利:立体視CG映像の制作経験はあるんですが、長尺のものを立体視で作るのは本作が初めてでした。ですが、あまり気負いすぎないようにしました。また、当初はキャラクターの立体感を全面に出そうとしたんです。ですが、すぐに目に負担がかかるということに気づきました。全体的には奥視差をメインにして、あとはカット変わりでの視差の変化が大きくならないよう意識しています。―――キャラクター造形としてこだわった部分はどこでしょうか?毛利:観る人が感情移入出来るような作品にしたかったので、造形のこだわりとしてはアニメーションの情報量とのバランスを考慮しています。イメージとしては造形より動きのほうが印象にのこる感じです。そういった意味でもフェイシャルも出来るだけ動きをつけるようにしました。キャプチャーをする際は、マーカーというものをつけるのですが、顔には40程のマーカーをつけています。表情が硬くならないように、最初は、ウォーミングアップも踏まえ顔を極端に動かさなくても演技が出来るものからスタートし、序々に喜怒哀楽がはっきりした感情的な芝居に移っていくなどの配慮をしています。キャプチャー後は、キャラクターの造形に合わせて、頬骨、筋肉、口の下がりなどの補正をかけたうえで演技的に足りないと感じた部分や、キャプチャーが出来ない舌、瞳などに手で動きを付けていきます。あと、髪の毛、洋服等の表現もシミュレーションをかけて徹底的にこだわりました。―――リップシンクなどはどうでしょうか?毛利:『鉄拳』シリーズのキャラクターには著名な声優さんが声をあてているので、アフレコになるのですが、出来るだけ口の動きがずれないように、映像と同時にモーションアクターが発していたセリフも聞きながら声を当ててもらっています―――アクションシーンはどうでしょう?毛利:体の動きについてもモーションキャプチャーをしています。ただ、アクションシーケンスに関してはビデオコンテを作成しています。実際にアクションアクターさんに動いてもらって、それを撮影、編集までして完成イメージに近いものを映像として用意しています。空中では吊り使ったり、破壊があれば手近なもので代用して雰囲気の伝わるレベルのものです。もちろん表には出ない映像なのですが結構良く出来ていますよ。利点としては、スタッフが同じイメージを持つことができるので、背景のレイアウトやキャラクターの運動量によるセットアップの方針、キャプチャー時のデータの取り方などの対策もとれますし、何よりもアニメーション作業の参考にできることですね。―――あとエフェクトもすごいですよね。毛利:エフェクトについては、今作が3Dということもあって、全部3Dで表現しなければならないので通常より時間が掛かります。視差の具合もレンダリングをしてみないと分からないですからね。豊嶋:結局立体視なので、煙やパーティクルも2Dの実写素材では逃げられない。どうしても立体視だと前後の関係が明確になるので難しい所です。今回の複雑なエフェクトが入り交じったシーンには相性がいいと思います。大変さは置いておいて。―――様々な工夫を重ねて立体視のフルCG長編アニメーション映画をつくったことについてどう感じていますか?豊嶋:海外では『ヒックとドラゴン』をはじめ、奥行きを作り上げるものとの認識が高まりましたが、立体視をどうつくるかについてはまだ日本ではちゃんとした標準がないんです。ですので、本作では、検証を重ねながら作品づくりをしていきました。いずれは、「日本としての答えはなんだ?」に対する基準を決めていこうとは思っています。ただ奥行きを追求したほうが目が疲れないのは確かなのでそちらのほうが主流になるのとは思っていますが...―――では、監督として、読者の皆さまに改めて『ブラッド・ベンジェンス』の魅力を教えてください。毛利:『鉄拳』シリーズなのでもちろんアクション満載の作品です。しかも女の子のバディーものでもあります。決して男くさい映画ではないので女性でも楽しめる作品になっています。『鉄拳』らしさを出しながらも、誰もが感情移入できるように丁寧に作った作品なので是非ご覧になっていただけると嬉しいです。■これからCGプロダクションとゲームデベロッパーは互いに歩み寄るべき―――豊嶋プロデューサーには業界の未来について伺いたいと思います。いま多くのゲームメーカーはハリウッドにも目を向けていますが…豊嶋:ハリウッドでリメイクされてしまうと契約でがんじがらめになってしまい監修すら出来なくなると聞きます。当社の場合は、ゲームのオープイングムービーからやらせていただいている実績があるのでゲームメーカーからの監修も抵抗なく受け入れられます。『ブラッド・ベンジェンス』も『鉄拳』シリーズありきが前提。シャオやアリサは『鉄拳』らしい魅力あふれるキャラクターなのにそれを捨ててしまうのはもったいないと思うからです。映画をつくるうえで『鉄拳』的要素が必要無いのであればオリジナルをつくればいい。私たちは原作者の思いを軸にむしろその世界観を広げることに意義があると思っています。―――では、CG業界のこれからはどうなると思われますか?豊嶋:リニアな映像表現には限界がきているような気がします。リアルタイムで動くコンテンツは質的向上が進んでいるので、プリレンダリング映像との垣根が無くなってきているんですね。そこでリアルタイム性をもった映像がどうなるかを考えると可能性はもっと広くなると思う。反応ひとつで、結末が変わるといった作品があってもいいんです。これまでの映画もなくなることはありませんが。―――ではこれらを踏まえて今後ゲーム業界とはどのような関係を築き上げていきたいと思われていますか?豊嶋:ゲームメーカーはオリジナルをつくっている先駆者。グローバル化が進む前から海外でビジネスをし認知度が高いという下地がある。坂本九が売れて、黒澤明が来て漫画、アニメの後、いきなりゲームがブレイクした。認知度という意味でも断トツでしょう。ゲーム業界とCG長編作品という点でも、スクウェアエニックスが『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』をリリース後、当社制作によるカプコンの『バイオハザード ディジェネレーション』と来て、本作が3作目。これによって他のゲームメーカーもこのような展開に新たなビジネスチャンスがあるんだと思ってくれるかもしれない。CGプロダクションとゲーム業界はもっと密接にビジネスができるはず。会社が統合されるべきという話ではなくて、一部のデータを共有してプロジェクトを展開するという話です。データシェアリングが出来ればそれらをテレビシリーズにすることも出来るし、それらが更にスピンオフしてゲームに戻ると言うこともあり得る。CGプロダクション側もゲーム用エンジンに対する知識を高めるなどして歩みよる必要があると思います。プロジェクトも製作委員会とまでは言いませんが、権利関係も含め新たなビジネスモデルの模索する時期が来たと思います。―――ありがとうございました!
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