2014年3月11日、東日本大震災から3年が経過した。ゲームやエンタテインメントに関わるものとして何ができるかということを考えた結果、スマートフォン・アプリとしてローンチされるのが『エネシフゲーム』だ。アプリを開発したのは老舗のゲーム開発デベロッパー「ダイスクリエイティブ」の代表・小関昭彦が発案し、非営利の任意団体「エネシフ・ゲーム製作プロジェクト」の名前で制作に着手した。日本に住んでいる限り誰しもが、それぞれの3・11を記憶しているはずだ。私自身は、大田区・大鳥居のセガを訪問したあとで、京急やJRは不通になってしまい、大鳥居から新橋までを徒歩で5時間をかけて歩いた記憶がある。幹線道路は渋滞、余震が続き、歩道には人があふれた。そして、震災の二次的被害による福島第一原発の津波被害と炉心溶融、今も続く、廃炉への遥かな道のり、汚染水の処理と漏れ、除染、復興支援と住民の救済など問題は山積している。小関氏は過去に、旧ソ連(現在のウクライナ)で起こったチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年4月26日)の報道を見聞きし、例えようのない怖さを感じたという。チェルノブイリは未だ終息したケースではない。世界で初めて、INES基準における、最悪のレベル7(深刻な事故)だったことで、当時の反原発ムーブメントは東欧、西欧のみならず世界的に原発を見直す機会として受け入れられたはずだった。小関氏は日本で「反原発デモ」に参加したたこともあったが、あるとき、何事に対しても反対するのではなく、その真実を見つめてみようという気持ちが起こったという。そして、運命の2011年3月11日を契機に、身近に起こった震災と原発事故という事象を冷静に考え、否定するだけではなく、根本的に見直してみようというスタンスになったという。まずは、反原発というスタンスから一歩踏み込んでフェイスブック上のコミュニティで「自然エネルギーで行こう!」というページを立ち上げた。すでに「いいね」は3000人近い数に上る。しかし、小関氏は「これは自分でなくてもできる。自分が関わっているエンタメやゲーム、IT的な、自分でしかできないものをやろう」と思ったという。おそらく、その根底には自分自身のなかの価値観も揺れる部分があったと思われる。その揺れる自分の考えや姿勢の棚卸をすることで何かが見えてくるのではないかと思ったに違いない。その試行錯誤の結果、小関氏は「ゲームでアプローチをしてみよう」と思ったという。つまり、すべての意見を受け入れて各自で判断できるような均等均質な機会を作れるようなものがゲームとしてあったら面白いというのがルーツにある。そして、福島第一原子力発電所事故(レベル7の事故)をテーマとして扱うことに決める。それが今回の『エネシフゲーム』のルーツになるもので、当時は『エネシフウォーズ』という仮タイトルだった。「ウォーズ」部分にゲームという名称を使おうと思ったところに小関氏らしいこだわりを感じる。しかし、「ウォーズ」ではなく「ゲーム」に変えた理由を小関氏は「ゲームという名称であれば、誰もが関心を持ってもらえる可能性が高まる」というものだ。確かに「ウォーズ」という名称では関与する人たちの層が狭まるような気がする。しかし、会社として取り組むには懸念事項も多かった。本来、会社の経済活動のために降り注がれる労力を、収益を度外視した『エネシフゲーム』に充当することの怖さがあったはずだ。その『エネシフゲーム』の企画をもって小関氏は奔走することになる。すると賛同する仲間が集まってきた。ストーリー、サウンド、イラスト、ゲームシステムなど、見返りを求めることなくサポートスタッフが集まってきた。しかし、全員がほかにメインの仕事を持っているプロ。賛同者の善意に頼るしかない。しかし、とはいえ、早い段階で、原発の是非を問うゲームとして導入しなければ関心は徐々に薄れていく。それを危惧した小関氏は、クラウドファンディングを活用することでその活動を加速させようとした。キャンプファイアー(クラウドファンディング)を活用し目標額を達成した、当時はゲームソフトのクラウドファンディング案件が少なかったなかで健闘した活動だった。このところクラウドファンディングは宣伝的な側面で捉えられることが多いが、本来は良質なサービスやソフトやプロダクツの灯を消さないためのものだ。悩ましい点は、クラウドファンディングが成功すると同時くらいに対象であるサービスやプロダクトが導入できることがベストだが、ほとんどのケースはクラウドファンディングで資金を集めてからGO!となる。必然的に、準備期間、開発期間などの時間が経過する。そうなると関与している者はもちろんのこと、快くクラウドファンディングに応じてくれた応援者、知人たちの関心もトーンダウンする可能性も高い。小関氏はそれも経験済だ。事実、彼が『エネシフゲーム』のプロジェクトを立ち上げてから約2年半。クラウドファンディングの実現から2年が経過した。登場するキャラクターは実在の人物。衆議院議員・河野太郎氏や歌手・加藤登紀子氏など、ゲーム中の取材対象者は全て本人が実名で登場するという異色の作品に仕上がった。『エネシフゲーム』には正解はない。そして結論もない。そこにあるのはプレイヤーという体験者に対しての問いかけだ。日常生活にある「包丁」などが人間を殺める道具になることもある。しかし「包丁」が悪いということではなく、そこには、それを使う人間の倫理に由来する悪意が存在する。原子力や原発がそれと同意とは私個人には判断が付きかねる、しかし、この『エネシフゲーム』を通して、それを判断の一助とすることは貴重な体験だと申し上げておきたい。歴史のなかで、起こってしまった事実を元に戻すことはできない。我々は前を向いて行くという歩みを止めることはできない。小関氏が『エネシフゲーム』を開発する際には、多くの関係者に取材していったという、その取材を進めるにつれて、取材対象の原発推進派、反対派のピュアで真摯な気持ちに触れ、様々な立場の意見を前向きに受け止めようという気持ちに変わっていったという。小関氏は取材の最後にこう言った「今回、時間は掛かってしまいましたが、エネシフゲームの支援者、協力者、制作スタッフ全員に対して感謝の気持ち、そして、福島ならびに東日本大震災による被災者の一人一人の方々が一日も早く幸せな思いを感じられるようになってほしいと願う気持ちでいっぱいです。」と語ってくれた。2014年3月11日、小関氏が震災被害と福島第一原発事故を経て想い、それをネットというメディアを介在させて完成させた『エネシフゲーム』をひとりでも多くの人に体験してほしいと思います。■著者紹介くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHNjapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。現在はインディーズゲーム制作中「モンケン」 電子書籍 「エンタメ創造記 ジャパニーズメイカーズの肖像 黒川塾総集編 壱」絶賛販売中ツイッターアカウント ku6kawa230ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」「ニコニコチャンネル 黒川塾ブロマガ」も更新中。
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