ゲームをはじめとしたコンピュータエンタテインメントは半導体の技術革新と共に発展してきました。半導体(そしてネットワークなどのインフラ)が進化することで、新たなビジネスモデルやデバイスが誕生し、新たなゲーム体験が生まれてきたのです。では、その源流である半導体は今後どのような技術革新を遂げるのでしょうか。テクニカルジャーナリストの後藤弘茂氏は「2020までのゲームハードウェアトレンド予想」と題した講演を行い、メモリ技術が今後数年で飛躍的に進化する一方で、半導体の高性能化は総じて行き詰まりを迎えている・・・と解説しました。■半導体の技術革新はなぜ鈍化しているのか?ゲーム機は当初専用機からスタートしましたが、次第に汎用機化が進んでいます。かつては専用機でなければ良質なゲーム体験が要求するパフォーマンスを得られませんでしたが、半導体の技術革新でPCやスマホといった汎用機でも、十分な性能が得られるようになってきました。そのため莫大な開発コストを払って専用チップを開発する意義が薄れています。ゲーム機とコモディティデバイスの境界が曖昧になってきたのです。もっとも半導体の性能が向上したから、汎用チップでさまざまなことができるようになってきた・・・という考え方は楽観的にすぎるようです。実態は逆で、半導体の技術革新が鈍化しており、さまざまな制約が課せられるようになってきたからこそ、チップの汎用化や多機能化が進んだ・・・後藤氏はこのように説明します。ポイントはムーアの法則とCMOSスケーリングのずれです。ムーアの法則とは「チップの集積度は2年毎に2倍ずつ上がる」という経験則で、CMOSスケーリングは「ムーアの法則にともない、トランジスタの高集積化や高クロック化、省電力化などの周辺要素も、同様に恩恵が受けられる」というもの。この現象が90ナノメートル(nm)世代から少々怪しくなってきたのです。ちょうど21世紀に入ったあたりの話です。具体的には同じチップ面積で消費電力や急増したり、電力あたりの性能が低下するなど、ムーアの法則とCMOSスケーリングの相関関係が崩れはじめました。その結果、チップ上の全トランジスタを同時にONできない(消費電力に対して供給電力を増やせないため)「ダークシリコン問題」も発生しています。当面は3Dトランジスタ技術によって改善するものの、5〜7nm世代から先の技術が不鮮明とのこと。登場は2020年前後の予定で、ここから講演タイトルの「2020までのゲームハードウェアトレンド予想」となるわけです。■CPUとGPUの統合は道半ば、一方でメモリ技術が躍進こうした制約から生まれてきたのが、CPUコアとGPUコアの統合や、CPUに対する周辺機能の統合です。一例がチップに大小のコアを内包し、異なる作業を振り当てるヘテロジニアスコンピューティング。トランジスタを機能毎にグループ化し、用途に応じて動作を切り分けることで、ダークシリコン問題にもうまく対応できます。PS4もXbox OneもCPUコア数個に多数のGPUコアを組み合わせ、メモリ空間を共有するスタイルを採用しており、AMD Kaveriのような最新のPCアーキテクチャでも、この方式を採用しています。モバイル向けプロセッサでもヘテロジニアス化は進行中です。ただし課題もあります。ワンチップ化といいつつも、現状ではCPUとGPUがかけはなれており、データ処理の効率化が損なわれているのです。GPUコアをCPUコアのひとつのように扱い、互いのメモリ領域を意識しなくて済むようにするのが理想ですが、まだまだ道半ば。CPUがシリアルタスク、GPUがマッシブパラレルタスクという処理の違いも影響しています。CPUとGPUの中間の粒度でデータ処理が行えるような研究が進んでいますが、まだまだ実現には時間がかかりそうです。一方ここ数年で、大きな進化を遂げると予測されているのがメモリです。ポイントはチップあたりで従来の32倍〜64倍の帯域幅をもつ(チップあたり1024ビット)スタックDRAM HBMの登場です。帯域あたりの電力を大幅に減少させられるため、現在ハイエンドとされるGDDR5の倍以上、1テラバイト/秒以上の高帯域が実現できます。スタックDRAM HBMは2016年ごろ、ハイエンドGPUから採用が始まる見込み。モバイル向けDRAMも2年で2倍速の急進化が続き、メモリ帯域がデスクトップPCに追いつくと言います。SSDなどに使われるフラッシュメモリも急速な進化が見込まれています。こちらはメモリセルの積層数を増やすことで容量を増大させる、3D NAND技術がブレイクスルーとなりました。現在は1チップが16GBですが、将来的には1チップで128GB、合計で1TBのフラッシュメモリの登場も予定されているといいます。次世代不揮発性メモリも後に控えています。これによりハードディスクは近い将来、その役割を終えると予測されました。■次世代のゲーム体験はどうなる?ゲーム機の処理でボトルネックになっている要素の一つに、グラフィック周りにおけるメモリの転送速度があります。後藤氏は次世代不揮発性メモリが一般化すれば、プロセッシング能力をメモリ側に移行させるアーキテクチャも考えられると語りました。しかし、そこまでいかずともメモリの転送速度向上で、CPUやGPUの劇的な改善が望めなくても、グラフィック周りの処理能力向上が期待できるでしょう。もっとも、これ以上グラフィックが向上してどうするのか、という批判がすぐにでも聞こえてきそうですが、ゲーム業界は新たな必然性を手に入れました。それがオキュラスリフトやプロジェクト・モーフィアスといった、没入型HMDの登場です。フルHDでは物足りず、4K、8Kといった超高解像度が求められている・・・そんな声も耳にします。とりあえずこの数年間においては、高いニーズを持ちそうです。ただし、ベースとなる半導体の技術革新が鈍化しているということは、ゲーム体験の差別化が半導体技術からサービスやアプリケーションといった、上位レイヤーに移行しつつある・・・そんな風に捉えられるのかもしれません。PS4のシェアボタンなどは、その好例でしょう。2020年以降といえばPS5世代に相当します。その時どのような未来が待っているのか、期待したいところです。
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