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テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。変わるものと、変わらないもの。過去と未来。そして我々が宿命的に背負う日本という存在。なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだけ立ち止まって一緒に見つめてみませんか? 毎月1回、「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」ゆるーくお届けします。
山崎まだまだ暑い日が続く8月です。今月のオールゲームニッポンもよろしくお願いします。
安田よろしくお願いします。さっそくですが、平林さんがテレビに出ているのを見ましたよ。
平林ありがとうございます。見られてしまいましたか(笑)。8月28日に放映されたBSジャパン「日経プラス10」という報道番組に出演していました。
山崎私も見ました。8月8日に中国でリリースされた『モンスターハンター:ワールド』ですが、わずか5日間で配信停止になりました。このことを取り上げたゲーム業界特集でしたね。『モンハン』の配信停止は、今月の大きなトピックでもあるので詳しい話を聞きたいです。
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平林これは中国共産党の決定なので、審査内容などは一切公開されていません。そのうえでの推測ですが、私は番組内で「ネットワークコミュニティを警戒した可能性がある」とコメントしました。『モンスターハンター:ワールド』では、ご存知のようにユーザー同士がチャットで情報交換できますよね。あれが問題になった可能性がある、と。
中国ではTwitterもFacebookもskypeも使用が認められていません。当局によって認められたツールを使っても、共産党や国家にとって不都合な情報が書き込まれると即削除されます。その情報の発信者が逮捕されることもあります。最近の中国は以前にも増してネット監視が厳しくなってきています。
山崎ゲームの表現というよりは、コミュニケーション手段として規制がかかったということですか。
平林モンハン特有の共闘システムが「群衆で権力を倒すことを想起させる」とも言われました。もちろん、それが理由かもしれませんが、中国共産党にとって脅威なのは、コミュニティが大きくなることだと推測したんです。
山崎今の中国は日本にいては考えもつかない監視社会になっているということですね。
平林そうですね。中国では「中国共産党が国家を優越する」と言われています。国があって、その一部の組織として複数の政党があるのが普通だと思うじゃないですか。日本にいると。
山崎はい。
平林ところが、中国では逆なんです。中国共産党という組織が頂点にあって、その下に国家があるという政治体制です。これもまた日本とはかけ離れた考えですよね。そして、今年の3月から中国ではゲーム事業を監視するのが国の行政機関から、中国共産党中央宣伝部に移りました。つまり、それだけゲームの規制が重要事項になったことを意味します。
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安田テレビを見ていて思ったのですが、平林さんは今のゲーム業界を「成熟期の後半」という見方をしていましたよね。あれはどういう意味ですか?
平林『パズル&ドラゴンズ』が出たのが2012年でした。あれから6年が過ぎてスマホゲーム市場の伸びは鈍化しつつあります。つまり、ガチャで稼いできたマーケットはそろそろピークを迎えそう、という意味でした。
安田なるほど。言葉尻をとらえるようですが、僕の見方は違っていて、今のゲーム業界は踊り場にいる。きっかけをつかめば、もう一段の成長があると見ています。確かにソーシャルゲームの課金売上の伸びが止まっても新陳代謝が起きて、新しい市場が生まれてくるのがゲームビジネスの醍醐味だと思っています。
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平林ピークというのは短期的に見た場合ですね。今のゲーム業界は一時的に伸びが鈍化していると言いたかったのですが……。
安田僕自身、ゲーム産業というのは衰退することはないととらえています。競争は激しいですが、工夫のしがいがあって魅力的な産業です。また、「ゲームは必需品ではない」という見方もありますが、悩みを解決してくれたり、リフレッシュさせてくれたりする、人間の心にとっては必需品だとも思います。そんなことを常に意識しているので、ちょっと私見を言わせてもらいました。
平林あ、わかりました。ゲーム市場が成熟しているとか、していないとか。そういうテクニカルな問題ではなく、「ゲーム産業は存在そのものが善」と一般の視聴者にもわかるように。ここはもう少し丁寧に言うべきでした。
山崎今月の気になる動向として、インドネシアでアジア大会が開催されています。先月も触れましたが、今回のアジア大会ではe-Sportsが公開競技になっています。
平林あまり盛り上がっていませんね。少なくともマスメディアの報道は、e-Sportsという種目はないかのように静かです。TBS系列のアジア大会の中継では水泳、陸上競技、柔道など、いつものスポーツ中継と同じような編成がされています。
安田リアリティがないというか。事実としてインドネシアでe-Sportsの公開競技が行われたわけですが、メディアの人たちがそれを現実のこととして受け止めていない感じがします。
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平林日本テレビはプロゲーマーのチームを結成するなどe-Sportsに積極的です。「eGG」という名前のe-Sports専門の深夜番組も立ち上げました。ですから、さすがにこの番組ではアジア大会の模様を中継するのかと思いましたが、全然違うことを扱っていました。
山崎また他社さんの話ですが、平林さんは産経新聞デジタルのironnaでもe-Sportsの解説記事を書かれていましたね。そこでは日本人のスポーツ観と他の国スポーツ観は違っていると述べられていました。
平林はい。日本以外の国でスポーツというと、日々の生活から離れることとみなして、チェスやカードゲームなどもスポーツととらえます。これらの頭を使う競技を「マインドスポーツ」と言います。対して体を動かす競技を「フィジカルスポーツ」と言います。
山崎日本でスポーツというと、「フィジカルスポーツ」のみを指すということですね。
平林たとえば今年の夏の甲子園。決勝戦まで進んだ秋田県の金足農業高校が注目を集めました。あの盛り上がりは象徴的だと思います。高校生が炎天下の甲子園球場で汗を流して戦う姿に、多くの人が感動しました。あの感動と『ハースストーン』や『クラッシュ・ロワイヤル』を見た時の感動は、日本人にとっては別物なんだろうと思います。
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安田官製マーケットという言葉がありますよね。政府や行政の狙いがあって、産業をつくり育てていくのが官製マーケットです。古くは明治政府の製鉄産業育成がうまくいった代表例ですが、エンタテインメントの分野では官製マーケットは似合いません。むしろ、政府や行政の目が届かないところで生まれた市場を、あとから規制する。そのほうが、エンタテインメント市場の自然な姿ともいえます。
平林『スペースインベーダー』が大ヒットしてゲームセンターが一気に日本中に広まった。そのあとに、風営法の規制対象になったような。
安田オリンピックの種目になるからとか、アジア大会で競技を行っているからとか。そういう政策的に普及させるのではなく、市場メカニズムに基づいてゲームが競技として盛り上がることを期待したほうがいいのかもしれませんね。
山崎ところで安田さん、島根県から転勤してきて島根を愛する私としてはうれしい発表がありました。
安田「しまねカミコン(しまねカミングDayコンベンション2018)」のことですね。つい先日、「東京コミコン」の姉妹イベント「しまねカミコン」にアイドルグループ「仮面女子」と共同で出展することを発表しました。
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山崎『ルートレター Last Answer』では、実写キャストとしてアイドルグループ「スリジエ~cerisier~」に所属する山本あこさんが起用されるとか。
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安田僕の出身地、島根県松江市を舞台にしたテキストアドベンチャーゲーム『ルートレター』が、発売後2年が過ぎてもファンの方たちに支持されているのは、本当にありがたいことです。一部発表を行っていてナンですが、まだ詳しいゲーム内容はお話できません。準備が整うまで、しばしお待ちください。
山崎「しまねカミコン」は10月6日と7日に開催ですね。島根初のポップカルチャーイベントということで楽しみです!今月もありがとうございました。