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驚異的なフリーゲームとして話題となったアクションRPG『ASTLIBRA』 。本作は「ここまでクオリティの高いゲームがなんで無料なんだ!?」と、ゲーマーを驚愕させた出来によって、注目された一作です。
本作の開発には実に14年をかけたこともあり、高い完成度を誇っています。それゆえに公式サイトでのフリー公開に留まらない展開に繋がっていきました。WhisperGamesのパブリッシングによって、『ASTLIBRA Revision』というアップデートを施したバージョンのリリースがSteamで決定したのです。
今回、東京ゲームショウ2021にて『ASTLIBRA Revision』が展示。一体どのようにパブリッシャー契約に至ったかなどを開発者のKEIZO氏にうかがいました。
14年かけた開発は「生活の一部だったので、完成させるとやることがなくなっちゃう」
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――最初に、こうして14年かけて本作を完成させたお気持ちをお聞かせください。
KEIZO氏「やっと終わったな」という気持ちですね(笑)。開発していていつ終わるんだろうな、とずっと思っていたんですけど、終わったら終わったで「あっ、終わっちゃったわ……」となってしまいました。
『ASTLIBRA』の開発はずっと生活の一部だったので、やることがなくなっちゃうなあと。
――ライフワークみたいな感じだったんですね。
KEIZO氏ええ、趣味として。一本ずっと『ASTLIBRA』があったので。
――開発はお仕事がお休みの日にコツコツ作っていたかたちでしょうか。
KEIZO氏そうですね。仕事から帰ってから、休みの日などに。
――14年間の開発を支えたモチベーションはなんでしょうか。
KEIZO氏「途中で終わらせたらもったいない」ってずっと思っていたんですね。「ここでやめちゃったら全部、無駄じゃん」みたいな。キャラクターも作ってしまったので、彼らの物語の結末を自分でも見てみたいと思っていました。
――ちょっと漫画家さんのようなモチベーションですね。
KEIZO氏最後のオチは最初から決めてはいたんですけど、オチに向かって話が決めてあるから、そこを見せたいと思っていました。
――開発に当たって刺激を受けたり、影響を受けた作品はありますか。
KEIZO氏ものすごく古いゲームで、自分が小学生の時に初めて触ったゲームなんですけど、『魔城伝説II 大魔司教ガリウス』(※コナミが1987年にファミコンでリリースしたアクションRPG)ですね。
横スクロールのアクションが好きで遊びたいなと思っていたんですけど、『ASTLIBRA』を作り始めた頃って、全然世の中に横スクロールのアクションがなかったんですよね。探してもないような思い出がありました。
なので自分で作れば、自分で動かして遊べると考えたのがスタートでした。自分で作って自分で遊んでいたのが始まりです。
――なるほど。ではちょっと作っては遊んでみてを繰り返していたんでしょうか。
KEIZO氏なので結構、開発が止まっていますね。「ここまで遊べたからいいや」って何度も止まったことがあります。
――一番長く開発が止まった期間はどれくらいですか。
KEIZO氏『ASTLIBRA』ではフリー素材などをたくさん使わせてもらっているのですが、その中で使っちゃいけないという、顔グラフィックの素材を特定のキャラクターに使ったときがあったんですよ。それに気づかなかったんです。
気づいたときには素材の権利元から「取り下げてくれ」って言われて、そうしたんですけど、私はその人物の顔に思い入れを話の中で作っちゃっていて、「もうこのキャラクターはこの顔じゃないとダメだ!」ってなっていたんですね。
それを差し替えてしまうと、自分のなかで「このゲームじゃない」となってしまったんですよ。14年と言いつつ、3年半は空いているんですよね。別のゲームも作っていて、『ASTLIBRA』の続きを作ることができなかった時期があるんです。
3年半も経てば、もう問題となった顔グラのキャラクターへの思い入れも自分の中で薄くなっちゃって、パラッと差し替えて、すぐに次いっちゃったことがありました(笑)。
開発のコンセプトは「シューティングに影響を受けたアクションRPG」
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――本作はどのようなコンセプトからゲームデザインをしましたか。
KEIZO氏とにかくストレスを解消したいということですね。ボコボコ敵を殴って倒して、ジャラジャラお金やアイテムを拾っていくという。
シューティングが好きだったので、あれはボコボコ敵を倒してジャラジャラ手に入れるじゃないですか。それを自分の好きな横スクロールのアクションでもできたらなと考えたのが、本作のコンセプトです。
でもただ拾うだけだと面白味がないので、それを使って強化できたら、長い目で見て40時間くらい強化して楽しめたらなと思っていましたね。
――主なゲームプレイの流れについて教えてください。
KEIZO氏基本的にはお話を追っていく感じですね。ずっとストーリーを追い続ける感じです。街は大きな街がひとつあり、そこから出発した先で一章分くらいの話があり、単独の話が展開されるかたちです。
その章が終わったら街に戻ってきて、最終的には全9章の話がひとつの話にまとまるかたちです。最後のオチに全部つながる、一人の人間の話なんです。各章で出発した先には別の事件があり、「あの時のここで出会った物語が、ここに繋がるんだ」みたいに収束していきます。
ひとつひとつを単独で楽しめるようにしている理由は、やっぱり話が飽きちゃうからですね。ちょっとした物語がスタートからオチまで繋がっていると、ある程度そこで楽しめるので。
40時間も長くてオチまで到達するのにすごく時間がかかった場合って、やっぱり飽きちゃうんですよね。話が少し小さめで、開始とオチがある。それが9個に分かれている……すいません、8個で。最後の1個はおまけみたいなもので、お話のまとめとなるオチの部分です。
バラバラの話をひとつひとつを楽しめて、かといってバラバラではなく最後に1つにまとまるっていうのを考えて作っていました。
――お話をうかがうと、アクションに重きを置いているのかと思いましたが、ストーリーにもかなり力を入れていますね。
KEIZO氏そうですね。『ASTLIBRA』が評価されているのは、ひょっとしたらストーリーの方かなと思いますね。
パブリッシャーと契約した理由
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――もともとは今年の2月にフリーゲームとして公開されていたと思うのですが、今回、Steamでの買い切り版にアップグレードしようとした経緯について教えてください。
KEIZO氏それはWhisperGamesさんに「やらないか?」と声をかけていただいたからです。けっこう熱く声をかけてくれましたね。社長が楽しんでくださったと思うんですが、プッシュがすごくて。
やっぱり周りの開発者さんを観ていると、パブリッシャーさんと組んで上手くいった人がいなかったので、かなり警戒はしましたね。断ろうかなと何度も思いましたが、最初に話したとおり「これが終わっちゃったら、どうしようかな」という状態だったんです。まだ少し続けられるなら、続けていたいなと思っていましたね。
そこで技術面にも問題が出ましたし、画像にも問題あるため相談させてもらったところ、WhisperGamesさんに「チームに入ってくれ」と言われたんですね。「それならいけるかもしれないぞ」と思ってスタートしました。
――本作のグラフィックには、『十三機兵防衛圏』を開発したヴァニラウェア所属のシガタケ氏が参加しています。著名なクリエイターの参加に驚かされたのですが、どのような経緯で参加されたのでしょうか。
KEIZO氏高校生のころに『デザエモン』というシューティングを作るゲームソフトがあって、その作品をコンテストに出したことがあったんです。そこにシガタケさんもゲームを出していたんですね。
お互い入賞して、そこでお互いのことを知ったんです。それから大人になってTwitterで「あ、シガタケさん」、「あ、KEIZOさん」と再び知り合い、ふたりでやりとりをしたんですよね。
そこから仲良くなったツテで、シガタケさんに「やってもらえますか?」とお願いしました。
――まさかの『デザエモン』コンテストからの繋がりだったんですね。
KEIZO氏今回、声をかけたら「忙しくて、受けられないんだけど……」って言いながら、他の仕事を蹴って受けてくれたんです。今は死ぬような思いをしているらしいですね(笑)。そこは申し訳ないんですけど……。
――最後に『ASTLIBRA Revision』のSteam版に期待しているプレイヤーに向けて一言お願いします。
KEIZO氏『ASTLIBRA Revision』では追加ストーリーがあります。
フリーゲーム版でも、プレイヤーの皆さんは最後までクリアして満足してくださったっぽいですけど、最後はスパッと終わっちゃうので、一部で「もう少し、その後が見たい」というお声があったので、そこを作らせていただいています。そこに期待してほしいですね。
またフリーゲーム版よりもだいぶ操作性が上がっていると思います。触り心地を変えているところもいっぱいありますし、これからもそこを変えていくと思うので、フリーゲーム版をやり飽きている人でも新鮮な気持ちで楽しめる作品になるんじゃないかなと思います。
あとひとつ、キャラクターに一部表情が追加されたんですよ。もともと、重要な人物でずっといるのに表情がいっさい無いキャラがあるんですけど、彼にもシガタケさんが表情を作ってくれて、それを適用したらまったく新しい話を読んでいるように感じたんですね。
これはぜひ最後までやってみても、新鮮な気持ちで遊べるんじゃないかと思います。
日本のインディーゲームでは、「開発に長期間をかけたフリーゲームが海外でも注目され、のちに買い切り版がリリースされる」という流れが『洞窟物語』の時代からしばしば生まれるものです。
開発に14年もの歳月がかけられた『ASTLIBRA』もまた、そうしたケースのひとつだと言えるでしょう。今回のKEIZO氏からのお話からは、商売を抜きに作りたいものを作ったものが評価され、世界へと飛躍してゆく流れもうかがえました。
『ASTLIBRA Revision』のSteam版は、2022年のリリースを予定しています。