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開発現場の裏側に迫る「DEVELOPER'S TALK」の最新号では、大鳥居にあるセガ本社にお邪魔し、ディレクター(当時)の林氏に開発の経緯や苦労をお聞きしました。
参加者
・林 誠司 セガ第3CS研究開発部 プロデュースセクション プロデューサー
・インタビュアーはインサイド編集部&CRI・ミドルウェア
※このインタビューは業務用『初音ミク Project DIVA Arcade』の発表前に収録されたものです
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初音ミク |
2007年の秋頃でしょうか。「初音ミク(※)」がネットで話題になっていることを知って、最初は趣味から入りました(笑)。歌声が本当の人間のようだというのが最初の印象です。当時の私の部署はプロデューサーが集まっている部署で、そこのミク好きの仲間で話が盛り上がって、ゲームをぜひ作りたい!ということになりました。そこで企画書を書いてクリプトンさんに持っていったのがきっかけです。
※初音ミク・・・2007年8月にクリプトン・フューチャー・メディア社から発売された、音声合成のボーカル音源。発売直後から「初音ミク」を用いた楽曲や動画がインターネット上で多数投稿され、話題となった。
―――クリプトンさんの反応はいかがでしたか?
ちょうどミクの人気が広がりつつある頃で、いろいろな会社さんからさまざまなお話があったようです。当社としても、トントン拍子というよりは時間をかけて形にしていったという感じです。そして、ちょうどミクの1周年の誕生日だった2008年8月31日にタイトル発表をさせていただきました。そこから発売まで約1年かかったわけですから、その時点での発表は結構大変だったのですが...(笑)。
―――開発はいつ頃から始まったのでしょうか?
2007年9月に「初音ミク」を知ってから、企画を書いたりクリプトンさんと交渉する期間がありました。それを経て2008年初頭から試作を始めて実制作に入ったのは春が終わる頃です。制作期間としては1年半くらい、実制作だと1年くらいという印象でしょうか。リズムゲームとしては比較的長いかもしれません。でも、もちろん現場は大変で(笑)。
―――どのような部分が大変だったのですか?
やはり人気のあるキャラクター、コンテンツをゲーム化するので、色々な迷いや悩みがありました。ある意味、通常の版権モノとは異なる難しさがあったかもしれません。最終的にはクリプトンさんのご協力のおかげで、なんとか形になりました。
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メインビジュアル |
―――リズムゲームに落ち着くまでにも紆余曲折あったのですか?
色々なアイデアがありましたね。ただ、「初音ミク」は歌をうたうキャラクターなので、歌というテーマに絞っていくうちに、リズムゲームという形に落ち着きました。同時に、本来の「初音ミク」は歌を作るソフトでもあるので、クリエイティブな要素も重要にしたいという思いがあって、それをPV(プロモーションビデオ)やリズムゲームのエディットツールという形に集約しました。「初音ミク」を好きな方は物を作ることに興味のある方が多いだろうと思いましたので、一通りゲームを遊んだ後でも長く楽しめるものにしたいと思いました。
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―――プラットフォームにPSPを選んだのはなぜでしょうか?
PSPは音楽の再生機能がありますので、音楽の好きな方が持ち歩くというイメージがありました。そこで、リズムゲームにはPSPが合っているのではないかなと考えたんです。開発を始めた当初から、自分の作った曲を交換して鑑賞しあうような遊びが出来ればいいな、と思っていました。やはり据え置きゲーム機ですとPCの「初音ミク」と近くなってしまいますので、「初音ミク」と一緒に街に出るという意味でPSPがふさわしいのではないかなと思いました。
―――反響も大きかったのではないですか?
「初音ミク」には沢山のファンがいらっしゃいます。そういう方に遊んでもらうとどういう反応になるのか、ドキドキでした。インターネットのあちこちや、アンケートでもそうですが、とても良い反応をたくさんいただいていて、ほっとしたというのが大きいですね。
―――ネットの盛り上がりを上手く追い風にできた印象ですね
そうですね。通常のタイトルですと色々な媒体で記事を書いていただいて、プロモーションを仕掛けていくというのがありますが、『初音ミク -Project DIVA-』の場合はネットユーザの皆さんが広めてくれました。アンケートで、「ゲームをどこで知りましたか?」という項目があるのですが、今回はニコニコ動画や公式サイトでという回答が多いです。ニコニコ動画でミク関連の動画を見て、そこからゲームを知って購入するという流れが多かったんじゃないでしょうか。本当にネットユーザの皆さんに助けられたと思っています。
―――ユーザからの募集企画も盛り上がりましたね
元々「初音ミク」は色々な方が自分の得意技を持ち寄って、曲、イラスト、動画を制作して盛り上がっているコミュニティです。セガもそこに加わらせていただきたいという気持ちで、ピアプロ(※)さんと一緒にゲームに収録する作品の募集企画をやらせていただきました。
結果→http://piapro.jp/static/?view=miku_1st_anniversary
※ピアプロ・・・クリプトン社が運営するCGM型コンテンツ投稿サイト。初音ミク関連の画像や動画が一般ユーザから多数投稿されている。
結果として、実に2000通以上の作品を応募いただきまして、多くの作品をゲーム中で使わせていただきました。それだけの作品をスタッフで手分けして見るのも大変なんですが、本当にレベルの高い作品ばかりで、一番良い作品を厳選したというよりは、どの作品も採用するに相応しいレベルのものでした。刺激も沢山受けましたし、僕らの方で考えただけでは到底実現できないようなコスチュームなども多数寄せられて、世界が広がったんじゃないでしょうか。どれもミクの可愛らしさを引き立てるものばかりでした。
―――収録した楽曲は何曲だったのですか?
リズムゲームとして遊べる基本の曲が32曲あり、それにプラスして鏡音リン・レンのバージョン違いがそれぞれ2曲で計36曲。それに加えてユーザさんからの公募で採用したエディット用の曲やエンディングで使用した曲が7曲です。加えてエディット専用曲が7曲あって、合計で50曲になります。意外と多いですね(笑)。なので、UMDは2層で使っています。
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鏡音リン | 巡音ルカ |
―――今回はオーディオミドルウェアとして「CRI ADX(※)」を採用したということですが、きっかけは何だったのでしょうか?
ADXを使いたいという要望が開発側からありました。ADXを既に利用したことがありましたので、慣れていた部分もあります。サウンドのみならず、ファイル管理まで行えるので使い勝手も非常に良いです。過去に利用して開発効率が良くなった事例がありましたので、すんなり導入が決まりました。
※CRI ADX・・・CRI・ミドルウェアが提供する、高音質マルチストリーム音声再生システム。オーディオの再生だけでなく、ファイル管理も行うことができる。約15年間に渡りゲーム開発を影で支えているミドルウェア。
―――どのような箇所にADXを利用されましたか?
サウンド関連では、BGMのストリーミング再生、SEなどのワンショットの効果音の再生、リズムゲーム中の楽曲再生に使用しています。
ゲーム中でミクが歌う箇所はちょっと変わった面白い処理をしていて、カラオケのトラックとボーカルのトラックを分けて管理しています。通常はカラオケ、ボーカルと2本のストリーミング音声を流しているのですが、ミスをするとボーカルの音量がゼロになり、ミクが歌わなくなってしまう、という演出を入れています。
―――ADXでは2本の音声ストリームを同期再生しながら、それぞれのボリュームをオン/オフできるのですが、それをうまく応用したのですね
企画の段階から「ミクを歌わせるゲームにしたい」という考えがあって、逆に言えば、失敗すると歌わなくなる演出をどうしようかと考えていました。色々案はあって、失敗するとリアルタイムに音程を変えたり、キーを変えたりと色々考えました。ただ、そういう操作をすると、曲として聴き辛いものになってしまいます。ならば、ボーカルを消して歌うのをやめてしまうということにしようと。それはADXを使うことで簡単に実現できました。試みとしては面白いと思ったのですが、意外にも気づいてくれる人が少なくて…(笑)皆さん、すぐに上達してしまうんですよね。
―――エディットモードでエディット中に途中から楽曲を再生する機能は便利ですよね
そうですね。小節毎にエディットしている時に「今作ったところだけ聴きたい」という途中再生にもADXが役立ちました。波形編集ソフトなどでは「マーカー」と呼ばれる区切りの印を音声データに複数入れられるのですが、ADXでは特定のマーカーから再生することができるので活用しています。最初はテストプレイをしないと曲が聴けない仕様になっていました。すると、一つの曲を完成させるまでには何度も同じ箇所が聴きたいのに、その都度、一番最初から再生・・・ということになってしまいます。しかも、後半部分を聴きたいのに、最初からずっと聴いて、ようやく目的の位置に辿り着いて、「ここを変えよう」となるとちょっと大変過ぎるので、途中再生機能を入れました。
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―――ロード時間の面では工夫したところはありますか?
沢山のイラストがありましたので、読み込み時にはそれを表示して飽きさせない工夫も入れています。表示されるイラストデータはランダムに選ばれるようになっていて、で、ここで表示されたイラストはアルバムに追加されていくので、コレクションという別の楽しみにもなるのではないでしょうか。もちろんロード時間についてもなるべく短くなるように、ファイル配置などをいろいろと試行錯誤しました。今回、メモリースティックへのデータインストールは使っていません。ロード時間自体は短いとは言いませんが、お客さんに叱られない範囲にはなったかなと思います。
―――続編を望む声もあるようですが
ありがたいお話ですね。色々なお客さんに遊んでいただいているようで、「初めて初音ミクを知って、聴いているうちに大好きになった」というような声も聞いています。「初音ミク」という素晴らしいキャラクターを使わせていただくことができて、このゲームがきっかけになって更に「初音ミク」が盛り上がっていくことになれば本当に嬉しいですね。また、それが上手く次に繋がれば更に嬉しいといったところでしょうか。
―――ありがとうございます。では最後にユーザさんとゲーム開発者の方に一言ずついただけないでしょうか? まずはユーザさんに。
ぜひ買って下さい(笑)。
「初音ミク」は知らない方にはなかなか説明するのが難しいのですが、ほんとうに素晴らしい曲が沢山あります。そのうちのごく一部ですが、『初音ミク -Project DIVA-』にも良い曲を多数収録しているので、純粋に曲を聴くだけでも楽しんでいただけると思います。ゲームとしても誰でも楽しめる内容になっていますので、ぜひ触ってみてください。
―――ゲーム開発者の方にも一言お願いできますか?
・・・早く家に帰りましょう(笑)。色々と大変ですが、根を詰めず、死なない程度に頑張っていきましょう。
―――どうもありがとうございました!
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