そんなところに、アイディアファクトリーではCRI・ミドルウェアの開発用ミドルウェアを全面的に採用しているという話を聞き、アイディアファクトリー、CRIの両社にお話を伺ってみることにしました。
■参加者
・東風輪 敬久 アイディアファクトリー株式会社 ゲーム開発部 ゲーム開発課 課長
・内田 浩輔 アイディアファクトリー株式会社 ゲーム開発部 ゲーム開発課 主任
・藤澤 裕 デザインファクトリー株式会社 取締役 開発部 部長
・及川 直昭 株式会社CRI・ミドルウェア 営業部 マネージャー
・櫻井 敦史 株式会社CRI・ミドルウェア 研究開発部 チーフマネージャー
![]() |
東風輪氏 |
東風輪: 主なグループとしてアイディアファクトリー本体の他にデザインファクトリーそしてコンパイルハートがあり、その中で複数のブランドを展開しています。基本的にはゲームタイトル毎に、それに合ったブランドで発売するというイメージで、企画の段階ではブランドを決めずに立ち上げる場合もあります。
―――中でも「オトメイト」はヒット作が続いています
東風輪: 「オトメイト」はアイディアファクトリーとデザインファクトリーで立ち上げた乙女ゲーム(女性向け恋愛ゲーム)向けブランドです。基本的な考え方としては、デザインファクトリーのクリエイターの才能とアイディアファクトリーの技術を融合させようという試みです。現在は、女性向けゲームを手掛ける多くの優れた会社と協力しあいながら、このジャンルを盛り上げております。
東風輪: ヒット作、という話ですが、大手メーカーのように100万人のユーザーをターゲットにするというような事は最初から考えていません。それよりは、数は限られても一部の人に熱狂的に支持されるようなゲームを作るという方針でゲームを制作しております。その方がお客様の目線でのゲーム作りが出来ます。幅広いユーザー層を狙って中途半端になるよりは、ある分野に関して尖ったゲームを最初から狙って作るという考え方です。もちろんユーザーの幅を広げる努力はしますが、それで薄まってしまうのは問題ですよね。
―――なるほど。では作るコンテンツの見極めというのが重要になってきますね
東風輪: ええ。常日頃からクリエイターはアンテナを高くしていますし、様々な調査などで動向を探るということもあります。それから、大事なのはお客様の声です。インターネットでお客様の反応を見ることが出来るので、それが大きな材料になります。実は以前は原宿にオフィスがあったのですが、最近池袋に引っ越してきました。これも乙女ロードなどの文化に普段から触れられるように、という考えもあってのことだったりします。
―――社内は女性のスタッフが多いのでしょうか
東風輪: 最近は自然と多くなってきましたね。もともとは普通のゲーム会社と同じで男性中心だったのですが、最近では男性6、女性4くらいまで増えました。
藤澤: デザインファクトリーも技術系は男性が多いのですが、グラフィックを中心にディレクターやプロデューサーも女性が多いですね。やはり女性の目線でのゲーム作りというのが大事ですから。
■予想を超えたヒットになった『薄桜鬼』シリーズ
―――『薄桜鬼』について簡単に教えて下さい
東風輪: 幕末を舞台にした恋愛アドベンチャーゲームです。昨年はアニメにもなって人気が高まっています。主にプレイステーション2で発売してきましたが、ファンディスクやミニゲーム集、それからPSPやDSでの移植もリリースされています。お客さんの中には「DSしか持ってない」という方も多いので、移植を進めています。でも、元々音声や映像のボリュームが大きなゲームなので、開発の苦労はあります。2月17日にDSで『随想録』が発売され、4月には『遊戯録』も発売予定です。
![]() | ![]() | ![]() |
高い人気を集めた薄桜鬼シリーズ | >
―――DS版のポイントとなるのは?
東風輪: DSの本編『薄桜鬼 〜新選組奇譚〜』を遊んでくれたお客さんが入っていきやすいような作りに心がけました。声のボリュームや画質については前作で苦労した甲斐もあってかなり向上していると思います。
―――なるほど
藤澤: 乙女ゲームってニッチな産業なんです。でも、当然ながら好きな方は本当にこだわりを持ってらっしゃいます。どうすれば満足いただけるものが作れるか、そのひとつに音声と映像があるんです。どちらも制作の上では「これ以上は品質を絶対下げられない。それをやったら作る意味がない」と考えています。特に音声に関しては、耳元でささやくようなボイスが多いんです。プレイされる方もヘッドホン装着が多いため、かなり高い音質が求められます。
![]() | ![]() | ![]() |
DSでも妥協しない開発が徹底された |
―――話が前に戻りますが『薄桜鬼』というゲームを作ったきっかけを教えていただけますか?
藤澤: もともと『緋色の欠片』というゲームをカズキ(ヨネ氏、イラストレーター)と一緒に作った後、もう一本別のゲームを作ろうという話になったんです。企画を考えているとカズキからもっと和風でバッタバッタ斬るようなゲームを作りたいという意見がありました。たまたま僕も以前に、新選組が吸血鬼のようになってしまうという物語の企画を持っていて、できたのが薄桜鬼の原案なんです。この二人の企画はコンシューマじゃあ作れないと思ったんですけど(笑)、できるだけマイルドにしてダメ元でアイディアファクトリーさんに持って行ったんです。
東風輪:当時『緋色の欠片』が人気だったので、シリーズを続けて欲しいというのもありました。そんなところに『薄桜鬼』の企画が出てきて、これも作りたいと言うのでみんなびっくりみたいな(笑)。でも、最終的な出来上がったものを見ると「凄いな」と。企画書の段階ではここまでとは分からなかったですね。
![]() |
藤澤氏 |
藤澤: まずタイミングが合ったところが大きいと思います。幕末ブームに乗れたというのも運が良かったですね。NHKの大河ドラマでは幕末はヒットしないという定説がありましたが、数年前の『新選組』がヒットしていましたし、ゲームやアニメでも幕末物の人気が出はじめていました。ただ、薄桜鬼のここまでの大ヒットは予想しませんでしたが、好きな人は満足してもらえる作品は出来たとは思っていました。和風が好きというのは誰でも心の中にあるんじゃないでしょうか。『緋色の欠片』は誰もが心の中にある山奥の田舎の秋をテーマにしたもの、『薄桜鬼』は新選組という男の生き方であり滅びの美学。そこをぼかさずにちゃんと作ったのが良かったんじゃないでしょうか。
―――『薄桜鬼』の今後の展開などは考えてらっしゃいますか?
藤澤: 幕末の新選組をテーマにゲームでは語りつくしているので、次は難しいという感じもしています。ただ、新選組ではなくても薄桜鬼というテーマで描けるものを考えています。
■ミドルウェアは「開発スタッフの一人」
―――多くのタイトルでCRIのミドルウェアを採用しているとお聞きしました
及川: 初めてお使いいただいたのはPS2で、2004年あたりでしょうか。とにかくたくさんのボイスがあるタイトルで音声を圧縮したいとご要望いただいたのがきっかけです。
東風輪: 以前は一部のタイトルだけで採用していたのですが、お客様の「声」に対する要求が高まっていて、それに上手く対応するためにCRIさんの音声ミドルウェア「ADX」を全面的に採用するようになりました。また、特にPSPですが、UMDの容量が足りなくなってしまったのと、ロード時間を削減して快適なゲームにするために「ファイルマジックPRO」も導入を進めています。
![]() |
内田氏 |
櫻井: アイディアファクトリーさんには、ファイルマジックPROの発売前のタイミングで、ミドルウェア検証のお手伝いをしていただいたことがありましたね。社内での検証でロード時間が短くなってはいたのですが、実際のゲームデータではどうか、という部分が我々だけでは分からなかったため、とても助かりました。
―――ミドルウェアもお客さんに育てられていると(笑)
及川: そういった部分は非常に大きいと思います。お客様からのご要望で追加する機能もたくさんあります。
内田: 私たちもミドルウェアはスタッフの一人というような形で使わせていただいています。同じソリューションを全タイトルで利用するので、社内でのノウハウも溜まっていっています。
―――ほぼ全てのプラットフォームでゲームを展開されていますよね
東風輪: そうですね。それぞれの機種で違うので苦労はしています。ただ、今後も基本的には全てのゲーム機でやっていきたいと思っていますし、新しい機種は早めに準備を進めていきたいと思っています。
内田: そういう意味ではミドルウェアのインタフェースが統一されているのは開発するうえで非常に有用ですね。このハードではこう、こちらではこう、となると作るたびに頭をリセットしないといけないので。移植する際にも一部の差し替えで済むので、とても助かっています。
―――外部の開発スタジオに開発をお願いする場合もありますよね
内田: CRIのミドルウェアを使い慣れているという会社は多いので、そういう面でも楽ですね。
―――他のミドルウェアを検討することはありますか?
東風輪: 色々と声はかけてもらうので日々研究はしています。でも、そのタイトルで必要かどうかが優先ですね。あとは、PS3の初期には試行錯誤でかなり苦労しました。最初に不安定なエンジンを採用してしまうと後で苦労するので、描画などある程度基礎的な部分は自社でやろうということでやっています。
内田: プログラマとしては、中身が分からないものは不安なんです。ぱっと綺麗な絵が出せても、メモリ消費が激しいとか・・・。ブラックボックスだと原因を突き止めるのも難しいですし。でも、実装コストを検証して外部に任せられるものは積極的に使いたいとは思っています。
―――最近はプラットフォームも多様化してきて、スペックもバラバラだと思うのですが、ミドルウェアとしてはどのように解決しているのでしょうか?
![]() |
CRI櫻井氏 |
内田: そのような柔軟な使い方ができると、作る側としてはとても助かりますね。
■自分達の実力以上の作品を作っていきたい
―――海外版の展開などは?
東風輪: まだ言えませんが、海外での乙女ゲームの市場についてはリサーチなどをしています。
―――アイディアファクトリー全体としての今後の展開も聞かせてください
東風輪: 女性向けのゲームは国内を中心に展開しますが、男性向けのPS3タイトルは海外も意識して展開をしていきます。そのほか、家庭用ゲームが中心になりますが、お客さんが求めるものを柔軟に作っていきたいと思っていますので、ぜひ声を届けてもらえればと思います。今年は3DSとNGPという新しいハードが出る年なので、どのようなものが実現できるか先回りして研究していかないといけないと思っています。
―――ありがとうごさます。それでは結びに両社の皆さんからメッセージをいただけますでしょうか
![]() |
CRI及川氏 |
櫻井: 「音声や映像を高品質かつ使いやすく」という基本は固めつつ、凝った演出にも使えるような機能を日々模索しています。たくさんの良質なタイトルを開発していただけるよう全力でサポートしていきますので、今後ともよろしくお願いします。
東風輪: 現在の開発方針は、外部で自分達に協力してくれる会社や技術があるのだから、自分達の技術では実現出来ないレベルに目標を設定し達成する。自分達の実力以上のゲームを作っていこうということです。技術志向になりすぎるとバランスが崩れるので、今の市場に合ったものをきちんと作りながらお客さんを驚かせていくのが目標です。
内田: 今はまだミドルウェアを100%使い切っていません。さらに使いこなしていくことで、これまでにない驚きを提供できると思っています。音声でも映像でも、単純に再生するだけでない面白い使い方ができるんじゃないかと日々研究をしています。「ADX」も「ADX2」になって新しいコーデックが追加されたりサウンドデザインができるようになったりといろいろ進化しているので、今後のタイトル開発に活かしていきたいですね。
藤澤: 女性向けゲームは男性向けのゲームと作り方が全く違います。どこに満足を持つかという要素が違うんです。ストーリーやゲームプレイ、音楽や音声そしてグラフィックもそれぞれを高いレベルに持っていきながら、新しいハードの新しい技術もフィードバックしながら、より満足度の高いゲームを作っていきたいと思っています。
![]() |
ありがとうございました |
本文中で紹介している「CRI ADX」は現在「CRI ADX2」となり、サウンド制作からデバッグまで対応したオーディオソリューションとして提供されています。対応プラットフォームは、NGP、3DSをはじめ現行のゲーム機すべてに対応しています。
(C)IDEA FACTORY/DESIGN FACTORY