見るべきところがあるのは大きなタイトルばかりではありません。PlayStation Vita『箱 ! -OPEN ME-』の有限会社 JetRayLogicがGTMFのゲストセッションに登場しました。JetRayLogic はPlayStation CAMP!でかつて『ゴミ箱』を制作したチーム。『箱!』は昨年2012年末の12月にリリースされた新作にあたるタイトルです。ゲーム内容を名前から連想するのは(2013年段階では)いささか難しいですが、ARを使った箱を開けるというもの。『箱!』は6人のプロジェクトで、一般的なコンシューマタイトルとしては少ない部類に入ります。また、プログラマは1名だけ。約8か月の製作期間の企画立案からマスターアップの過程において、プログラマはデバッグしながら進行中のビルドを構築しなければならないという厳しい状態に追い込まれたそうです。また、アドホック通信を使っての同期プレイやネットワーク利用に事がおよぶと、いわく「プログラマが悶絶した」。逆に、残るデザイナー5名は好き放題デザインをしていきます。その間はプログラマはアイドル状態になります。そして、コーディング中はデザイナー側が暇を持て余す。そうした状況を打破するにあたって、ミドルウェアは不可欠の存在だったといいます。ここまででまずさらりとJetRayLogicにより列挙されたミドルウェアの利点と欠点は:【利点】1. プログラマーの工数を減らせる2. トライ&エラーの回数を著しく上げることができる3. ほとんどの場合、デザイナーの調整で解決する(※ 2について、個別の工程が軽くなるためトライアンドエラーを増やせるという主旨なのか、Typoなのかは不明)【欠点】1. 「それ、本当に必要なのかね君」と問い詰められやすい2. ブラックボックスに心の底から嫌悪感を抱く3. 改善要求しても、反映される可能性が不透明一気に重くなりました。個別の事例について邪推するのはさておき、JetRayLogicが活用したミドルウェア群は多岐にわたります。AR関連では、まずSCEと契約すれば使えるようになるSmartAR。そして、パーティクル表現に定評のあるBISHAMONも使われており、ほぼ単独ですべてのエフェクトを創りあげたそうです。しかし、BISHAMONもそっくり適用できるものではなく、当たり判定の処理などこだわりたい部分はコードをオーバーライドすることもあったそうです。また、VitaのGPU特性のため画面全体にパーティクルを散らしたり半透明処理を連発したりするのは厳しかったとか。それでも、ひとうひとつをプログラマーに投げるのではなくデザイナー間で完結できたのはハッピーだったとのこと。AR系ミドルウェアといえばソニー謹製SmartARで鉄板のように思えるかもしれませんが、そうでもありません。紆余曲折があったのです。まず、SmartARは「統合型拡張現実感技術」を標榜していたものの、企画を立てた当時はバージョンが低く、まだVer1.6。たしかに安定して軽快な印象があるものの、箱を360度から見渡すというゲームの性質であるにもかかわらず後ろに回るとオブジェクトが消えてしまうなど、ゲーム向けに使うには厳しい水準だったのです。直接SmartAR製作サイドに話をつけて、ライブラリを一緒に成長させていこうという話になったものの、では何を使うかで悶絶します。次に白羽の矢を立てたのがWAAR。が、こちらも動作は軽量なもののすぐにマーカーを見失うため使い物にならなかったそうです。こうした弱点を克服するため採用したのがMagnet。なかば苦肉の策めいた採用をしたのは、企画の途中でマイルストーン審査があったため。そもそもARを使ったゲームが商品になるのかというレベルで上層部は疑心暗鬼になっていたため、説得させる材料が必要だったのです。事実、Magnetは衝撃的な成果を打ち出し、空中でオブジェクトがスライドするような感覚もなく、その名の通り磁石でくっついているかのような安定性をみせました。しかし、最終的にMagnetは使われませんでした。プロトタイプやプリプロを通す段階ではMagnetが不可欠だったという、いわば悲劇のライブラリです。その理由について明言は避けられましたが、「ほとんどほかのことができなくなるライブラリではあった」と表現。『箱!』のようなシンプルなゲームでは採用できたとしつつも、いくらかの不満があったのかもしれません。ARとしては外せないのがオリジナルマーカーの存在。届いたオーダーはAKB関連商品の外装と全く同じデザインとサイズで製作してほしいというもの。ここでSmartARやWAARからマーカーを生成したところ、使い物にならない認識スコアしかでず、途方に暮れてしまったそうです。しかしあるときタイポグラフィーがAR認識に有用であることにたどり着き、試行錯誤を繰り返したのちに完成形へたどり着いたのです。ポイントとなったのは、タイポグラフィーそのものにくわえ、「ある程度乱雑であること」。白地に黒文字のはっきりした絵を使うと逆にスコアが下がってしまうそうです。こうしたノウハウを蓄積しつつ、最終的には海外向けに英語版や中国語版も製作したところ、スコアに大きな変動はなかったとのこと。「半年くらいどのミドルウェアを使うか決めあぐねていた」と告白したJetRayLogic。彼らは、あくまでもより良い作品を創りたいという想いからスタートしていました。一見すると都合のいいことだらけに感じられなくもないミドルウェアがどのようなリスクを抱えうるのか、あるいは開発サイドからどのように嫌悪されたりするのか、直球ではありませんでしたがにじみ出るものがありました。最後にSmartARへの感謝の意を表したJetRayLogicは、ARゲームの魁として今後も「認識」されることでしょう。
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