2014年、初夏リリース予定の『円環のパンデミカ』は、そんな東映アニメーションが手がけるオリジナルのスマートフォンゲームです。なぜここに来て東映アニメーションがゲームに挑戦するのか?アニメとゲームにおけるメディアミックスの違いとは?東映アニメーションの松浦寿志氏と開発プロデューサーの黒川文雄氏にお話をうかがいました。
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■これまでにないやり方で新規IPを作る
―――まず今回の企画が始まった経緯から聞かせてもらえますか?
松浦:このプロジェクト自体は3年ほど前から始まったものです。最初はゲームを作るというわけではなく、アニメ以外のコンテンツを展開しようというプロジェクトでした。ゲームで行こうと決めたのは、私が企画したものが採用されたからです。同じような流れで出来たのが、『ロボットガールズZ』や『スタプラ!』といった作品です。
最初はスマートフォンに限らず、ブラウザゲームも選択肢に入れていました。ただ開始から時間が数年経過したのでスマートフォンに絞ることになりました。構想を含めると本当に時間のかかったプロジェクトになりました(笑)。
―――そのような中でどうして黒川さんがプロデューサーを務めることになったのですか?
黒川:僕はこれまで『LINE EASY DIVER』やPCとスマートフォンのクロスプラットフォームの『戦場のヴァルキュリアDUEL』といったスマートフォンのゲームのプロジェクト組成とプロデュースをいくつか手がけていました。そのような中、偶然にも東映アニメーションの松浦さんたちが『戦場のヴァルキュリアDUEL』を高く評価してくれたことがそもそものきっかけです。松浦さんに「こういうゲームを作ってみたい」と言われたのです。
松浦:もちろん、黒川さんのことはいろんなメディアを通して以前から知っていました。ただ黒川さんがNHNに在籍していたり、『戦場のヴァルキュリアDUEL』に関わったりしたことは、全く知りませんでした。
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「黒川塾」でもお馴染みの黒川文雄氏 |
―――では、黒川さんのスマートフォンゲームのプロデュース能力が純粋に買われたということですね(笑)。
黒川:うーん、どうなんでしょうか(笑)。僕は特別に良い結果を出しているとは思っていません。ただ座組を作って、水がもれないように開発を管理して、運用して行くのは得意だと思っています。
松浦:我々としても、そもそもゲームの開発者を探していたわけではありません。これまでにもゲーム開発会社とは様々な形でやりとりさせていただいてきました。ただゲームの体裁をまとめあげる能力は、必ずしもゲーム開発会社にあるわけではないのかなと感じていて、プロデューサーが必要だと思っていました。そこで早い段階で黒川さんをご紹介いただきました。
―――スマートフォン市場は移り変わりが速いと思いますが、そこには不安はなかったですか?
松浦:基本的には時代に左右されない、流行にとらわれない内容を選んだつもりです。東映アニメーションとしても比較的、王道の作品を作る傾向が強いので、そこは大丈夫だと思っています。まずはゲームとして面白いものを作りたい。そういう気持ちが強かったのです。もしかしたら当時のソーシャルゲームへの抵抗感みたいな部分もあったかもしれません。
黒川:僕は正直に言うと、プロジェクト自体はややキツいなって思っていました(笑)。というのは、当時はGREEやMobageという大手のポータルのゲームが席巻していてで、それもボタンを押すだけ、アイテム得るためにガチャを回すだけというものが本当に多かったのです。2012年の5月にコンプリートガチャが問題視されましたが、まだまだソーシャルゲームの売上は衰えることはありませんでした。そして、多くの会社もそこを狙って同じようなゲームを作っていました。その中でこういうプロジェクトを立ち上げるというのは、コンシューマゲームの開発を立ち上げるという感覚に近かったですね。リリースする頃には、トレンドが変わっていることを祈るという感じです(笑)。
■学園モノのサバイバルストラテジー!? ホラー要素もあり
―――では『円環のパンデミカ』の内容を説明していただけますか?
松浦:スクリーンショットからもおわかりになるように、多くのキャラクターが一挙に登場します。10人のキャラクターをそれぞれペアにして動かすのですが、一人は戦闘員、もう一人は探索者といった風に役割が異なります。戦闘員は感染者から仲間を守るために自動で戦闘を行う一方、プレイヤーは探索者を操作してフィールドから様々なものを回収します。最終的に障害物や感染者の襲撃を乗り越え、スタート地点からゴール地点までを駆け抜けるといった内容になっています。もちろん、キャラクターにはスキルや能力などがあり、それらを活かして攻略するストラテジーゲームになっています。
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―――フィールドの画面は見下ろし型の3D形式ですね。
松浦:そうですね。舞台はなるべくリアリティのある場所を選んでいます。『Left 4 Dead』といったゾンビサバイバルものが好きだったので、日常のシチュエーションを切り抜いた雰囲気を作りたかったのです。学校やショッピングモール、そういった日常的に生活している場所でゾンビに襲われたらどうなるのか、そういう感じですね。
―――しかしながら、こう言うとなんですが、『円環のパンデミカ』というタイトルからはそういった雰囲気はあまり感じられないのですが(笑)。
松浦:それはその通りで、ホラーとして見せたくはなかったです。ホラーのシチュエーションは好きなのですが、我々としては全年齢の作品を作っています。そのため、感染者のキャラも可愛い感じのデザインです。むしろ感染者側の方にも愛着をもってもらいたいと思っています。
―――キャラクターは同時に5組操作するのですか?
松浦:そうですね。4組が自分のパーティーから選び、1組はフレンドから選びます。スマートフォンのゲームとしてはキャラクターが画面に多く登場して、結果として非常に華やかだとは思います。登場キャラクターはもちろん、今後も増やしていきます。初期の段階で100体近くは登場する予定で、さらに毎月追加していきたいと思っています。キャラクターのメインイラストレーターは「村上ゆいち」さんがつとめていますが、他にも多くのイラストレーターの方に描いてもらっています。
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―――登場キャラクターの多いリアルタイムのストラテジーゲームというと、『League of Legends』など昨今人気のMOBA系のゲームを思わせますね。
松浦:そうですね。『League of Legends』や『Dota 2』などもひと通りプレイしてみました。ただあの形をそのままスマートフォンに持ってくるのは、ちょっと難しいと思ったのです。非常に面白いんですが、定石がありすぎて、一見さんお断りな部分が強いのです。
―――なるほど。ではプレイヤー間のインタラクションは用意されていますか?例えば、対人戦など?
松浦:今のところ対人戦は無いですね。フレンドのキャラクターを借りるというのがメインです。今後はどうやったらユーザー同士のコミュニケーションを楽しんでもらえるのか探っていきたいと思います。
■ゲームからのメディア展開、アニメからのメディア展開
―――ストーリー部分は東映アニメーションの中でシナリオを制作しているのですか。
松浦:すでにある程度のボリュームのシナリオが出来ています。ただそれをゲームの中で表現するかといえば、今はまだ様子見です。むしろゲームの邪魔になるのであれば、シナリオは抑えようとも思っています。またメディアミックスする際も、必ずしも同じシナリオを使わなくても良いと考えています。世界観は共有するが別シナリオもありですし、また極端な話、アニメは日常系の学園モノでもいいのではないかとすら思っています。ゲームからのIPだけ、そういった部分はフレキシブルにありたいと。
―――なるほど。ゲームの場合は、メディアミックス展開もユーザーの反応を見て仕掛けていくことができますね。
松浦:そうですね。主要な登場人物を押し付ける気はありません、他のキャラクターに人気が集まるのであれば、そちらをメインにしたメディアミックスもありえます。例えば、感染者側に人気が集まるのなら、そちらサイドのアニメ化を展開するとかですね。
―――そうすると、ここに来て東映アニメーションがゲームに乗り出すのは、もっと直接的でフレキシブルなユーザーとのインタラクションを望んでいるということでしょうか?
松浦:そういうことかもしれません。逆に言えば、ゲーム以外の部分は、すでに社内にノウハウが蓄積しています。今はゲームを通したユーザーとのやりとりに関する経験を積んでいきたい。さらに海外への展開という意味でもゲームは足がかりになるのではないかと考えています。
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自身もゲーマーである東映アニメーションの松浦氏。 |
―――しかしながら、東映アニメーションさんは既に強力なIPをいくつか持っていますよね。それを利用するということはなかったんですか?
松浦:実際にこれまで『スラムダンク』や『聖闘士星矢』といった題材のソーシャルゲームは展開してきました。そして、確かに沢山の方にプレイしていただいて、好評も得たのです。さらにそこからある程度のノウハウもつかむこともできました。
しかし、ゲームから新しいキャラクターを生み出すことができないのだったら、結局はテレビやマンガといった他のメディアが先にないと、ゲームが作れないということになってしまう。新しいIPを増やそうと考えた場合、それでは本末転倒です。
―――なるほど。この企画自体が既存のIPを使うというより、オリジナルなIPを作ることに力点があるのですね。では日本のアニメビジネスとして、漫画やライトノベルなどの原作付きのものを制作していくスタイルに危惧する部分もあったのでしょうか?
松浦:危惧というよりも、それ一辺倒だと問題があるという認識です。むしろ原作からのアニメ化という流れは、すでにノウハウが蓄積されきった感があります。
本作を発表してから、実はアニメ業界のいろいろな方と話す機会が増えていますが、皆さんも同じことを考えています。つまり、今までのやり方とは異なった形でオリジナルのIPを作っていく必要性を、どこの会社も感じているのです。そして、そのひとつがゲームというわけです。
あとはゲームならではのユーザーとの近さという利点もあります。アニメーションの場合、ユーザーの声を直接聞ける機会というのは実はあんまりありません。特別なイベントや声優さんのイベントといった機会しかありませんし、作品を直接手渡しするわけでもありません。
―――私も先日、AnimeJapanに行く機会があり、初めて制作会社の監督さんの話を聞きました。アニメを楽しんでいるユーザーにとっても、実際にはそういう機会はあまりないですよね。
松浦:そうなんですよ。いわゆるプロデューサークラスの方は別として、監督や現場の方が表に出ることは少ないです。彼らも本当にいろんな思い持って作品を作っているのですが。その点、ゲームだと現場の人間がユーザーからの声を直接聞けるチャンスがあると思っています。またコンテンツの長さや大きさに関してもゲームに利があると思います。放送枠の問題などもあり、アニメは一つの作品を長く継続することはやりにくい。もっとたくさんのキャラクターを登場させたいと思っても、現実的に不可能なんです。
―――よくよく考えればそもそもアニメに100人のキャラクターも登場しないですからね。
松浦:出ないですね(笑)。キャストの費用だけでも莫大なお金がかかる。アニメでできないキャラクター展開をゲームでやる。そういった補完関係が理想です。
―――では、最後に何かメッセージがあればよろしくお願いします。
黒川:本作品は企画から始まってから2年という長い歳月をかけて取り組んできました。それもこれも松浦さんのゲームに対する思いが強かったからです。その気持をなんとか形にしたいと思い、長く遊んでもらえるゲームに仕上がりました。昨今のトレンドにはないコンテンツかもしれませんが、これからのトレンドを作るゲームになってほしいと思っています。
松浦:完成は少し遅れましたが、その分、自分が最初に想像していたよりも面白くなりました。最初は本当にボードゲームのようなシンプルなものを想像していました。特にたくさんのキャラクターをイラストにして、さらに3Dモデリングでデフォルメして、ゲーム内で操作できるのは、思った以上に面白いです。ゲームとしての楽しさに加えて、箱庭的な可愛さがあるので、ぜひとも触ってみてください。
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