専門学校の学生と競わせたい
―――BASICを学んでも、それだけでは就職につながりにくいですよね。だからこそ高校で学ぶ意味があるようにも感じました。
徳留: その話で言うと、いまゲーム業界に就職する上で、求められるスキルってすごく高くなっていますよね。自分も企業サイドの人間として、ある程度のスキルが求められるというのは良くわかります。大学や専門学校でも、そうした企業サイドのニーズを踏まえて、カリキュラムがすごく高度になっています。それはそれでいいんですが、一方でおもしろいものを学生が作らなくなってきた・・・そんな反省もあるんです。よく学生作品などを見させていただくんですが、ツールはすごく高度になっているにもかかわらず、全然楽しくないなあと。
―――確かにそういった傾向があるかもしれません。
徳留: だったらむしろ高校生のような何も染まってない段階で、BASICのような基礎の基礎からプログラミングに触れてもらって、自分たちのやりたいことを素直に表現してもらった方が、逆におもしろいものが出てくるんじゃないか・・・そんな期待もしています。もし、そこからおもしろいものが出てきたら、逆に大学や専門学校は何をしているんですか、ということになりますよね。実際にCEDECなどで話をすると「BASICのような基礎言語でプログラミングのおもしろさに触れてもらって、そこから次第にCやC#などに進んでもらうのが一番ですよ」という反応が返ってくるんです。「だったら大手が率先して・・・」と思わなくもないですが(笑)
―――なはは。
徳留: プログラムまでいかずとも、自分がかかわっているゲーム専門学校の学生たちと、ゲームのアイディアの部分で競わせてみたいですね。ゲームづくりの技術を学ぶ一方で、すごく頭が固くなっている学生も少なからずいるので、良い勝負になるかもしれません。
小林: 実際に『プチコン3号』や他の言語などを使って、学校で教えているので、そうしたノウハウや教材なども提供していきたいですね。
―――どういったところで教えられているのですか?
小林: 長野県上田市のマルチメディアセンターの職員に『プチコン』のユーザーがいて、その人の依頼で3年前から毎年、BASICを教えに行っています。小学4年生から高校生まで20人くらいを対象に、朝10時から夕方5時くらいまで、1日だけの特別授業ですね。ほかにもHTML5を使ってスマートフォンで動くアプリ開発の授業を行ったり、社会科見学で弊社を訪れてくれた生徒たちにプログラムの体験をしてもらったり。
―――かなり行われているのですね。実際に教えられてみていかがですか?
小林: プリントを見ながらプログラムを入力してもらうのですが、男女差がけっこう出ておもしろいですね。男の子はすぐに飽きて「ゲームできないんですか」とか言い出します。「だから、そのゲームを君が今、作っているんだよ」と諭したり。女の子は根気強くて、もくもくと「写経」しています。プログラムも速くて、ミスが少ない。男の子は「Y」と「V」を間違えるなどのミスをやりがちです。
大見: 女の子の方が「何か可愛いものを作りたい」といった欲求は高いかもしれませんね。逆にエクセルの関数などは男の子の方がガッと伸びる傾向にあります。
小林: そうそう。何かツールを使いこなす的なことは男の子の方が早いんですよ。逆に女の子の方がゼロからモノを作るには向いているのかもしれない。女の子はこれから狙い目です。
―――それは興味深いですね。
小林: あと女の子って仲の良い者どうしが、たいてい固まって座るんですよね。互いに見せ合ったりするので、一人できる子がいると、そこから同心円状にわーっとクオリティが伝播していくんです。逆に男の子は全然真似しない。良くできる子のデモを見て「すっげー! 次はこれやってみて」とか言って騒いだり。「自分で作れ!」と言いたくなります(笑)
一周回ってプログラムが学校に返ってきた
―――ちなみに小林さんのゲームプログラマー人生は、いつから始まったのですか?
小林: 高校生の頃にカシオのFP-1100を買ったのがきっかけです。当時主流だったPC-8801が高くて買えなくて。FP-1100のBASICはBCD(二進化十進表現)演算ができたのですが、動作速度がすごく遅くて、まともにゲームができなかったんですよ。それで何とか速度を速めたくて、機械語を覚えていきました。

―――当時の王道ですね。それで気がついたら、ゲーム開発者になって、社長にまでなってしまった。
小林: そうなりますね。空気のようにというか。会社でプログラムして、帰宅したら自分でゲームを作って。そういうのをずーっと続けてました。今はなかなかその水準の人を探してもいないんですよ。「モノを作る」ということを楽しむ人が極端に少なくなっているというか・・・。そういうのがちょっとでも広まるといいなと思ってやっています。
―――なるほど。前にもありましたが高校生のころって、ちょっとしたきっかけで大きく変わったりするので、『プチコン3号』の授業が、何か良い刺激になるといいいですね。
大見: ほんとにそこにつきると思います。今はゲーム機にスマートフォンにインターネットと、いろんなものが家庭にありすぎるじゃないですか。僕が新米の頃によく言われたんですが、昔は家に何もなかった。学校に行ったらいろんなものがあって、体験できたから、学校に行くのが楽しかった。でも今はそれが逆転していますよね。だから、全国どこの学校でもできない体験をさせてあげたいなと思っています。うちに来たからこそニンテンドー3DSでプログラミングできるんだと。それで未来の可能性を信じて、羽ばたいていって欲しいですね。
中村: よく多様な授業形態という言葉を使っていて、今までの既成概念にとらわれないアプローチがあっていいと思っています。今回の取り組みにしても、その一つという位置づけです。その上でこれが突破口となって、先生方がいろいろと考えはじめることを期待しています。たとえば数学・国語に興味を持たせるには、どうしたらいいんだろうと。そうした流れを作るきっかけになればいいですね。

大見: そういえば、数学の授業で一人、ニンテンドー3DSを使いたいという動きが出てきたんですよ。「BASICのプログラムを使って、生徒にルートの計算をやらせたい」と、朝からずーっと『プチコン3号』の画面を見ながら、プログラムを打っています。学生の頃にC言語はかじったけど、BASICは初めてだそうで、悪戦苦闘しているので、後で良かったら見にいってやってください。

小林: 行きます行きます。
大見: よかった。実は僕も教えてもらいたいことがあるんですよ。
小林: メールで質問してもらってもいいですし、twitterで質問を投げてもらえれば、いつでも回答しますよ。
徳留: こんなふうに、うちは開発担当者がしっかり動くまでサポートしますから。
―――最後にスマイルブームとしても、今回の取り組みについて意気込みを聞かせてください。
徳留: 泉尾高校には非常に理解の深い校長先生がいて、熱意のある現場の先生がいて、非常に理想的な環境だと感謝しています。でも、たぶん他にもこういった学校はあると思うんですよ。だからこうした取り組みが広がれば、逆に良い刺激になると思うんです。いろんな人や団体、企業を巻き込んで、そうしたうねりを作っていきたいですね。
―――夢は「プチコン甲子園」ですね!
小林: 僕は生まれて初めてプログラムという言葉を知ったのが運動会だったんですよ。1,2,3と番号がふってあって、やることが書いてあって、雨が降ったら順延とか分岐もある。いま『プチコン3号』を高校に導入することで、一周回って元に戻ってきた感じがします。あとBASICって一度覚えたら意外と忘れないようで、お客様の中にも主婦の方がけっこういらっしゃるんですよ。子供たちにBASICを教えていて、質問メールが飛んできて。回答したら「意外と覚えているもんですね」とお礼のメールもきたり。
―――たしかに、若い頃に覚えたことって、なかなか忘れませんよね。
小林: そうなんです。こういったツールが学校に入ることで、10年後にじわじわと効いてくるんじゃないかと思います。せっかくここまで上手くいったので、これからも上手くいくように、子供たちに刺激を与え続けられるようにがんばります。