コラムの最後では、「中年騎士ヤスヒロ」などの人気ゲームを多数手掛ける株式会社PolarisXの代表取締役社長 住田 康洋 氏が、LTVをどのように捉えているかを紹介したいと思います。
1. LTVは「実際」の数字ではない
LTVは「実際」の数字ではなく、あくまで「予測」の数字です。適切に予測するには、ゲームアプリをローンチしてから1カ月間は必要です。その1ヵ月後、なるべく早くLTVを計測することが重要です。ユーザーからの収益の推移はどのような曲線を描いているのか?できる限り早く予測できれば、1カ月間のユーザーの課金が5円/日なのか、または10円/日から徐々に増えて20円/日になっているのか、といった状況を把握でき、それら基づいて素早くマネタイズ戦略を調整できます。
2. LTVへのホリスティック・アプローチ
「ホリスティック」とは「包括的」という意味です。モバイルゲームのユーザーのLTV分析では、アプリ内課金(IAP)、広告収益、ユーザーの紹介を通じた収益など、可能な限りすべての収益を包括的に把握することが望ましいため、ホリスティックというのはぴったりな言葉です。例えば、自社内の他のゲームやサービスへの回遊や今後の新タイトルへの流入が期待できる場合、そういった価値もLTVに換算できることで、1ユーザーの価値をより正確に把握できるようになります。
3. 広告収益を考慮する
ゲームのジャンルによっては広告収益が大きくなることから、LTV分析する際に「アプリ内課金だけを重視するのが一般的である」「広告収益がユーザーグループによって異なる」などを理由に、広告収益を除外する場合があります。しかし、LTV分析では、広告収益を考慮したほうが良いでしょう。データ分析をする際に広告収益を含めないと、広告からの収益が高いユーザーを獲得できている配信媒体・配信面を無視することになるため、実際は広告収益によってLTVが高くでている配信面に対して、その価値分の投資ができていない、機会損失が起きている場合があります。
ちなみに、アプリ内課金は広告掲載によって引き上げることも可能です。たとえば動画リワード広告はゲーム内通貨にいかに価値があるかをユーザーに早く知ってもらうきっかけになり、その後実際にユーザーが課金するようになることがあります。また、広告収益だけで運営するゲームアプリの場合、新規ユーザー獲得にプロモーションの予算を使うことができないという考え方は事実ではありません。ユーザーの持続性が高く、広告収益が十分にある場合のLTVは、新規ユーザー獲得のためにプロモーションの予算を使えるようなレベルだと考えられるはずです。
4. 「成功」の形は様々
日本では、LTVが高いことに注目が集まることが多いですが、ユーザーの獲得コストも含めて考えるとLTVやARPUが低いレンジのゲームにも成長のチャンスは十分にあります。グローバルで成功しているゲームの中には、LTVが100円~200円であっても獲得コストを100円以下に抑えた上で、大きく成長できているゲームが多数あることも事実です。LTVを評価する際にはあらゆる要素を考慮してください。自社のゲームにとって適切なLTVの水準を目指し、それを達成するまでは改善を重ねることが遠回りのように見えますが成功への近道です。
最後に、ゲームデベロッパーのPolarisXの代表取締役社長 住田 康洋 氏からいただいたLTV分析についてのコメントを紹介し、このコラムの結びとさせていただきます。
「PolarisXでは、過去の課金と広告の売上をすべて累計した金額を、ダウンロード数の累計で割ることでLTVを計算しています。直近でダウンロードしたユーザーの将来の売上が含まれていないので、本当のLTVよりは少し低く計算されてしまうのですが、累計のダウンロード数がある程度大きくなってきた後はほぼ安定します。そのLTVよりCPIが低くなることをまずは目安にして、プロモーションの計画を立てています」。
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中年騎士ヤスヒロ
緻密なLTV分析、それを基にしたプロモーション展開が、ヒットを支える要因でしょう。(林 宣多)
緻密なLTV分析、それを基にしたプロモーション展開が、ヒットを支える要因でしょう。(林 宣多)
著者: 林 宣多(はやし・のりかず)
AppLovin日本法人代表取締役。GREE、Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後、米国に拠点を移し、設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。