変化を続けるモバイルゲーム市場、その先にあるもの
――2012年のG-STARの取材で韓国を訪問したのですが、ちょうど韓国のゲームメーカーがPCオンラインゲームからモバイルゲームへと舵を切り始めたタイミングだったと記憶しています。姜さんはそれからの6年の変化をどのように捉えているでしょうか。
姜難しいですね……。日本と韓国の業界をそれぞれ経験した立場でお話すると、ご存知のとおり日本では2008年から2013年くらいまではガラケー(フィーチャーフォン)向けのゲームが大きくシェアを取っていました。一方、韓国ではガラケーのゲームがヒットしたことはなく、スマートフォンも政府の規制によりiPhoneの投入が遅れていました。そのため、韓国のモバイルゲームはガラケーからiPhone 3GSに一気にジャンプし、急成長を遂げたんです。対して日本にはガラケーにおけるゲーム市場があったことにより、成長曲線がやや緩やかだったかなという印象です。
――かつて韓国のゲーム市場といえばオンラインPCゲームというイメージでしたが、やはり現在はモバイルが中心になっているのでしょうか。
姜私は『アイアン・スローン』の開発に集中していたのでつぶさにマーケットを確認していたわけではないのですが、弊社はモバイルに集中することで成長しましたし、ネットマーブル自体もこの5年ほどはモバイルゲームの開発に注力し、世界でも有数のゲーム企業になりました。しかし、PCゲームの文化や市場も成熟していますし、最近はPCのシューターゲームも流行していますから、多様性のある時期に戻ったのかなと思っています。
――多様性というのはゲームのですか?それともプラットフォーム?
姜プラットフォームの多様性ですね。モバイルだけでなく、Steamを通じたPCでのサービス展開をしているメーカーもあれば、VRでコンテンツを開発している企業もあります。
――モバイルやPCだけというところではなく、様々なプラットフォームでコンテンツを展開するようになってきたと。
姜そうですね。実は弊社のゲームもPCのエミュレーターでプレイされている方が結構多いんです。極端な表現にはなりますが、ゲームを遊ぶという意味においてスマートフォンは、CPUを搭載したタッチ操作が可能なデバイスでしかありません。VRなどが広がりつつあり、コンテンツは同一でも、それを楽しむデバイスはPC・モバイルの垣根を越えてより広くなると思っています。
実は4PLATのロゴは、同じコンテンツを1つの箱に収めた形をイメージしてデザインしたんですよ。箱というのはデバイスを意味していて、PCやモバイル、スマートテレビといった、複数のプラットフォームでユーザーが同じコンテンツを楽しむ未来を想像して、こうしたデザインと社名にしました。
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4PLAT、そしてエンターテインメントのこれから
――本作は、まさにグローバルを意識したビジュアルだと思いますが、4PLATの公式サイトには日本のアニメを彷彿とさせるデザインのタイトルもありますよね。
姜弊社は 5年ほど前に『ボーダーブレイク』のモバイル版を韓国でサービスしたこともありましたし、韓国で人気のWeb漫画のIPを活用した日本のアニメ調のゲームも開発しています。日本でも同じですが、韓国も漫画の人気は高く、そうしたIPを利用してモバイルゲームを展開することもありますね。
――今後はそうしたIPを活用したゲーム開発もされるのでしょうか。あるいは別の構想はありますか。
姜 7年前の創業当時から、ストラテジーゲームを作りたいという思いは変わっていません。創業当初は戦闘力で勝敗が決まる簡単なゲームの開発から始まり、次にカードバトル型のゲームをリリースしました。こうした開発経験やデバイスの進化があり、『アイアン・スローン』ではよりリッチなビジュアルと従来のストラテジーゲームの枠に収まらない新しいゲームを開発することができました。どのようなゲームを開発するかということについては、月並みですが、その時の市場の状況でビジネス的にジャッジしていくものだろうと。
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しかし、私の中では「本来、人はゲームの中では戦いたいという欲望がある」と思ってるんです。ただ、今の段階ではこれからではなく、『アイアン・スローン』をしっかり成功させることに注力したいと思います。
――これは個人的な意見なのですが、スマートフォンが世界中に普及してから、地域や文化を超え、世界中で好きなものが似てきているように思うんですね。好きなモノが同じ方向に寄っていくスピードがこれまでにない早さになっていると。その点について姜さんはどのように捉えられていますか。
姜その意見には私も同意します。やはりAppleがiPhoneを発売したことはエンターテインメントにとって非常に重要なターニングポイントだったと思います。例えば日本で販売されているiPhoneと、中国やアメリカで販売されているiPhoneは全く同じデバイスであり、同じOSで動きますよね。つまり地域で制限をかけなければ、全世界全く同じコンテンツを利用できますし、Androidのスマートフォンにも同じことが言えます。こうした環境はもちろん15年前にはなかったので、大きく環境は変わったのではないでしょうか。
――文化の違いや時差があっても同じものを好きになってくれるという意味では、ビジネス的なチャンスも広がっているのではないでしょうか。
姜すごく大きくなっていると思います。設定さえすれば、全世界251地域にサービスを提供することができ、15ヶ国語に対応しておけば、ほとんどの地域の方がプレイできますからね。ゲーム内のチャットはGoogle翻訳のAPIを利用して動かしているのですが、翻訳サービスそのものも成長してより正確になっているので、グローバルサーバの運用も大変楽になりました。相手が何語を話していても瞬時に翻訳できるというのは、ユーザビリティの向上にも繋がりますし、このように様々なサービスを駆使すれば、どんなゲーム会社もグローバルにチャレンジできるわけで、環境的にも技術的にもビジネスチャンスは大きくなっていると感じます。
――ちなみに現在注目している新しいテクノロジーはありますか。
姜本作にも導入しているのですが、ARとAIに注目しています。スマートフォンはGPS機能で位置情報を持てるので、既に先行するゲームはありますが、ARと位置情報の組み合わせで、まだまだ新しい形のゲームを作れるのではないでしょうか。
またAIに関しては、ネットマーブルグループ全体で大きく伸ばそうとしている注力分野です。本作もシングルプレイでは相手がAIなのですが、いかに本物のユーザーと同じレベルの行動をさせられるかをしっかり研究して、作り上げたAIなんです。より人らしくふるまうゲーム内AIを作り上げることで、ユーザーが少ない時間でも、より楽しくゲームをプレイできるようになればいいなと思っています。
――まだまだ成長が見込まれるモバイルゲームの市場ですが、10年後はモバイルに限らずゲームはどう変化していると考えていますか。
姜先ほどもお話ししましたが、4PLATの理念にもあるように、1つのコンテンツを複数のデバイスで楽しめる時代になるだろうと思っています。また、最近「レディ・プレイヤー1」を見たのですが、ゲームのエンターテインメント性がさらに強まり、あの映画の世界観に近づくのかなとも感じました。ゲーム、仮想空間の中で過ごす時間が増え、よりバーチャルな社会でのコミュニケーションが増加していくのではないかなと。ゲームの作り手としては、より楽しい仮想世界を作って、ユーザーの皆様に楽しんでいただきたいですね。まだまだゲームは深化し、進化すると思っています。
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日本の留学経験もあるということで、流暢な日本語でインタビューに対応して頂いた姜氏。ゲーム開発から日本と韓国の分析、はてはゲームとエンタメの未来まで、たっぷりと伺うことができました。
全世界251地域でのリリース、地域別ではなくグローバルのみでのサーバー運用など、ゲーム性のみならず、戦略もチャレンジングな『アイアン・スローン』は、世界のユーザーにどのように受け入れられるのでしょうか。プラットフォームの多様化、ゲームの深化と進化……ゲームを取り巻く環境が大きく変わる中で4PLAT、そしてネットマーブルグループが打つ次なる一手にも注目が集まります。
アイアン・スローン(App Store)
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