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国内最大のゲームカンファレンス「CEDEC2021」が8月24日から26日にかけて開催され、「『組織にいながら、遊ぶように働くには』談義」のセッションが公開されました。
本セッションには「組織にいながら、自由に働く。『仕事の不安が「夢中」に変わる「加減乗除(+-×÷)の法則』」の著者、仲山進也氏を中心に、ゲーム業界における働き方についてを語ったセッションです。
本セッションは「常にゲーム作りを考えている人たちが、なぜ仕事をゲームみたいに夢中になれない環境でなのか?」という素朴な疑問から、「ではゲーミフィケーションで仕事を考えなおせないか?」という、まさにゲーム業界の働き方改革をゲームの考えから行おう! というコロンブスの卵のような内容となりました。
ゲーム作る人がゲームみたいな働き方をするヒントとは
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仲山氏はとてもユニークなキャリアを辿ってきたことが紹介されました。これまでにシャープから、初期の楽天といった企業に所属してきたあとに、サッカーチームのヴィッセル神戸へ非公式お手伝いとして派遣されたりしながら、なぜか兼業自由、勤怠自由の正社員になったり、横浜マリノスとジュニアのコーチとしてプロ契約しまったりという、不思議な経歴の人物です
そんな既存の会社員とは違ったキャリアゆえに、本セッションのテーマとなる「遊ぶように働くとは?」という考えが思い浮かんだのでしょう。仲山氏が本セッションの前置きとして、「自分で夢中になれる状況を作りだせることと、夢中にさせられているだけなのは違う」ことを指摘します。「たまたま条件が整っただけで仕事に夢中になる」ではダメで、その状況を自ら作れることが重要とのこと。
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仲山氏は「ゲーム業界の人が、ゲーミフィケーションという言葉を使っていない」と語ります。主にゲーミフィケーションとは、ゲームデザインの要素やゲームの原則を利用し、物事に応用するやり方をさす言葉です。例えば社会活動などをゲーム的に捉え直すもので、ほとんどはゲームとは無関係の分野で活用するために使われてきました。
ゲーム業界でその言葉を使わないのは、やはり開発するゲームとはまた別の概念のため、との意見も出ましたが、あえて仲山氏は問題提起的にこの考え方を上げています。
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仲山氏は人が仕事に夢中になれるゲーミフィケーションの4条件を提示し、可能性を探ります。何をすべきか明確で、自分がどこにいるのかわかり、アクションに対するフィードバックがあってゴールに達すると報酬がある、とまさにゲーム的な条件をあげているのですが、「これを普段の働き方に当てはめるには?」と仲山氏は質問しました。
質問に対しては「チームが条件を周知していないと不安」など、やはりゲーミフィケーションで仕事をする難しさをにじませる解答がちらほら。基本的にゲームとは、ルールや目標と報酬について参加者全員が周知している前提があって、その下でアクションをすることではじめて成立するものですから、チームで共通認識を作る難しさがあるのでしょう。
スタッフが機嫌よく仕事に取り組める “フロー状態”を目指すには?
仲山氏はここまでを振り返り、「4つの条件を満たしていても楽しく働けていないことは当たり前にある」と指摘します。そこでスタッフの感情の状態についてパラメーターで考えてみる、ということを説明しました。
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たとえばスタッフの感情において、普通の状態を「1.0」として、ちょっとご機嫌な状態が「1.1」、不機嫌な状態が「0.9」みたいに振り分けたとします。
しかし開発は集団でやるものなので、「0.9の状態のスタッフと、いくら上機嫌な1.1のスタッフが掛け合わさって仕事しても能率は下がる。ダークサイドのほうがパワーが強い」ということを指摘。そのため「スタッフが不機嫌にならないようにはどうするか?」を、ゲーミフィケーションの考え方のポイントに挙げました。
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そこでフロー理論を例に、スタッフの感情をポジティブに持っていく方向を考えなおします。これは能力と挑戦のバランスがもっともとれている時、やりがいがあって夢中になれるかを説明する有名な理論を指しています。
フロー理論とは、ゲームが面白くてハマる状態を説明するときでもよくあがる理論であり、今回のセッションではこれを仕事における能力と挑戦の関係に当てはめています。フロー理論をもとに、いかにスタッフが仕事に夢中になるフロー状態のバランスに持っていき、不機嫌にならないようにするかの考え方が「ゲーミフィケーションでゲーム開発をする」ことのポイントに挙げられていました。
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一方で、膨大な仕事に埋没するなかで起こる「燃え尽き症候群」についても言及。これをフロー理論から説明すると、能力以上の挑戦的な仕事に取りかかりすぎることで、消耗しきってしまうことであり、常に能力以上の挑戦課題に晒されることで限界が来てしまうことだと言います。
この話題を受けて「昔のゲーム業界でメンタルが強くないと難しい」という話も出ましたが、常に開発現場の挑戦課題の厳しさにさらされることで、スタッフが辞めてしまうことが多かったのではないか、とも振り返られていました。
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一方、やらされてばかりの仕事では、「楽になることが得」と考えてしまい、能力が上がってもフローではなく退屈ゾーンに居続けてしまうという問題もあります。一例として、能力を高めないと生き残れないと考える人が、勉強会へ参加し続けていても仕事に還元できず、どんどん仕事がつまらなくなってしまう、といったケースも紹介されました。
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このように「不機嫌」になりやすくなるリスクをまとめたケースのあと、逆にフローになりやすい人について紹介。基本的に上手くなりたい性格のひとがそれに当たるそうで、目標を決めて達成するのが好きな人と、まさしく本セッションテーマであるフローゾーンに居続ける事が好きな「仕事を遊ぼう」という人がいると言います
仲山氏は「遊べる人は退屈な時間が嫌。常に夢中になっている遊びの状態に持っていく人」なんだと説明。そういう人は退屈ゾーンに入ったり、不安ゾーンに入ったりした状況に敏感で、その違和感から逃れられるようにチューニングできる人なのだそうです。仲山氏は「人によってはフローに居続けるルートは違う、ちょっと不安なほうがゾクゾクするとか」とも補足しました。
一方で「どのようにフローに持っていけるか」という考えの質問も。仲山氏は「自分で挑戦を見つけられること」を挙げ、セッションでは回答に対して「こうした考えは、エンジニアのように自分で挑戦課題を設定できる人にあるのではないか」という意見も挙がりました。
またゲーム業界では常に新しい体験や、新技術を追う形で開発することもあり、上の図における左のルートのように、挑戦課題が大きく不安ゾーンに近いところで仕事するかたちではないかという意見も。こうしたトークを鑑みるに、ゲーム開発をゲーミフィケーション化するということは、いわば死にゲーやマゾゲーに近い高難度ゲームにフローを感じるような状況が近いようにもうかがえました。
仲山氏は「いちばん1.1のご機嫌になれるのは、成功確率が五分五分のもの」といいます。つまりスタッフ自身がその作業の成功や失敗を自分事として取り組めることがポイントなのだと指摘しました。仲山氏によれば「常時、このフローゾーンにいれるように『ちょっと退屈になってきたから縛りを入れるか』みたいにチューニングができる人が強い」のだそうです。
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こうしたフロー理論を元に、面談などで使えるフロー面談というアイディアも。先のグラフを提示してスタッフがどこにいるかをうかがい、どうするばフローのゾーンに行けるかをうかがっていくものだそうです。面談から上司がアシストできるものなどはなにかを考えられるとのことです。
「自己中心的利他」を目指し、やっている作業自体を目的となるように
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最終的に仲山氏は「自己中心的利他」を目指すことを提案しました。やりたいこと、得意なこと、そして喜ばれることのすべての要素が重なることで「自分がやりたくて得意なことをやっていると、人に喜んでもらえるからもっとやりたくなる」という状態を指しています。こうした状態を目指すために、いろいろな工夫をしていくことが大切とのことです。
ただゲームにおいては長期開発からリリースして、SNSなどで反応を見るように「ひとに喜ばれる」までのフィードバックが遠く、「喜んでもらえるからもっとやりたくなる」という心持ちなるまでには、サイクルが遠すぎる問題も。これをもっとショートスパンで喜ばれる反応はないかに話題が及び、早めのでのフィードバックを得るために、社内で成果物を見てもらい、好反応を引き出すといったプロセスを織り込むことがポイントになるのではないか、などなどの意見が上がりました。
仲山氏はこうした「自己中心的利他」を目指し、フロー状態に入り続けるなかで、最終的には「やっている作業自体が目的になるように、仕事を構成する」ということがポイントであるとまとめました。
ゲーミフィケーションという言葉はかなり以前に話題となり、流行が過ぎ去ったかに思えたワードでしたが、あらためて厳しいゲーム開発のなかでスタッフが調子よく仕事をするためのヒントになり得るのかもしれません。仲山氏は「仕事を面白がっている人を自由にすると、もっと働く」と語り、セッションを終えました。