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「ボーダーランズ」シリーズのスピンオフ作品『ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界』が2022年3月25日に発売されます。それに伴って、オーディオを深掘りするインタビューとして、Gearboxのクリエイティブ・ディレクター Matt Cox氏とオーディオ・ディレクター Mark Petty氏のお2人にお話を伺いました。結論としては非常に濃密かつ、本作がDLCではなくスタンドアロンである理由も垣間見えてくる内容となっております。
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『ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界』:Audio Deep Dive
――今日はよろしくお願いします。
Mark Petty:「タイニー・ティナと“魔法の世界”」ということで、オーディオを扱うにあたってはこれまでのボーダーランズのシリーズ、フランチャイズがありますが、そこからのどういった変化を求めるかといったのが1つのポイントで、そして魔法、ファンタジーというのも今作のポイントでした。
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ボダランはいわゆる“Sci-Fi”といえるような世界であることはご存じだと思いますが、そこからいかに“マジカルでファンタジック”な世界を構築するにはどうしたらいいのかが私たちにとって1番の挑戦でした。
私たちは既存の映画作品などから私たちの意図に合うものはなにかとリサーチしました。そこで「ハリー・ポッター」の世界観がすごくいいなと感じたのです。
――あーなるほど! 納得します!
Mark Petty:そしてそこからですね、分析をしたわけです。なにが魔法、ファンタジーを醸し出すのか、特定のキーワードがそこにはあると。そしてそれはときにささやくように伝えていく、そういった手法を見いだしました。
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もう一つの特徴としてはいわゆるシンセサイズされた音(※注:機械的に加工された音)ではなく、自然界に、実生活に存在する有機的な音です。
――サウンドスケープのような?(※注:音の風景のようなBGM)
Mark Petty:いまサウンドスケープと表現してくださいましたが、たとえばハリポタのなかで魔法がかけられる、それに対して効果音が鳴りますが、そのときに聴く音が合成された音ではなく、私たちの実生活のどこかで聴くような音、地に足の着いた音、有機的な音と感じます。
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そのような有機的な音を、私たちの世界観のなかでどんな風に作り出せるのか考えました。電気を使ったとき、電気のなんらかの音とか、高圧の水をフェンスに放水したときに出る音、それから凍らせたものを破壊するときのクラック音、など場面ごとに鳴りえる効果音をリストアップしていきました。
もともとあるシンセサイズされた音と、リアルな音を融合させることによって、そのサウンドを聴くプレイヤーの皆さんはどこか“音のなかに知っている音がある”と感じることができる。そんな表現を目指していきました。ハリポタを見た人は親近感を持つだろうし、そうでない人も身近な音が感じられるでしょう。
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――『ボーダーランズ2』DLC第四弾「タイニーティナとドラゴンの城塞」のときとはまったく異なったサウンドアプローチ、ということでよろしいでしょうか。
Mark Petty:その通りです。あとで細かく語りますが、第1の答えとしましては『ボーダーランズ2』は“Sci-Fi”かつハードエッジです。スナッピーというか。それに対して『ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界』の方は音として丸みがあるというか。
――あたたかみのような。
Mark Petty:全体的にかどかどしていない、包み込むようなものがあります。それは銃火器に対しても当てはまります。
――銃火器に対しても当てはまるというのは驚きですね。
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Mark Petty:やはりボダランで持っていた“音のパレット”をいったんナシにして、まったく新しい音の要素も入れながら作り直しました。
――DLCではなくスタンドアロン作品であることの情熱を感じますね。
Mark Petty:ありがとうございます。オーディオに対する考えとしては、音程は一緒で、メロディがあってビートがある。ボーダーランズそもそものものもある。それは念頭に置くのですが、やはり音が変わることで人の潜在意識に語りかけるような効果は必ずありますので、結果としてどういった世界観ができるかということを考えながら作るという作業でした。
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――サウンドっていうのはずうっと聞き続けるわけですからね、重要度が違いますよね。
Mark Petty:おっしゃるように音楽の影響という意味ではボダランシリーズに関してはカオス感が強くて、電子的な音やビートなどが強かったです。それに対して『ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界』では環境音がもっとやわらかく少し丸みがあって、その試みによってその世界にいるときに魔法やファンタジーが相応しいようにしました。
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なにかゲームの音が頭に残る経験があると思いますが、それに通じるものとして私たちが特に気を遣った音作りはオーバーワールドのRPG的な印象に残る音であってほしいと考えました。
――インタラクティブミュージック(※注:音楽が自然に推移する技法)の技術はふんだんに使われているのでしょうか。
Mark Petty:おっしゃるとおりです。インタラクティブミュージック、つまりプレイヤーがどんな状態にいるのかというのが、音楽からもしっかり表現されています。たとえば戦闘シーンで音が3段階に分かれていて、入っていく段階と中程の段階と、非常に激しい戦闘にいたる段階とに分かれています。そしてその間、音楽の種類が変わっていく。そしてそれはパーカッションであったり音楽のトーンであったり、そういったものが足されたり引かれたりしながらいまの状態を表しています。
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1つの流れのなかで作るのではなく、音楽のいろいろなパートやセクション、“ステム”といった呼び方をするのですが、そういったものを使いながら音的にもしっかりとした世界観として各場面を作っています。(※注:ステムとは音楽のセクションをまとめたパーツとしての音源)
――今回、音楽にも耳を傾けながらプレイしてみたいと思います。自然界の音というのがとても興味深くて。
Mark Petty:ありがとうございます。実際には自然界にあるような有機的な音はほかの種類の音と融合されて世界観を作っているので、もしかすると単独でピックアップするのが難しいかもしれませんが、作り手の意図としては総合的に融合されたものを聞くと暖かみややわらかさや人間味などを感じ取れるのを意図して作りました。
――事前に『ボーダーランズ3』をプレイし直して『ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界』に挑みたいと思いました(笑)
Mark Petty:とてもいいプランだと思います(笑)
――今回もまたたくさんの“オレンジ色”に出会えることを楽しみにしています。
Matt Cox:はいフルサポートですのでたくさん手にしていただければと思います(笑)。そのほかにはご質問はありますか?
――これまでに使ったことのない楽器を用いたという例はありますか。
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Mark Petty:今回Joshというコンポーザーの方がハンドドラム、“タブラ”をインドのメンターさんについてもらって使いました。
――独特の低音がなるパーカッションですね。(※注:「U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS / BUNKA」という楽曲を聴くとわかりやすいです。)
Mark Petty:アコースティックギターに関しても、前に使ったことはありますが今回の方が存在感があると思います。
――今回トレイラーをみたときに流れていた楽曲がケルト調だったのですが今回初めての試みでしょうか?
Matt Cox:トレイラーの方はトレイラー単体の数分の間で視聴者の意識をとらえることが重要ですので、トレイラー向きのものとして作っています。ゲーム本体とは必ずしも同じ方向ではないです。
――ところで皆さんの背景にギターが置かれているのが映っているので僕のギターもみてほしいんですが(突然赤いギターを取り出す)
Mark Petty:ハハハ、どこのものですか?(笑)
――日本の、ドメスティックなギターメーカーのもので「TOKAI TALBO」といいます(笑)ボディがアルミニウムでできているんですよ!
Mark Petty:素敵なものをみせてもらいました(笑)
――こちらこそ素敵なお話をありがとうございました!
貴重なお時間をいただいてかなり芯を食ったオーディオのお話ができたように思います。なによりインタラクティブミュージックの概念は、海外ではだいぶ当たり前のものになっている手応えが得られてよかったです。本作はDLC規模ではないというのもうなずけるかと思いました。また本作のプレイで読者のみなさまと再会できれば嬉しいです。それではみなさま、でぃーぷ・げーむおーでぃお・だいぶ!
あーんど! 付録です! 実際にお目にかけた「TOKAI TALBO」はこちらとなっております。筆者はSHINJI-coo-K(シンジ・クー・ケー)名義でヒップホップビートメイカー業を営んでおりそのために用いております。
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タイトル:『ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界』
発売予定日時:2022年3月25日(金)
対応機種:PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X/S/Microsoft Windows