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8~16ビット時代の家庭用ゲーム機人気に便乗して登場した非公認および海賊版の「互換機」。本物そっくりのものから独自の進化を遂げたものまで、これまで様々な互換機が登場してきましたが、そんな互換機の情報を世界から集約したデータベースサイト「Unauthorizon(アノウソライゾン)」がオープンしました。
9,000台以上の有名無名の珍品が掲載
本サイトではアタリ、ファミコン、メガドライブ、スーパーファミコン、ゲームボーイなど、レトロなゲーム機を対象とした9,000台以上の互換機情報を取り扱っており(不特定多数のゲーム機をエミュレータで再現する機種は対象外)、それぞれの販売地域や搭載機能、外観の写真などが掲載されています。
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互換機もゲーム史の一部
何故このようなサイトが作られたのか、制作者であるゲーム音楽史/ゲーム史研究家、田中治久(hally)氏よりコメントを頂けたのでご紹介します。
――制作のきっかけはなんでしょうか。
田中治久氏(以下、田中): 私は2000年代初頭から、チップチューンと呼ばれる音楽文化の情報発信に尽力してきました(主著に『チップチューンのすべて』(2017, 誠文堂新光社)があります)。
そのなかでファミコンやメガドライブの音楽が、正規販売された地域以外でも幅広く親しまれていることに気付きました。特に中国、中東、中南米、ロシアでの人気が高く、どうしてそうなったのかを調べてみて、非公認ファミコン互換機の存在を知ることになります(2002~2003年頃)。
当時日本では一部の好事家の間でネタ的に消費される存在でしかなかったファミコン互換機ですが、よくよく調査してみるとその世界市場は正規品に勝るとも劣らないほど大規模であり、正規流通していない地域(一部アフリカを除く世界中のほとんど)でも「スーパーマリオブラザーズ」「魂斗羅」「バトルシティ」など多くのファミコンゲームが大きな影響を及ぼしているほどでした。
現在ではこうした互換機で育った世代が大人になって情報発信する側になっています。たとえば今日8ビット~16ビット機をルーツとする高水準なインディゲームが南米やロシアなどからも多く生まれているわけですが、ファミコンやメガドライブをひとつの文化として捉えると、その視座はあまりにも日米に寄りすぎていて、こうした周辺世界への影響をうまく説明できてません。
そうしたことから、互換機市場の歴史を保存することは単なる好事家の領域を超え、まっとうなビデオゲーム史研究としての価値を帯びつつあると思うようになりました。もちろんこうした研究を始めたのは私が初めてではなく、2000年代半ばから有志による研究の積み重ねは地道に行われています。
しかしもともと海賊版から始まった市場ゆえに信頼できる資料が乏しく、推測に推測を重ねながらの研究が主体となっていました。そのなかで私は、きわめて信頼性の高い資料が意外なところに未着手で眠っていることに気づきました(2018年頃)。たとえば台湾の新聞アーカイブ、政府機関のデータベース、その他世界各国の知的財産権アーカイブなどです。
そこから膨大な情報が得られたため、これらを整理する必要が生まれ、そこからデータべースの構築に至ります。最初は私的な利用を目的とした小規模なものでしたが、約1年半前に公開を視野に入れて再構築しはじめ、現在に至ります。
――こちらは一人で制作されたのでしょうか。
田中: 共同運営者や情報提供者に頼ったところもありますが、95%は独力で作っています。
――制作にかかった期間を教えてください。
田中: 私的データベース期も含めれば約4年、公開を視野に入れた形では約1年半となります。
――制作にあたり最も大変だったことを教えてください。
田中: あらゆる言語圏のデータベースやマーケットプレイスをくまなく調査し、各市場に分布する製品の共通項をまとめていくこと。データベース中の「Mimicry」「Form Factor」という項目にその努力が集約されています。
――今後の展開予定などあれば教えてください。
田中: 本格的なデータベースを構築したことで、それまで定性的にしかできなかった研究(たとえばどの国でどういった互換機がどの程度流通したかなど)について、定量的な研究ができるようになりました。UnauthorizonのコラムやBlogなどで、そうした定量的データから得られるさまざまな知見を発表していく予定です。たとえば日本が世界有数の互換機大国であることなど、興味深い事実をいろいろとお伝えしていきます。
なお、「Unauthorizon」のサービスを維持するには最低でも月に60ドルの費用がかかるとのことで、Patreonにて資金援助を受け付けています。