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米国オラクル・コーポレーションの日本法人である日本オラクルは、情報システム構築のためのソフトウェア/ハードウェア製品とソリューション、コンサルティング、教育など幅広い事業を展開しています。
近年はクラウドサービスの「Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)」が存在感を増し続けており、映像業界やゲーム業界での導入事例が後を断ちません。ゲーム企業にとって、OCIは何が魅力的なのか? 同社エグゼクティブ アーキテクト クラウド事業統括部門 / 戦略ソリューション統括の廣瀬一海氏にうかがいました。
後発サービスならではの圧倒的コストパフォーマンス
――日本オラクルの事業紹介と、自己紹介をお願いします。
廣瀬一海氏(以下、廣瀬)日本オラクルは「Oracle Databaseを始めとするデータベース管理システムや業界向けのソフトウェアを提供する企業」というイメージをお持ちの方が多いのではと思います。
それはもちろん間違いではありませんが、今はクラウドを介してIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)などのソリューションを提供するクラウド事業も主軸のひとつとなっています。これらに産業向けのSaaSソリューションを加えた三つが、現在の日本オラクルの軸となっています。
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私は2000年頃からネットワークエンジニアとして、ネット向けサーバーシステムの設計や無停止設計、分散設計などに携わってきました。ゲーム業界で例えるなら、インフラエンジニアというところでしょうか。2023年10月から現職に就き、戦略的な案件に関わらせていただいています。
――日本オラクルには三つの軸があるとのことですが、今回はクラウドについておうかがいします。御社のクラウドサービスであるOCIは、ゲーム業界の企業が活用する際にどのような点が強みとなるのでしょうか。
廣瀬ひと言でいうと「圧倒的なコストパフォーマンスの高さ」です。クラウドサービスはハイパースケーラー(100万台規模のサーバーリソースを保有する企業・サービスの総称)と呼ばれるAmazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platformが著名ですが、2016年に提供を開始したOCIは後発であり、最新のテクノロジを用いたクラウドサービスです。
クラウドサービスは減価償却期間を5年程度に見積もる事例が多く、データセンターのテクノロジは10年もあれば大体が刷新されますので、ハイパースケーラーに対するOCIは「第2世代のクラウド」とも言えると思います。
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――先日GameBusiness.jpが主催したオフラインイベント「人気シリーズはなぜ愛され続ける?『スト6』プロデューサーが語る開発哲学」におけるセッションでは、マイネットがOCIを導入したところ、多くのスマホ用ライブサービスゲームのクラウド費用が平均して約70%削減されたという話が紹介されました。これほどまでのコストパフォーマンスを実現できる理由をお聞かせください。
廣瀬この10年ほどで、クラウドサービスに関わるさまざまなテクノロジーが目覚ましい進歩を遂げましたが、なかでも特に影響が大きかったのはストレージや電源の小型化です。一般の方にとっても、従来のHDDに置き換わるものとしてSSDが登場したことで省スペース化が実現したことを想像していただくとわかりやすいかと思います。そんな風に、以前と比べて設備が小型化したばかりでなく、消費電力も劇的に少なくなりました。必要な床面積が小さくなれば場所代も少なく済みますし、消費電力が抑えられるなら電気代も安く上がります。
さらに、OCIは仮想マシンだけでなくベア・メタルマシンやGPU搭載マシンも提供していますので、使用しないときは容易に停止させられます。停止させればもちろん、その分の電気代がさらに節約できます。
理由はこれだけに限りませんが、そうして浮いた諸々のコストをクライアントの皆様にそのまま還元する――それがOCIの安さの理由です。
――マイネットのようなOCI導入企業がコストを大幅削減できる理由がよく分かりました。同社の他にもゲーム業界での導入事例が増えてきていますが、どのような経緯でアプローチされたのでしょうか。
廣瀬実は「Oracleのサービスをゲームで活用できないだろうか」というお問い合わせをいただいたのがきっかけのひとつなんです。私たちに、ゲーム業界でも導入してもらえるようなパフォーマンスを出せているのだという気づきを与えてくれるのと同時に大きな励みとなり、それを機に導入事例も増え始めました。
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性能にも自信アリ。生成AI領域での導入事例も増加の一途
――ゲーム開発環境にクラウドサービスを導入する際は、性能面も判断材料になるかと思いますが、そうした面における強みもお聞かせください。
廣瀬OCIでは、さまざまなサービス品質保証(SLA:Service Level Agreement)を設定しています。稼働時間や接続性を保証する可用性SLA、リソースの管理・監視・変更機能を保証する管理性SLA、一貫した性能を保証するパフォーマンスSLAをご提供しており、パフォーマンスに関するSLAがあるのは、私たちの自信の現れでもあります。
――OCIがその強みを特に発揮しそうな技術や領域はどこにあるとお考えでしょうか。
廣瀬やはりAIですね。ゲームにおけるNPCの応答をAIに考えさせることで「定型文が返ってくるのではないバリエーション豊かな会話を実現させる」というのは、やはりワクワクしますよね。
とはいえ、「AIに問題発言をさせない」というような倫理的観点などから、応答をすべてAI任せにするのではなく、ある程度のコントロールは必須になると思います。
OCIのAutonomous DatabaseサービスやMySQL HeatWaveでは生成AIモデルをDBに格納することができるので、プレイヤーに返すべきメッセージの一覧を用意してフィルターで適宜絞り込みを行いつつ、一定の範囲内でメッセージの細部を自由に脚色して応答させることができるのではないか……と考えています。
また、AIというと、AIを活用したNPC制作プラットフォームを開発するスタートアップ、Inworld AIさんにもOCIを導入していただいています。採用の決め手となったのはコストとパフォーマンス(性能)であるとうかがっています。
――すでにAI関連での導入事例もあるのですね。
廣瀬OpenAIさんにも導入していただいており、現時点で、世界中の生成AI事業のかなりの部分で採用していただいているといっても過言ではないと思います。
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専用線をつなげば大容量のデータやアセットを固定料金で出し入れ可能
――ゲーム業界以外にも、クリエイティブな制作環境への導入事例があればお聞かせください。
廣瀬「パラサイト 半地下の家族」を手掛けた韓国の映像プロダクション DEXTER STUDIOさんはVFXの制作にピクサー・アニメーション・スタジオの「RenderMan」を採用しており、クラウドベースのレンダーファームとしてOCIを導入していただきました。
高負荷な映像を短い納期で仕上げなければならなかったようで、コスト面以外にも「ローカルのレンダーファームでは納期に間に合わなかった」とコメントを寄せてくれています。
ゲーム業界でも、同じようなことはあるかと思います。ビルドを作成するために大量のアセットを投入したら、総容量が1PB(ペタバイト/約1,000TB)にもなってしまったという話を耳にしたことがあります。
DEXTER STUDIOさんはそうした大容量レンダリングの時間を大幅に短縮し、クラウドにかけるコストを従来の1/30に圧縮できました。コスト面はもちろん「間に合わないかもしれない」と焦燥感を抱えずに済むことでクリエイティブによりフォーカスできるメリットもあると思います。
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もう一点コストカットに関するお話をしますと、通常のクラウドストレージサービスは「クラウドへのアップロードは無料だけど、クラウドからのダウンロードには転送料金が発生する」ことがほとんどです。
しかし、OCIは専用線をつないでいただければ月額の固定料金となり、どれだけ大容量のデータを出し入れしても転送量による追加料金が発生しません。これもまたコストを削減しつつ、クリエイターや開発者をクリエイティブに集中させるファクターになっていると思います。
――コストを大きく削減できるということは、ゲーム業界の中小企業や、インディーゲームを制作する小規模デベロッパーにも導入するメリットがあるという認識でよいでしょうか。
廣瀬その通りです。OCIでは高いコストパフォーマンスを持つAmpere Armコンピュートを提供していますが、コアは1コアから156コアまで、メモリは1GBから64GBまでというように、コアとメモリとストレージを別々に設定できる柔軟性も大きな魅力です。
インディーゲームを開発される方たちは「メモリは16GBほしいけど、2コアで十分」、「コアはたくさんほしいけど、メモリは抑えたい」など、細やかな運用をしたい場合もあるかと思います。そうしたニーズにも余すことなく対応できます。
加えて、ゲームの運用ではクラウドからインターネットへのアウトバウンド通信が、結構な負担になってきます。こちらも毎月10TBまで無料ですから予算を心配すること無く配信してもらえると思います。
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インメモリー型分散データベースでユーザーデータの分析処理を簡易化
――モバイルゲームで特に顕著ですが、長期運営を念頭に置いたライブサービスゲームではプレイデータの収集・分析を行って開発やマーケティングに反映するプロセスも重要です。OCIは、データ分析の領域ではどのような強みを持っていますか。
廣瀬メインDBにMySQLを採用し、分析する際には、別のデータ分析環境とすることが多いと思います。OCIではインメモリー型で動作する分散並列データベースのMySQL HeatWaveを提供しており、MySQLの使い勝手そのままで、超高速なデータ分析を行えますので、活用してもらえればと思います。
まさにこういった形で導入していただいたジニアス・ソノリティさんからは「あらゆる角度からの分析を開発者以外も行えるようになり、桁違いに速くなった」とのお言葉をいただいています。
また、ゲーム企業ではオリジナルのダッシュボードを作成しておられる方が多いように見受けられますが、Oracle Analytics Cloudによるダッシュボード作成機能があるほか、収集したデータを読み取って最適な形のグラフを提案してくれる機能もありますので、こちらも合わせて活用すればより一層時短に寄与できるかと思います。
今後は、AI機能強化として、チャットを通じてデータに合わせたグラフの見せ方を相談できる機能も実装する予定です。分析はとても大切ですが、OCIにある程度の部分を任せることで開発者のみなさんが一層ゲーム制作に集中できる環境を実現したいですね。
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金融や医療業界で支持された「堅牢であることが大前提」のセキュリティ機能
――ライブサービスゲームでは、ボットや不正ログインなどへの対策も重要です。OCIのセキュリティ機能についてもお聞かせください。
廣瀬まずお伝えしたいのは「OCIのセキュリティ機能は大半が標準機能が無償である」ということです。オラクルは米国政府のほか防衛、金融、医療業界などをクライアントに持ち、基幹業務などのシビアなシステムも提供する企業です。よって、守るための「強固なセキュリティ機能は最初からあって当然」という発想なのです。追加のオプション料金はほとんど発生しません。私も、入社して初めてこのことを知ったときは驚きました(笑)。
ライブサービスゲームでは、コンテナ技術を用いて展開する為、頻繁にコンテナイメージのマルウェアスキャンを行って、セキュアであることを確認してからゲーム配信のホストとして用いる事例が多いかと思いますが、こうしたスキャン機能も無償です。
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開発中でもビルドを実行する前にスキャンすると思いますが、それももちろん無償です。データベース周りのセキュリティ機能も標準で織り込まれていますので、あとから追加する手間や費用とも無縁です。堅牢なだけでなく、費用対効果もかなり高いのではと思います。
――ありがとうございます。最後に、ゲーム業界へ向けてメッセージをお願いします。
廣瀬規模が大きいゲームの開発は年々長期化する傾向にあり、開発に5年以上の期間を要するようなタイトルも増えていると聞きます。また、リリース後も長期運営を見込んでいるタイトルもあるかと思います。インフラ部分のコストを圧縮できれば長期運営をよりしやすくなりますので、ぜひ日本オラクルにお声がけください。
企画やプロトタイプ制作のようなプリプロダクションのフェーズでのお声がけも歓迎します。弊社には優秀なアーキテクトやコンサルティングチームが在籍していますので「ネットワークやAIを活用したこんな機能は実現可能だろうか」というようなテクニカルなご相談にも柔軟に対応できます。私自身ゲームファンの1人ですので、そういった段階から伴走させていただけたらとても光栄ですし、やりがいも一層強く感じます。
日本オラクルはこれまでゲーム業界と離れた領域にいた会社ですが、ゲームの開発や運用とも相性はよいと考えています。ぜひ、ご一緒に勉強させてもらえればと思います。
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