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ゲーム実況。今やこのジャンルは数多くの名配信者を輩出していますが、15年ほど前までは「グレーなジャンル」でした。
メーカーの許可なくそのゲームの映像を配信する行為は、著作権侵害で訴えられる可能性があったのです。厳密に言えば今でもそのような可能性がありますが、「ネタバレがゲームに致命的な影響を与える」ということがない限りメーカーは個人のネット配信を事実上認めています。
そのような歴史の流れを生み出したゲーム実況者、株式会社スタジオNGC代表の「えどさん”」こと江戸清仁氏と、ゲーム実況研究家の中田朋成氏がCEDEC 2023にて「この1時間でゲーム実況業界の全てがわかる!?ゲーム実況の過去・現在・未来【2023年版】~大きいコミュニティと小さいコミュニティを作り分けろ!」という講演を開催しました。
◆かつてのゲーム実況は「グレーな行為」
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講演の冒頭、中田氏は「ゲーム実況の歴史」として4つの転換点を振り返ります。
「書く実況」から「喋る実況」へ
『ゲームセンターCX』の登場
実況者人気の有効利用
「プロ」の誕生
かつての「ゲーム実況」といえば、視聴者がコメントを書き込む一方の動画でした。そこから配信者が喋るスタイルのゲーム実況が受け入れられるようになります。
「ゲーム実況黎明期に『ゲームセンターCX』という番組があったことはすごく大きかったと思います。これにより、ゲーム実況は“配信者のゲームの腕前を問わない”ということが明らかになりました」(中田氏)
『ゲームセンターCX』の有野課長の腕前は、決してプロ並みとは言えません。しかし、それが良い方向に作用して「ゲームプレイの技能が実況配信にとって致命的な要素にはならない」ということが証明されました。
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しかし、ゲーム実況黎明期は冒頭に書いた通り「グレーな行為」でもありました。そのような状況が徐々に変わっていったのは、実況者が人気者として頭角を現すようになったからと言えます。さらに、そこからプロフェッショナルの実況者も登場し、ゲーム実況自体が「食べていける職業」になっていきます。
◆「適時適法」の時代へ
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この4つの転換点を経て、今度は動画配信サービスがゲーム実況動画に対する収益システムを整備するようになります。
同時に、ゲームメーカーもゲーム実況動画についてのガイドラインを確立させました。このガイドラインに記載されている収益化システムを利用しても構わないですよ、ということがはっきり提示されるようになったのです。
「それまではゲームメーカーから直接案件をもらってギャラを得る、ということでしか収益は望めませんでした。収益化システムがあれば、案件がなくとも人気さえあればゲーム実況者として生計を立てることができます」(中田氏)
こうした流れから、ゲーム実況は「ほぼ違法」の時代から「適時適法」の時代へと突入していきます。
「“適時適法”と僕が呼んでいるのは、全てのタイトルがゲーム実況を認めているわけではないからです。当然、それを認めないタイトルも存在します」(中田氏)
◆無断作成の「切り抜き動画」も登場
さらに近年では、eスポーツの拡大と共に「esportsキャスター」の存在も必要とされ、またVTuberの参入という流れも発生しています。
「VTuberのすごいところは“横のつながり”が大きいところです。ひとつのゲームに対して同じ事務所の複数のVTuberがコラボをしたりします。僕はこれを“ファミリー化”と勝手に呼んでいますが」(中田氏)
こうしてゲーム実況分野は多様化の一途を遂げるのですが、中には大問題になり得る動画を配信してしまう人も。そのひとつが「切り抜き動画」です。
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「長時間のゲーム実況動画を、配信者ではない人が編集して新たにアーカイブ動画を作る行為がYouTubeを中心に浸透しています。この切り抜き動画で時々あるのが、元の実況動画にはなかったシーンを勝手にサムネイルにしてしまう例です」(中田氏)
これはもちろん、配信者の権利に抵触する行為です。切り抜き動画を編集する人と元の配信者が共通の意図や方向性を共有しているとは限らないため、予期せぬトラブルが発生する可能性も。
◆ゲーム実況の歴史を歩んだ「えどさん”」
さて、この講演に登壇した「えどさん”」こと江戸清仁氏といえば、「世界初のゲームメーカー公認実況者」として知られています。
講演ではスタジオNGCのこれまでの歩みも紹介されましたが、それはまさに「ゲーム実況分野確立の歴史」でもあります。
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上のスライドからさらに要点を抜粋すると、2007年にゲーム実況者としての活動を開始し、2008年にプロ活動を始めます。2010年にニコニコチャンネルを開設、2011年にユーザーと共に遊ぶ番組作りを開始、2012年には誰でも公認でゲーム実況できる仕組みを作成します。
「ニコニコ動画のタグ“×NGC”を用いることで、我々がメーカーから許可されているタイトルを誰でも実況できるよ、グレーではないですよという仕組みを実行しました」(江戸氏)
此度の講演では、その全てを記事には書き切れないほど「ゲーム実況の成り立ち」についての説明が行われました。
ゲーム実況が「誰でも配信できるジャンル」になってから、まだ10年程度しか経っていません。だからこそ、有名実況者の「それまでの振り返り」を知ることで今後への大きなヒントを掴むことができます。