
憧れの声優の声をAIで生成し、それをゲームやアニメ作品で利用する。
少し前なら、これはSFの中の出来事でした。しかしAIの進化で特定の人物の声をそのままコピーすることが可能になり、さらにその人物が話したことのない言葉をしゃべらせるということも可能になっています。
有名声優の声で新しいセリフを生成し、それを利用した場合は法に触れてしまうのか?
これは声優の「パブリシティ権」に関わる問題ですが、CEDEC 2023で催された講演「コンピューターエンターテインメント領域における生成AIの利用と法律・知財・契約」の中で詳しく解説されました。登壇者はSTORIA法律事務所パートナー弁護士の柿沼太一氏です。
AIで「有名声優の声」を作れるか?

生成AIを使って制作した画像や音声を作品に利用する際、もしくは既存の作品を学習用データに組み込む際、その行為は著作権侵害になってしまうのか?
これは現代のクリエイターの悩み事と言える問題です。本講演での説明は非常に多岐に渡り、また様々な想定される例を細かく区分けして解説されているため、今回の記事では「パブリシティ権」に絞って筆を進めたいと思います。
パブリシティ権とは、有名人の氏名や肖像等に生じる顧客吸引力を中心とする経済的権利。顔写真などはまさに好例ですが、もしもこのパブリシティ権に接触するような作品をAIが生成してしまったら……?
・様々なゲーム内の、様々な声優による音声を大量に収集し、音声生成用AIを作成した。無断でそれらの声優音声データを収集してAIの生成(学習)に利用することは可能か
・ある特定の声優の音声を再現するために、当該声優の音声を大量に収集し、音声生成用AIを作成したい。無断でそれらの声優音声データを収集してAIの生成(学習)に利用することは可能か
・作成した音声生成用AIを利用して、①特定のゲーム内の特定の声優による特定のセリフ音声と同じ音声を生成すること、または②特定の声優による、それまでに実演されたことのないオリジナルセリフ音声を生成することは可能か。
講演内では上の3点が提起されましたが、それこそ10年ほど前までは想定すらできない現象です。特に「特定の声優による、それまでに実演されたことのないオリジナルセリフ音声を生成することは可能か」という部分は筆者としても非常に気になるところ。
セリフの著作権は誰に?
まず、「セリフの著作権は誰にあるのか?」という話から始まります。
声優XによるセリフAの実演の場合、

セリフA→セリフAの著作権
X実演A→声優Xの著作隣接権
声X→Xの声に関するパブリシティ権
と、細分化することができます。
セリフの著作権は、そのセリフを作成した脚本家等に生じます。そして声優XがセリフAを演じたことに関する著作隣接権は、実演家としての声優Xに生じます。
この記事で大きく取り上げるパブリシティ権は、上の例であればもちろん声優に生じます。
「このパブリシティ権というものは、法律上の権利ではなく判例で認められた権利です。どういう判例かというと、かつてピンク・レディー事件というものがありました」
パブリシティ権を確立させた「ピンク・レディー事件」
最高裁平成24年2月2日判決であるピンク・レディー事件の判決は、とある週刊誌がピンク・レディーのお二人の写真を無許可で取り上げたことに端を発します。