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9月21日~22日に開催された「東京ゲームショウ2023」のビジネスデイでは、業界関係者のBtoB向けセミナーである「TGSフォーラム」が実施されました。本イベントは開発やマーケティングに関するセッションを多数用意しており、知見を共有していくことを目的としています。
そんなTGSフォーラムにて、人気SNSであるX(旧Twitter)を利用したコンテンツの集客戦略を語った講演「The Future of Gaming on X」が行われました。本講演にはTwitter Japan社よりClient Solutions ゲーム業界担当部長である中村優氏と、ルーデルのソーシャルゲーム事業本部データサイエンス部 部長である吉永辰哉氏が登壇。Xを利用した集客の経験を元にした、具体的な手法について明らかにしました。
TwitterはXに改名したとはいえ、存在感はいまだに大きい
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まず本講演の前提として、X自体の運営状況について言及されました。10年以上に渡って運営されてきたTwitterが昨年2022年にイーロン・マスク氏に買収されて以来、その運営方針に関して賛否が分かれていました。それが今年、Xに改名するという急激な変更によって、各所から大きな批判が巻き起こっています。多くのユーザーにとって、本サービスに翳りが差したという印象は大きいでしょう。
ところが中村氏の説明によれば、数字の上では決して斜陽にはなっていないのだといいます。Xの利用者の滞在時間は過去最高水準を記録しており、ユーザーも増加している傾向にあると中村氏は説明。依然として、クリエイターやコンテンツを広め、経済活動のハブとなるSNSとしての存在感は大きいのです。
中村氏によれば、そもそもTwitterをXと改名したのも、イーロン・マスク氏の「このSNSを元に、電話から電子決済、求人募集などすべての活動が可能なスーパーアプリを作りたい」という狙いを達成するべく、これまでのイメージを払拭することが目的だった、とのことです。
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Xがコンテンツの集客や成長において非常に有効であることの説明として、中村氏は「ユーザー同士が興味関心で繋がれる、唯一無二のプラットフォーム」であり、「ユーザー同士がコンテンツの感想を話し合いながらコミュニティを形成していく」という点を挙げています。
そして数あるコンテンツのなかで、もっともXで話題に挙がるのがゲームだそう。特に日本ではゲームトピックは1位になるほどで、K-POPなど、他の人気コンテンツと比較してもかなり話題にしているのです。ゲームファンが日々、情報収集に使っているのもXであり、生活の一部としていつも情報収集をしていることが背景にあります。
このようにXは「ユーザーの興味で繋がるメディア」ゆえに、ユーザー同士がコミュニティを作り、コンテンツの話題を続けてくれることが特徴となります。そのため、ゲームの運営側もユーザーがコミュニティを作りやすくするように情報を発信することがポイントとなります。
マーケティングにおけるXの価値
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続いて中村氏は、ゲームのマーケティングにおけるXの強みを解説。主に本講演で取り上げられたのは、ソーシャルゲームをはじめとした運営型ゲームに絞られています。
大まかにまとめると「圧倒的なユーザーにリーチし認知される力」、「コンテンツの投稿キャンペーンなど、ユーザーの興味関心を醸成できる比較検討」、「コンテンツの利用や購入を最大限に強められる力」、そして「コンテンツがユーザーに楽しまれる声がシェアされることで、他のユーザーがコンテンツに対する態度を変える後押しになること」が挙げられています。
こうしたXの強みをもとに、コンテンツをローンチする段階で抑えるべきタイミングとして重要なポイントについても解説されました。
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まずインサイト分析によって、オーディエンスの欲しがっているものを発見します。その後、事前登録期にはXで話題を集めてコンテンツの認知度を高めていくことで、反応が見られたユーザー層をターゲットに設定。そしてローンチ時にはブランドメッセージを送るなどして認知度を高め、話題に火をつけることが重要となります。ローンチ後も運営側がユーザーにメッセージを発信し続けることで、話題を維持していくことも大事です。
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中村氏は、このようなマーケティングのプロセスにおいて、やはり広告を打つプラットフォームとして有効なのはXだと主張します。コンテンツの認知、そして検討、ローンチ後のゲームプレイいずれもXの効果が大きいという結果が出ているとのことでした。
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特にXにおける効果を最大化するために必要なこととして「ユーザーがコンテンツについてポストすること」が挙げられており、ユーザーがポストしたくなる14のポイントが紹介されました。
そのうちのひとつに「回顧」があります。例えば人気シリーズのリメイクが発表された際に、オリジナル版をプレイしていたユーザーがその思い出などについてポストしやすくなります。他にも「共感したい」ときや、「笑い合いたい」ときなどにもポストしやすい模様です(最近では、スクウェア・エニックスの『インフィニティ ストラッシュ ドラゴンクエスト ダイの大冒険 』のリリースに合わせた「にんげんっていいな」のパロディなどが、「回顧」や「笑い合いたい」に該当する施策でXで広まりやすいものと言えるでしょう)。
データ分析を活用したコンテンツ運営戦略
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こうしたコンテンツ集客戦略において、実際にXを利用した事例をルーデルの吉永氏が解説します。ルーデルは、週刊少年マガジンにて連載中の人気サッカー漫画を原作としたソーシャルゲーム『ブルーロック Project: World Champion』を現在運営中であり、吉永氏は本作での集客を元にさまざまな戦略について語っていきました。
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まず吉永氏はルーデルについて「ルーデルはデータドリブンなゲーム運営を行う企業」だと説明。コンテンツの運営にあたって必要なデータをあらゆる角度で集計し、可視化したものを分析することで、最適な施策を行っていると解説しました。
運営側で集計するデータには、ユーザーの継続状況などのソーシャルゲーム運営の基本データはもちろん、「ゲーム内のヘルスチェック」や「課金と戦力値の相関関係」といったデータも。本講演のスライドで挙げられたものも一部でしかなく、さらに集計しているデータは存在します。
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こうしたデータ収集でもっとも重視されるのは、やはり課金してくれるユーザーです。ルーデルはこの課金ユーザーを「デシル分析」と呼ばれる手法で傾向を分析しています。本講演でのデシル分析とは、「直近90日以内の合計課金額順にユーザーを並べ替え、10分割にセグメンテーションし、これを軸にデータを分析する」という手法です。なお、関連する考え方として「パレートの法則(80:20の法則)」があり、ここでは「売上全体の80%は、20%の顧客が生み出している」ということを指しています。
吉永氏はデシル分析の利点として「過去のデータ分析を全体の傾向として見てしまうと、個人差があるためばらつきが出てしまう」ことや「データの鮮度が落ちやすい」といった問題に対応できることを挙げています。
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こうした課金ユーザーをデシルセグメントに分けたデータを元に、さまざまな施策を展開していきます。その一つに「ユーザーのアイテム保有状況の可視化」があります。
各ユーザーがキャラクターを育成できる余力をデータから分析し、アイテムで不足している量を計算。そこへ課金傾向の高いユーザーのデシルセグメントを考慮することによって、「アイテムの超還元祭」といったイベントを開催する施策を実行し、キャラ育成のアイテムを適切な量へ調整していくことができます。
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その他にはユーザーのトレンドもリアルタイムで把握していることも語られました。
ここでは「ユーザーがいま、どのキャラを気に入っているか」というトレンドを、各キャラの育成状況やゲームプレイでの使用状況のデータから分析します。「単にそのキャラ自体が好きで使うユーザー」と「クエストなどをクリアするために性能が高いキャラを使うユーザー」がいることから、こうした分析を採用しています。
このデータ分析をデシルセグメントの状況と掛け合わせて見ていくことで、ユーザーが欲しているキャラが獲得できるガチャイベントの施策などが考案されていきます。
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また、ゲーム内およびXにて、ユーザーによるキャラ使用状況のトレンドをレポートしていく手法についても明かされました。「今、このキャラが特に使われている」という情報を提示していくことで、他のユーザーが攻略するきっかけを作るなどの効果をもたらすといいます。
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さらにルーデルでは、ゲーム機械学習を導入することにより、詳細なデータ分析も行っているとのこと。商材設計のためのキャラステータスが戦力値に与える影響の分析や、予算策定のために売り上げを予測するモデル開発といった需要に応えるかたちでさまざまな機械学習の解析モデルを採用しています。
Xによるマーケティング戦略
このようにルーデルは詳細なデータ分析を武器にコンテンツの運営をしており、その延長戦としてXでのマーケティングも行っています。今回の事例である『ブルーロック Project: World Champion』では、原作漫画やアニメが人気であるがゆえに、「とにかく成功させなくては」というプレッシャーの中、「リリース前から攻めるマーケティングを行う方針だった」と吉永氏は振り返っています。
一般的には、『ブルーロック』のように原作やアニメなどで多くの既存ファンが付いているコンテンツには、プロモーションはあまり行わないそうです。
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しかし、ルーデルの場合は “攻めるマーケティング”を実行。それがXを利用したフルファネルマーケティングです。事前登録からローンチまで一貫したマーケティングを実施しています。
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事前登録の段階で、アニメ版声優のサインや原作漫画のプレゼントといったキャンペーンを実施したほか、CMのナレーションを誰が担当するかを募集するなど、ユーザーが参加しやすい施策を行っています。その結果、ローンチ時には50万人以上ものユーザーを獲得しました。
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さらにローンチ後には、サッカー日本代表 三笘薫選手とのコラボやライブ配信など、現実のサッカーとの連動施策も。同作がリリースされた2022年は、カタールワールドカップが開催され、Xでも試合の実況が盛り上がるなどサッカー熱が高まった年でもありました。リアルタイム性に強いXの強みを活かした施策の好例といえます。
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ユーザーが積極的に参加する施策として、フォローとリポストを生かした企画も実施されました。Xが人気のキーワードを表示するトレンド機能を利用し、ハッシュタグやゲームに関連するワードをユーザーがポストすることでトレンド入りを狙うというものです。こうしたアクションによって、ユーザーのエンゲージメント強化や、ゲームの認知度上昇という効果をもたらしています。
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またゲーム中に新たなキャラをリリースする前に、新キャラをシルエットで表現したり、パネルで姿を隠したりしたイラストによってユーザーに「このキャラが来るのか?」と推測させる試みも行っています。
Xで起きたさまざまな変化については賛否の声が上がっているものの、今回の中村氏と吉永氏による解説を聞くに、Xはコンテンツのマーケティングチャネルとしてはまだ有用であるといえるでしょう。むしろ、イーロン・マスク氏のスーパーアプリを作るための土台として活用されるというならば、Xはマーケティングチャネルとしての価値を高めていく運営方針を推し進めるのかもしれません。