歴史シミュレーションのAIに求められるのはどういったことなのでしょうか。株式会社コーエー ソフトウェア本部 ソフトウェア2部シニアリーダーである入江 禎之氏は、歴史シミュレーションゲームに存在する課題を「ある時点でユーザーの勢力に対抗できる勢力がなくなってしまうこと」であると語ります。同社の歴史シミュレーションは自由度が高く、ユーザーはどんな弱小勢力でも選択できます。どんな展開になるかはユーザー依存であり、通る道筋も決まっていないため「RPGのようにだんだんボスを強くするわけにはいかない」のです。その一方で、ユーザーが簡単に最強勢力になれるとモチベーションが低下するという問題も存在しています。これを解消するために求められるのは「ユーザーに負けないスピードで勢力を拡大するAI」。AIが同格の勢力を持つことで、新鮮みや緊張感が持続できるというわけです。そのために必要なのは、ゲームの特徴を見極め、それにあわせたAIを設計すること。『信長の野望・革新』では技術の獲得に最も時間がかかるため、AIもこれを最優先するようになっています。技術を円滑に取得するため、「金銭系の施設を最優先」とし、次に「技術の研究中に、次の研究に必要な学舎を建てる」という判断をさせることで、研究中という状態を常に途切れさせないようにし、スムーズな勢力拡大を可能としています。また、勢力ごとの個性化と雰囲気作りも重要となります。武田なら騎馬隊、など勢力のイメージに合わせた戦力を重視するようにAIを設定するほか、能力の低い大名の場合、あえてAIを非効率にするということも行われているそうです。また、武田信玄が姫を要求しないなど「ゲーム内で表現可能な史実はできるだけ表現する」ことでも雰囲気を追求しているそうです。入江氏が最も重視するのは初心者。初心者がゲームに躓かないようにするため、『信長の野望・革新』ではAIに制限をかけて手加減させています。拠点数や兵力に上限を設けてユーザー以上に勢力が拡大することを抑制するほか、拠点攻略を簡単にするため、改築や援軍も大幅に制限しているそうです。すべての判断を逐一行っていたのでは負荷も相当なものとなります。『信長の野望・革新』ではコマンドの必要度に応じて判断を行う頻度を変え、判定するアルゴリズムの数を抑制することでこれに対応。「処理がコールされた回数」「最も多くかかった処理時間」などのデータを実際に表示させることでボトルネックの発見に努めているそうです。また、想定外の動きがあってもすぐに調査できるようなオートセーブ、コマンドを実行したか否かを理由付きでテキスト出力するログ、人間が関与しないデモプレイなどでデバッグの効率化が図られています。入江氏はAIの強さを「設計者がプレイした際のせいぜい7割」であると語ります。優れたAIを作るには普段から攻略法を見極める力を養うことが重要。なぜならゲームの数値を変えるだけでもベストなアルゴリズムが変わるからだそうです。氏は「AIの完成度が低いとどんなよいシステムも台無し。勝算を持った上でシステムを決めるのが大切」と結論づけました。
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