今回から始まったコラムでは、自身の経験も交えてコンテンツの現在、過去、未来の迷い道を歩いてみたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、初回のテーマはコンテンツ枯れすすきと銘打ちました。
ついこのあいだまで輝いていたコンテンツが今はすこし翳ってゆくのを感じることはありませんか?
そうですね。例えば映画業界です。特にその傾向が顕著なのは「洋画」配給関係です。僕自身もかつてギャガコミュニケーションズ(現在のギャガ)に所属していましたが、当時は洋画全盛期で劇場のブッキング方式も今ほどの自由度がなく、従来型の護送船団方式(いまも部分的にそうですが)でした。
しかし、時は移り、かつて時代を謳歌した洋画ビジネスに陰りが見えるようになりました。
この数年、ハリウッドではヒット作品の続編ばかりが目につきます。というか、それ以外の作品はとても目につきにくいシステムになってしまいました。おそらくその問題の根源にあるのは視聴者・観客側のスタイルの変化があげられると思います。
かつては映画館で感動を共有することが映画を鑑賞するということでした。ある意味では儀式めいたもので、決められた時間に、決められた場所で、場合によっては席まで決められたものでというスタイル(様式)の共有が前提でした。
しかし、ダウンロード型の視聴方式が一般化し、視聴するためにツール関係(モニターの大型化、光インフラなど)の普及に伴い、劇場に足を運ぶ意味が徐々にですが希薄になってきました。
それに拍車をかけたのが、続編仕様です。作品それぞれには製作者の愛があるのですが、まず劇場公開に漕ぎつけるのが大変な世の中になりました。特に日本では中小規模の映画館が年々減少して、映画のヒットサイズに応じてサイズを変えることのできるシネコン型スクリーンが増えてきました。これによって、小さい映画も公開されるチャンスも増えましたが、さきほどの儀礼的な部分で言えば、辺鄙な劇場でしか公開されないという事象もあり、公開=ヒットのチャンスという図式はもろくも壊れて行きました。
そこに拍車をかけたのがiTunesやアマゾンなどの大手ポータルと呼ばれる第5のパワーシフトです。第1が劇場での映画公開、第2がテレビ放送、第3がDVDなどのパッケージ、第4が衛星放送などのデマンド、そして、第5はポータルでのダウンロード販売です。すでに店舗にDVDなどをレンタルしに行くこと自体が行為としてのめんどうくささを感じている顧客が多く存在しています。宅配レンタルがシェアを伸ばしている環境も理解できます。おそらく高齢化が進めば、さらにこの構造に拍車がかかることでしょう。
このような総合的な環境によって、自らのためにと思ったシステムやインフラが今となっては自らの首を絞めてしまったようなカッコになってしまいました。かつてはハードはその規格を左右する力をもっていたハリウッド系コンテンツサプライヤーたちも、コンテンツダウンロード、デマンド型が普及すればするほど自分たちのもっていた既存権益が削ぎ取られていくことを感じていると思います。
視聴方法、習慣というスタイルが変わったことが大きく影響しています。とは言え、オイルマネー、投資マネー、メディアマネーへと依存をして成熟を重ねてきたハリウッド系コンテンツサプライヤーが無くなることはありません。つきはポータルマネーに頼ることになるでしょう。そして、またそこから新しい映像カルチャーが生まれてくると思います。そんな背景を基にDVDでザッカーバーグ自伝映画の「ソ−シャルネットワーク」(監督 デヴィッド・フィンチャー)を観るとまた違った観方ができると思います。
追記※今回を皮切りに連載をスタートして参ります。ご高覧ありがとうございました。次回以降、ゲームに限らず映画、音楽、などのコンテンツカルチャーに関して思うところを書かせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
■著者紹介
メディアコンテンツ研究家
1960年・東京都生まれ。武蔵大学卒。レコード会社を経て、株式会社ギャガコミュニケーションズ(現・ギャガ)、株式会社セガエンターピライゼス(現・セガ)、株式会社デジキューブを経て株式会社デックスエンタテインメントを起業。映画製作配給、オンラインゲーム企画開発運営に携わる。その後株式会社ブシロード副社長、株式会社コナミデジタルエンタテインメントを経て、現在は株式会社NHNジャパンにてオンラインゲームの企画開発運営に携わる。一方で数々のエンタメ産業への造詣が深くメディアコンテンツ研究家としてコラム執筆を行う。ブログもご参照ください。Twitterアカウントはku6kawa230。