そして、何よりもスケールを感じさせるのは、この映画が『ファイナルファンタジーXV』のための予告編だということだ。
ゲーム会社が主導するゲームテーマの作品は様々である。成功しシリーズ化したもの、製作はしたものにあまり成功しなかったものなど多様だ。しかし、本作はゲーム云々を抜きにしても世界に通用するレベルの作品に仕上がっている。ちなみに、ハリウッドで実写系CG映画があまり促進されないのは俳優組合(SAG:スクリーン・アクターズ・ギルド)の力が強く、CGキャラが自分たちのポジションを奪う日が来るかもしれないという予防線があるのかもしれない。その中で日本が主導して実写系CG映画を製作することはニッチではあるが市場性は十分にあると思う。
さて、今回のコラムは歴史のなかで消えそうになりつつあるゲームと映画の関係をお伝えしよう。私がセガ(当時:セガ・エンタープライゼス)に転職する前の1980年代の後半から90年代の前半までギャガ(当時:ギャガ・コミュニケーションズ)で映画配給宣伝の仕事をしていた。
80年代の後半になり、ソニー独自のBETA(ベータ)方式陣営と、ビクターとパナソニックが主導したVHSカセット方式陣営での規格争いの軍配がVHSに上がり、さらにハードの量産化が促進されたことで、ビデオレンタルブームが突如として発生した。
当時のビデオレンタル料金は500円程度がザラで、要は粗利が大きいことから、脱サラしてビデオレンタル業を始めた店舗が多かった。それは、まだCCCことTSUTAYAが東京進出を控えて、本社機能を大阪に置いていた頃の話だ。
ビデオソフトのコンテンツ面では、とにかく出せばレンタル市場で回る(レンタルが回転する)ということで、今だったら絶対に日本では公開されないような低予算映画やマニアしか観ないような映画やテレビドキュメンタリーがビデオ化されて市場に出回った。なかには「未公開作品」という怪しげなプレミアム銘柄を付けて「在庫」で販売のあてがなかったソフトを世に流通させた時代でもあった。ゆえに日本では世界でも珍しいくらいに貴重で稀少清濁併せ飲んだような作品が今も観ることができる。
そしてその頃、異業種からもビデオ=映画への参入が相次いだ。代表的なところではナムコ(当時)だった。中村雅哉社長(当時)がもともと映画好きだったこともあり(後年、中村氏は映画会社「日活」を買収する)ナムコがギャガと組んで、カルト映画の巨匠ロイド・カウフマンを監督として起用。「カブキマン」という作品を製作することになった。
ロイド・カウフマンは、「悪魔の毒々モンスター(1984年)」シリーズで有名になった監督で、有り得ないようなキャラクター、グロ、ゲテ的な特異な世界観嗜好を映画化するクリエイターで、カルト映画監督として名を馳せた。「カブキマン」の、日本での映画公開は1990年。当時、私はギャガでパブリシティなどの宣伝責任者だったため、このカルトで、すごくクレイジーでストレンジな作品をどのように売るか(知ってもらうか)を考えていた。
一つ目のウリが…
1. 従来の映画会社ではなくゲーム会社のナムコが出資して製作した初作品だということ。
二つ目は…
2. 作品名は「カブキマン」だが、日本文化を越えてある意味でどこの国のものかわからないくらいに倒錯した作品ということ。
そして三つ目が…
3. 作品内容があまりに酷すぎて日本国内で劇場公開が出来ないのではないか?
ということを中心に売ることにした。
すると、某スポーツ新聞のデスクが「カブキマン」を面白がってくれて、記事として大きく取り上げてくれた。
その朝の見出しは「ナムコ初製作映画『カブキマン』お蔵入りの危機!?」
我ながら宣伝マンとして「うーん、ここまで記事になれば話題性もあって認知も進むし、劇場との配給営業もばっちりだな」くらいのことを思っていたら、その日の午後になって社長室に呼び出された。
「ナムコの中村社長が記事にカンカンだ!謝罪しないといけない。すぐに『経緯書』と『謝罪文』書け」と言われた。
おお、そうなのか!?ええ、そうなんだ!?まずいなあ…シャレが通じなかったか…と。
「承知しました。申し訳ありませんでした。」
ということで、映画業界に居ながらにして謝罪文を書いて中村社長にお渡ししたのは私が最初で最後だろう。ただ、結果オーライとして、幸い「カブキマン」はレイトショー公開が実現。その後レンタルビデオとしても十分回転し活躍し、製作費以上のものをもたらしてくれた。ただし、後に自分がゲーム業界と関わることになるとは全く想像していなかった。
いずれ消えゆく歴史の中で、人生は小説よりも奇なり。
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■著者紹介
黒川文雄
くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDEにてゲームソフトビジネス、デックス、NHN Japan(現LINE・NHN Playart)にてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。「ANA747 FOREVER」「ATARI GAME OVER」(映像作品)「アルテイル」「円環のパンデミカ」他コンテンツプロデュース作多数。