坂本龍馬?それともカツオのたたき?酒豪が多いイメージ?
そのどれも間違いありません。なぜなら筆者が同県に取材に訪れた際、高知駅前には坂本龍馬先生の銅像があり、その目の前でカツオの藁焼き体験、はてにはべろべろの神様もいましたから。
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……という冗談はさておき、高知県では3年ほど前からIT・コンテンツに関連する企業の誘致に注力。その努力の甲斐もあり、2018年12月までに同県に18社が進出しています。その内のオルトプラス高知、アボカド、SHIFT PLUSはゲーム事業をメインにすえる企業で、インサイドでは過去にSHIFT PLUSを除く2社にインタビューを実施していました。
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この3社の中で最も早く高知県に拠点を構えたのが、SHIFT PLUS。同社はスマートフォン向けアプリゲームのQA(品質保証)/CS(カスタマーサポート)のサービスなどをワンストップで提供しており、業界未経験者や海外からも積極的に人材を採用、2015年4月の設立から3年ほどで従業員数が130名までに拡大。その他の地域より10年高齢化が進んでいると言われる課題先進地高知県で、ゲームの仕事で若者の雇用を創出しており、まさしく同県の活性化に貢献している企業と言えるでしょう。
今回インタビューに答えてくれたSHIFT PLUSの代表である松島弘敏氏は、SHIFT PLUSの大株主であり生みの親の一社であるSHIFTに新卒で入社し営業や採用を10ヶ月ほど担当。そんな折にもう一社の生みの親であるオルトプラスとSHIFTの合弁で高知に会社を設立することになり、その代表を募集する社内公募に自ら手を挙げたことを機に高知県に移住、経営を手がけることになったのです。
「地方が豊かになれば国民全体が豊かになる」と熱く語る、縁もゆかりもない土地に飛び込んだ若き経営者の見据えるビジョンとは?
また同社のサービス「AICO」の担当で、「ゲームに救われた」という根っからのゲーマーである上村さんにもお話を伺いました。
本稿では、お二人のインタビューとSHIFT PLUSの社内風景をお届けしていきます。
【取材・構成】山崎浩司
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ーー上村さんのご出身は高知県だと伺いました。
上村はい、生まれも育ちも高知県です。
ーー高知県では就職で県外に出るパターンが多い、と聞いたのですが、大学卒業後にSHIFT PLUSに入社されたのでしょうか?
上村東京で就職しようと思っていたので4ヶ月間だけ上京してシェアハウスに住んでいたのですがホームシックになってしまって……東京は人が多すぎるというのもあってすぐに帰ってきました。やはり高知は住みやすいです。
ーー高知に戻ってきて就職活動されたと思うのですが、真っ先にSHIFT PLUSが目に付いた感じですか?
上村そうではなかったです。高知に戻ってきた時点で就活も終盤で、私は来年頑張ろうと思って諦めていました。卒業後もそんな状態がズルズルと2年くらい続いていまして。目指していた職業もあったんですが紆余曲折あって、その夢は叶いませんでした。
挫折と絶望感で酷く落ち込んだのですが、そのとき自分を救ってくれたのが「ゲーム」でした。
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ーーゲームが上村さんに寄り添ってくれたのですね。ちなみに上村さんを救ってくれたタイトルはなんだったのでしょうか?
上村『イケメン革命』という「イケメン」シリーズのソーシャルゲームです。思えば自分の人生って本当に「ゲーム」だなあと。もともとゲームが好きすぎて学生の時に2年間くらい不登校になっていたんです。
ゲームって凄いじゃないですか。勇者になれるし、男性からもモテる。現実世界では無理でもゲームの世界では何でもできる。その頃から、私もゲームに携わりたいと思うようになりました。
――そんなときに出会った企業が……
上村SHIFT PLUSだったんです。私の経験から、自分もゲームを通して人の生活を楽しく豊かにしたい、幸せにしたいと考えるようになりました。高知県に貢献したいと言う気持ちもあったのですがまさか生まれ育ったこの場所にゲーム企業なんかないだろうなと思っていたのですけど…(笑)
ホームページに掲載されていた「高知からゲームを熱くする」というスローガンを見て、この会社だったら自分のやりたいことが実現できるんじゃないかな、と迷いなく応募しました。
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ーー上村さんの地元に貢献したい、という思いとゲーム業界に就職したいという思いが叶ったわけですね。おめでとうございます!
上村ありがとうございます!
ーーSHIFT PLUSと上村さんの運命的な出会いに胸が熱くなりました。ここからはお仕事の話を。現在はカスタマーサポートを担当されているということですが、どのような内容なのでしょう?
上村カスタマーサポート商品の中でも「AICO」というチャットボットの制作に携わっています。チャットボットというのは、人間が入力した質問内容に対して自動的に回答するというシステム。チャット形式なので、お問い合わせがメールより気軽ですぐに返答がくる、というのが強みなのですが、自動的に回答を行うためには事前に人間の手でQ&Aを作成しなくてはいけません。私は、そういった学習データの作成を行っています。その他にも、運用中のチャットボットのログを分析して毎日ブラッシュアップを行ったりして、クライアント様への改善の提案などをさせていただいています。
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ーー分析作業など色々な作業があるんですね。クライアントは東京の企業なのでしょうか?
上村そうですね、結構頻繁にやりとりがあって、私の担当案件だと週に1回1時間半程度ビデオ会議ツールでミーティングがあります。東京のお客様と定期的にコミュニケーションを取ることによってニーズをキャッチすることが出来ています。
ーーなるほど、高知にいながらでも東京の方々とスピード感ある仕事が取り組めているのですね。上村さんは高知のどういうところが好きですか?また、こうなったらいいのに……というポイントはありますか?
上村もちろん混雑する期間はあるんですけど、人が少ないところが気に入っています。あと、よく言われるのが空気と食べ物が美味しいという所。会社が移転して遠くなってしまったんですけど、昔はひろめ市場にもご飯を食べによく行っていました。
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こうなればいいのにな、というのは東京まで5分で行けたら良いのになって(笑)。クライアント様とはビデオ会議でコミュニケーションが取れるんですが、それでは齟齬が発生することも少なからずありまして。直接だったら自分たちが考えていることや思いが、身振り手振りなども交えてきちんと伝えられたんじゃないかなと思うことはあります。
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最後に「もし高知県にSHIFT PLUSが設立されていなかったら?」と質問したところ「高知では働いていたと思いますが、ゲームを通じて誰かを幸せにするという夢は叶っていなかったでしょうね。」と答えてくれた上村氏。「ゲームが人生を豊かにする」というのを上村氏のお話から垣間見ることができました。
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ーー松島さんはSHIFT PLUSの立ち上げで縁もゆかりもない高知県に飛び込んだと伺っています。このあたりの経緯を伺ってもよいでしょうか?
松島出身は大阪で、京都の立命館大学に通っていました。卒業後は東京のSHIFTで10ヶ月くらい働いていまして。当時は営業や採用を担当していたのですが、SHIFT PLUSを設立することになって、同期の新卒が13人いたんですけど、その中で「社長をやりたい人いますか」と社内公募があって。そのときに手を挙げたのが始まりですね。今は高知に移住してきて3年半といったところです。
ーー入社10ヶ月の新卒が社長に立候補……というとプレッシャーも大きそうです。当時の心境はどのような感じだったのでしょう?
松島単純に心がワクワクしていましたね。当時の事業構想はQAとCSをワンストップでやって、そこから運営の方も引き取ってやっていきますよというビジネスを考えていたんです。
それで、高知に来て経営してみると地方の現状が見えてきまして。過疎化や高齢化が進んで……というのもあるんですけども、一方で「楽しそう」なんです、地方の人って。
ーー私も地方の拠点で働いていたことがあるのでよくわかります。そういった方を多く見てきました。
松島幸福度って地方だから減るということはなく、むしろ都市部の人よりのびのびと生きている。だから、東京みたいにワクワクする仕事が地方にもあれば、人生の中の幸福度が上がる人がもっと増えるんじゃないかなと。仕事をバリバリしたいけど、地元で選択肢がないから都市部に行く例っていっぱいあるじゃないですか。それって幸福度が最大化されてないと思うんです。
なのでまずはSHIFT PLUSが一地方である高知で事業、会社を大きく成長させ、ワクワクする仕事をいっぱい生むことで地方が持つ可能性を証明したいです。そしてそれに続く人や企業が全国、果ては日本のように都市部と地方で仕事の選択肢に大きなGAPがある国で沢山出てきて、やりたい仕事がやりたい場所でできるという世界の実現に貢献していきたいです。
私自身、最初は単純に新しいビジネスにチャレンジするということにワクワクしていたのですが、高知に来たことで上述したような自分の人生を懸けてやり遂げたいテーマが、見つかったんです。しかもこの社会課題解決をやろうとしているプレイヤーが少ない、一方で都市部は他の課題解決に対してプレイヤーがいっぱい集まっている。じゃあこの課題に関しては自分が地方から取り組むべきだ、という使命感が芽生えてきたという感じですね。
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ーー松島さんの熱い想いがよくわかりました。高知に来てみて、ここが良いなと思うところと、課題だなと思うところはありますか?
松島アドバンテージがあるなと思うのは、さっきも言ったようにプレイヤーが少ないところです。なにかちょっとでも新しいことをやったらすぐ目立てる。そして、ちゃんとそれを伝えれば理解者や協力者が現れてくれるので、ビジネスが進めやすいんですよね。
例えば高知県庁さん。「新しくこういうビジネスをやりたいんです」という相談をしたら、全力でご協力いただけるんです。新しいことを始めようとする人が少ないからこそ逆に、意志さえ持って行動していればチャンスが凄くあるな、と思います。
とは言え、裏を返せば人が少ないということですので、ビジネスを拡大していきたいということであれば課題になります。なのでチャレンジして結果を出し県外にもしっかりとアピールすることで、SHIFT PLUSまたは高知に興味を持ってくれる方を増やし、そういった方々にどんどんアプローチし、仲間に引き込んでいく。それでさらにまたビジネスが大きくなっていく、という循環を創っていきたいです。
それを私たち一社だけではなく、他の県内企業や行政の方々とタッグを組んでやることで、より大きなムーブメントにしていく、高知にはそういった形で「高知のために」という大義の元、企業間、行政の垣根を越えて、協働しやすい基盤があります。
ーー現在、SHIFT PLUSは設立3年で130名の規模にまで成長されています。採用の秘訣などあるのでしょうか?
松島メッセージを伝えることが大切だと思っています。地方はハローワークが中心なのですが、求人情報って無機質じゃないですか。働いている人の顔が見えなかったり、その会社の文化が見えなかったり。だからうちの会社ではハローワークの求人の他にも、出来るだけ頻繁に会社説明会や見学会をやったりして、人事や従業員と直で触れ合ってもらって、会社のカルチャーや価値観を伝えて「なんかこの会社は他の会社と違うな」というところをアピールできるようにしています。
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ーー社内を見学させていただいた際に、海外の方もお見かけしました。
松島今はバングラデシュと中国のメンバーがいます。
バングラデシュのメンバーは、JICAがやっているプログラムを利用し現地の国にいって直接採用してきました。バングラデシュは人口が1.6億人くらいいるのですが、仕事がぜんぜん足りていないんです。反面、日本は労働力人口が減っていくいっぽう。
そこでJICAでは、IT系エンジニアの方に日本語教育をして日本国内の仕事を斡旋するというプログラムが進められています。そのプログラムを利用し、僕も現地に赴いて、30名位の面接を行って2人採用させていただきました。
中国の方は高知求人ネット(*)経由ですね。もともと、大阪のゲーム会社で働いていた方なんですけど、恋人が高知出身ということで。高知には「嫁ターン」っていうのがありまして、彼女が戻って来られるのと一緒に来られたんです。それで高知で仕事を探していたところを、高知求人ネットで弊社と出会って入社してくれました。
(*)高知県が運営する求人情報サイト https://syoukei-jinzai.jp/kochi-kyujinnet/
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ーー海外の方は、高知に来て働いてみてどういう感想をお持ちなんでしょうか?
松島バングラデシュ人の二人は、すごく楽しいって言ってくれていますね。もちろん、故郷が恋しくなることもあるそうなのですが、もともと日本へのあこがれが強い方だったので。それに加えてみんなとすごく打ち解けているというのもあって、楽しく過ごしてくれているみたいです。
あと人の少なさでも高知はすごくあっているようです。バングラデシュってとにかく人が多くて。特に首都ダッカの人口密度が世界一高いくらいの勢いなので、日本に興味はあるけども人の多い東京よりは地方の方が良い、っていう2人だったんです。会社説明会を現地でやったときにも、SHIFT PLUSが目指している経営理念にすごく理解を示してくれて。「地方を盛り上げて、ストレスのない住環境で仕事に打ち込めたほうが良いよね」って話に凄く同意してくれて。
ーー確かに、東京だと人が多いからバングラデシュにいるのと変わらないかもしれませんね。
松島それだったらもっと別の所に行きたいと思いますもんね。そういう思考があるって面白いなって思いました。
ーー一方で、U・Iターンした従業員の方の声はいかがでしょう?
松島もちろん、働きやすい、住みやすいなどの声はあります。新規事業の人材メディア「BUNTAN」のマネージャーもIターンなんですが、最初は自然に囲まれた中で仕事がやりたいと言って入社したんです。今では地方の課題が見えてきたようでそこから生まれたのが「BUNTAN」ですね。地方はビジネスが出来ないのではなく、やろうとしていた人が少なかっただけで、その種となるものはいっぱいあるんです。
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ーー課題がビジネスになり得る、という典型的な例ですね。1階のbridge+では様々な交流も生まれていると聞いています。
松島社員からも好評ですね。あそこでみんなランチを食べたりして。あと、一週間に一度くらいゲーム交流会をやっているんです。そこで部署の垣根を超えて色んな人が集まって楽しんでいます。あとはたこ焼きパーティーやったりとか、確実に交流促進になっていると感じています。それは社内でもそうですし、社外の方々との交流もそうです。行政の方々を集めての高知の課題に対する共同勉強会とか、県外のITコミュニティのリーダーの方々が集まる会とか、クライアント様によるセミナーとか、いろんな形で活用できています。
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ーーまさしくbridge+が交流のハブになっていると。「上場を目指している」ともお聞きしたのですが、その先にあるビジョンを伺えますか。
松島上場はあくまで手段、通過点です。目指しているのはSHIFT PLUSがビジネスでしっかりと成果を出すこと。それこそ、10億、100億としっかりと利益を出して、世の中に広く認めていただいて、地方でもビジネスが作れること、会社を大きく成長させることができるという可能性を証明をしたい。
人口や年収・高齢化率などビジネス的に不利な高知でできれば、全国どこでも出来ますからね。繰り返しになってしまいますが、SHIFT PLUSが成功することによって、色んな地方の起業・企業活動を活発にして、地方にいろんな職種やキャリアが生まれて、自分が働きたい場所でキャリアを追求できる社会を作っていきたいですね。
今は都市部に選択肢が限定されていて、いろんな不幸が起きているじゃないですか。満員電車とか人が多すぎて、どう考えても人口比率がおかしい。それを整えたいんです、僕は。
もっと地方に仕事があれば人が各地にバラけて、そのことでみんなの生活がより豊かになるはずなんです。それを実現したい。そういった世界を実現するためには世の中に広くインパクトを与えないといけないですが、上場はそのためのひとつの良い手段だと思っています。
ーーうーん、熱い。松島さんのお話から地方の可能性を感じました。これが最後の質問なのです。松島さんのその情熱はどこから湧いてくるのでしょうか?
松島僕は、自分の人生を幸せに生きるためには「自分が正しいと信じることを、自分の意志で、やり通すこと」が大切だと思っています。SHIFT PLUSを通してやりたいビジョンが社会にとって必要かつ、今の僕がやるべきことで、それができると信じています。
なのでこれをやり通せれば、多分死ぬときにはいい人生だったなって心の底から思えるんじゃないかなって。要は自分の人生や幸せとSHIFT PLUSを通してやりたいビジョンが重なりあっているので、活動すればするほど情熱的になるのだと思います。
ーーありがとうございました。
冒頭の質問をもう一度読者の皆さんにお聞きします。高知県といえば何を思い浮かべますか?
筆者はこれまでの取材活動を通じ「チャレンジができる、チャレンジする人を応援してくれる環境のある熱い地域」という印象を持ちました。そしてその中心にゲームがある。ゲームは人を、地域を救う可能性のあるエンターテイメントなのです。
SHIFT PLUSのチャレンジが高知県を盛り上げ、その盛り上がりを見た別のチャレンジャーが地方をまた盛り上げる。この連鎖が生まれた時、松島氏が言う「地方でビジネスが生まれると国民全体が豊かになる」ことが証明されたことになるでしょう。筆者もその瞬間を見てみたい。インサイドでは、これからも地方のゲーム事情に関する取材に注力していきます。