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ゲーム制作は、原材料というものを必要としません。
それ相応のスペックのPCとオンライン環境、そして知識さえあればいつでもどこでも始められる産業で、作品を配信する際も今や「ソフト」を作る必要もありません。また、ゲームイベントやeスポーツ大会は若年層から常に注目されています。
そのような特徴を生かして少子高齢化著しい地域を活性化させよう! という取り組みも行われています。
今回はCEDEC 2023に登壇したNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)理事・蛭田健司氏の講演『全国に拡大中! ゲームによる地方創生の最新事例とゲーム開発者ができること』から、「ゲームと地方創生」について見ていきましょう。
ゲームで地方を蘇らせる
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IGDA日本は、ゲーム産業の盛り上がりを地方都市に伝搬させる取り組みを積極的に行っています。
日本は世界各国と比較しても非常に早いペースで高齢化が進んでいます。同時に地方から大都市圏に若年人口が流れてしまうという問題もあります。では、なぜ若者は東京や名古屋、大阪、福岡を目指してしまうのか? それは若年層にとっての魅力的な産業が地元にはないという要素が大きくあります。
そこで、「ゲームによる地方創生」を主旨にしたプロジェクトが意味を持つようになります。具体的には、
・ゲームイベントによる経済活性化
・ゲーム産業の立ち上げ、誘致
というふたつに分けられますが、どちらもモノづくりの工場のような大規模投資が不要で、さらに今この瞬間もゲーム産業の中に新たな職種が登場し続けています。ゲーム実況者やeスポーツ選手などが好例です。
また、ゲーム作品を使ってその地域をPRすることもできます。
ゲームを活用した啓蒙活動
2019年に焼失した沖縄県の世界遺産首里城。現在復興が行われているこの文化遺産への興味を喚起するためのゲームイベント『首里城復興AR謎解きラリー』が、この講演で取り上げられました。
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「首里城のような文化遺産は、単に立て直せばいいというものではありません。若い人たちに首里城、そしてその復興に興味を持ってもらい、文化を次の世代に継承する必要があります。しかし、その意義だけを掲げるだけではなかなか人は動きません」(蛭田氏)
だからこそ、ゲームを通じて自然に「首里城復興の意義」を学べるような仕組みが求められます。
このような文化財保護のためにゲームを活用する取り組みの他、避難訓練にもゲームの要素を取り入れようという動きも。大阪府で実施された『エンタメ系避難訓練』は、「ゾンビから逃れるために高台へ避難する」という体験型ゲーム。これは津波の到来を想定した避難訓練を兼ねており、若年層に対して防災意識を啓蒙するイベントとして大いに注目されています。
地方テレビ局の影響力
TBSテレビ特任執行役員でもある蛭田氏は、「JNN系列局(TBSテレビをキー局とするニュースネットワーク)でゲームについて取り上げる」という内容の取り組みも行っています。
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一例を挙げると、SBS静岡放送では「ゲーム盛り上げ番組の制作」「SBS公認VTuberによるゲーム実況」「eスポーツ大会へのアナウンサー派遣」を実施しています。
筆者自身、静岡市に在住しているため「地元テレビ局の影響力」というものが極めて大きい事実はよく理解しています。首都圏にも中京圏にも入らない静岡市で信頼されているメディアはまず第一にNHK、第二に地方新聞、そして第三に地元テレビ局。それ以外のメディアは、敢えて悪い言葉を使えば「番外地」です。そのため、「SBSで取り上げられる」ということは「静岡市民にゲーム産業について知ってもらう」という意味で極めて大きなきっかけでもあります。